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H₂ブロッカーは腎機能に注意が必要?
公開. 更新. 投稿者: 8,577 ビュー. カテゴリ:腎臓病/透析.この記事は約4分32秒で読めます.
目次
腎機能とH₂ブロッカー―高齢者・腎障害患者への使い方と注意点

胃酸分泌を抑制する薬剤として、H₂受容体拮抗薬(H₂ブロッカー)は長年にわたり臨床の現場で用いられてきた。近年は、強力な酸分泌抑制効果を持つプロトンポンプ阻害薬(PPI)が主力となったが、腎障害、薬価、長期使用による感染症リスク回避などの理由から、H₂ブロッカーが今なお適応となるケースは少なくない。
しかし、H₂ブロッカーは多くが腎排泄型の薬剤であり、腎機能に応じた用量調節が必要である。腎機能とH₂ブロッカーの関係、薬剤選択、特に高齢者・透析患者における注意点について詳しく勉強する。
H₂ブロッカーはなぜ腎機能に注意が必要なのか?
● ほとんどが未変化体で腎排泄
H₂ブロッカーの多くは、代謝をあまり受けず未変化体のまま腎臓から排泄される。
代表的なH₂ブロッカーの腎排泄性は以下の通り。
| 一般名 | 商品名 | 代謝タイプ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ファモチジン | ガスター | 腎排泄型 | Ccrに応じ減量必要 |
| ニザチジン | アシノン | 腎排泄型 | 慎重投与 |
| シメチジン | タガメット | 腎排泄型 | 薬物相互作用も多い |
| ロキサチジン | アルタット | 腎排泄型 | 高齢者は慎重 |
| ラフチジン | プロテカジン | 肝代謝型 | 腎障害でも減量不要だが透析は注意 |
添付文書でも、全てのH₂ブロッカーが「腎障害患者に慎重投与」となっている。この理由は、腎排泄に依存する薬剤では、腎機能低下によって血中濃度が上昇し、中枢神経症状(せん妄、意識障害、けいれん等)や血液障害(好中球減少・汎血球減少)などが生じる可能性があるためである。
H₂ブロッカーの代替としてのPPIとの比較
同じ酸分泌抑制薬であるPPI(オメプラゾール、ランソプラゾール、タケキャブなど)は主に肝臓で代謝され、腎排泄依存度は低い。
そのため腎障害患者では、PPIがより安全と考えられることが多い。
● ただし、PPIにも注意点あり
問題点
・過剰な胃酸抑制:C. difficile感染、肺炎、骨代謝異常など
・慢性腎臓病(CKD)との関連:PPI長期使用と腎機能悪化の相関が報告
・低Mg血症:長期使用で問題となる
「腎障害だから無条件にPPI」ではなく、患者背景に応じた慎重な選択が必要である。
腎障害患者に使いやすいH₂ブロッカーはラフチジンだが…
● ラフチジン(プロテカジン)の特徴
特徴
・代謝 主に肝臓で代謝
・腎排泄割合 約20%
・Ccrによる減量 不要
・透析患者 血中濃度2倍 → 注意
● ラフチジンは「腎障害でも減量不要」という認識の落とし穴
薬物動態では、
・Ccr20~60 mL/minの中等度腎障害では血中動態に差なし
・透析患者ではCmax約2倍、T1/2約2倍、AUC約3倍
→ つまり、透析レベルの腎障害では蓄積リスクがある。
さらに、ラフチジンによる精神神経症状(興奮、せん妄、不眠など)の報告も存在する。
腎機能低下患者には使いやすいが、透析患者には慎重投与が必須。
高齢者にH₂ブロッカーは安全か? ― ガイドラインが示す注意点
● 高齢者ではなぜリスクが上がるのか?
・加齢により腎機能は自然に低下
・80歳では平均Ccr ≈ 60 mL/min前後
・腎排泄型薬剤は蓄積しやすい
● ガスターの例(ファモチジン)
Ccrと用量
・60 以上:常用量
・60 未満:減量必要
● 高齢者ガイドライン(日本老年医学会)
・認知機能低下、せん妄のリスクあり → H₂ブロッカーは可能な限り避ける
・腎機能が低下しやすく、腎排泄型薬剤は少量から慎重投与
つまり、高齢者にH₂ブロッカーを投与する際は、腎機能を必ず評価し、必要に応じて減量するか、ラフチジン・PPI等の代替を検討する。
腎障害患者で胃もたれ・嘔気が多い理由
慢性腎不全患者では、
● 消化器不定愁訴が多い
・胃炎
・食欲不振
・嘔気・嘔吐
・上腹部不快感
● 背景要因
要因
・尿毒症性胃炎:尿毒素により胃粘膜障害
・胃腸運動低下:CKDによる自律神経障害
・胃酸分泌変化:CKDで胃酸分泌が不安定
・薬剤:リン吸着剤、降圧薬など
結果として、腎障害患者ではH₂ブロッカーが処方されやすい環境が整っている。
→ 使う機会が多いからこそ、用量と薬剤選択が重要となる。
臨床での薬剤選択と投与設計
● 腎機能に応じた考え方
腎機能
・Ccr > 60 どのH₂ブロッカーでも常用量
・Ccr20〜60 減量 or ラフチジン
・透析患者 ラフチジン少量から慎重投与 or PPI検討
・長期投与 感染症リスクからPPI継続よりH₂ブロッカーが有利な場合も
● せん妄・認知症患者では?
・H₂ブロッカーよりPPIの方が安全な場合がある
・特にタガメット(シメチジン)は中枢副作用・相互作用が多く、避けるべき
まとめ ― 腎障害とH₂ブロッカー、安全使用のポイント
ポイント
・多くのH₂ブロッカーは腎排泄型:腎機能に応じて減量
・ラフチジンは例外的に肝代謝:透析では濃度増加 → 少量
・高齢者は自然に腎機能低下:投与前にCcr評価を
・せん妄・精神症状リスク:中枢移行に注意
・PPIも万能ではない:長期リスク・腎障害との関連
結論:腎機能を評価し、患者背景に応じてH₂ブロッカーとPPIを適切に選択することが重要。




