2025年12月5日更新.2,678記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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H₂ブロッカーは腎機能に注意が必要?

腎機能とH₂ブロッカー―高齢者・腎障害患者への使い方と注意点

胃酸分泌を抑制する薬剤として、H₂受容体拮抗薬(H₂ブロッカー)は長年にわたり臨床の現場で用いられてきた。近年は、強力な酸分泌抑制効果を持つプロトンポンプ阻害薬(PPI)が主力となったが、腎障害、薬価、長期使用による感染症リスク回避などの理由から、H₂ブロッカーが今なお適応となるケースは少なくない。

しかし、H₂ブロッカーは多くが腎排泄型の薬剤であり、腎機能に応じた用量調節が必要である。腎機能とH₂ブロッカーの関係、薬剤選択、特に高齢者・透析患者における注意点について詳しく勉強する。

H₂ブロッカーはなぜ腎機能に注意が必要なのか?

● ほとんどが未変化体で腎排泄

H₂ブロッカーの多くは、代謝をあまり受けず未変化体のまま腎臓から排泄される。
代表的なH₂ブロッカーの腎排泄性は以下の通り。

一般名商品名代謝タイプ注意点
ファモチジンガスター腎排泄型Ccrに応じ減量必要
ニザチジンアシノン腎排泄型慎重投与
シメチジンタガメット腎排泄型薬物相互作用も多い
ロキサチジンアルタット腎排泄型高齢者は慎重
ラフチジンプロテカジン肝代謝型腎障害でも減量不要だが透析は注意

添付文書でも、全てのH₂ブロッカーが「腎障害患者に慎重投与」となっている。この理由は、腎排泄に依存する薬剤では、腎機能低下によって血中濃度が上昇し、中枢神経症状(せん妄、意識障害、けいれん等)や血液障害(好中球減少・汎血球減少)などが生じる可能性があるためである。

H₂ブロッカーの代替としてのPPIとの比較

同じ酸分泌抑制薬であるPPI(オメプラゾール、ランソプラゾール、タケキャブなど)は主に肝臓で代謝され、腎排泄依存度は低い。
そのため腎障害患者では、PPIがより安全と考えられることが多い。

● ただし、PPIにも注意点あり
問題点
・過剰な胃酸抑制:C. difficile感染、肺炎、骨代謝異常など
・慢性腎臓病(CKD)との関連:PPI長期使用と腎機能悪化の相関が報告
・低Mg血症:長期使用で問題となる

「腎障害だから無条件にPPI」ではなく、患者背景に応じた慎重な選択が必要である。

腎障害患者に使いやすいH₂ブロッカーはラフチジンだが…

ラフチジン(プロテカジン)の特徴
特徴
・代謝 主に肝臓で代謝
・腎排泄割合 約20%
・Ccrによる減量 不要
・透析患者 血中濃度2倍 → 注意
● ラフチジンは「腎障害でも減量不要」という認識の落とし穴

薬物動態では、
・Ccr20~60 mL/minの中等度腎障害では血中動態に差なし
・透析患者ではCmax約2倍、T1/2約2倍、AUC約3倍
→ つまり、透析レベルの腎障害では蓄積リスクがある。

さらに、ラフチジンによる精神神経症状(興奮、せん妄、不眠など)の報告も存在する。

腎機能低下患者には使いやすいが、透析患者には慎重投与が必須。

高齢者にH₂ブロッカーは安全か? ― ガイドラインが示す注意点

● 高齢者ではなぜリスクが上がるのか?
・加齢により腎機能は自然に低下
・80歳では平均Ccr ≈ 60 mL/min前後
・腎排泄型薬剤は蓄積しやすい

● ガスターの例(ファモチジン)
Ccrと用量
・60 以上:常用量
・60 未満:減量必要

● 高齢者ガイドライン(日本老年医学会)
・認知機能低下、せん妄のリスクあり → H₂ブロッカーは可能な限り避ける
・腎機能が低下しやすく、腎排泄型薬剤は少量から慎重投与

つまり、高齢者にH₂ブロッカーを投与する際は、腎機能を必ず評価し、必要に応じて減量するか、ラフチジン・PPI等の代替を検討する。

腎障害患者で胃もたれ・嘔気が多い理由

慢性腎不全患者では、

● 消化器不定愁訴が多い
・胃炎
・食欲不振
・嘔気・嘔吐
・上腹部不快感

● 背景要因
要因
・尿毒症性胃炎:尿毒素により胃粘膜障害
・胃腸運動低下:CKDによる自律神経障害
・胃酸分泌変化:CKDで胃酸分泌が不安定
・薬剤:リン吸着剤、降圧薬など

結果として、腎障害患者ではH₂ブロッカーが処方されやすい環境が整っている。

→ 使う機会が多いからこそ、用量と薬剤選択が重要となる。

臨床での薬剤選択と投与設計

● 腎機能に応じた考え方
腎機能
・Ccr > 60 どのH₂ブロッカーでも常用量
・Ccr20〜60 減量 or ラフチジン
・透析患者 ラフチジン少量から慎重投与 or PPI検討
・長期投与 感染症リスクからPPI継続よりH₂ブロッカーが有利な場合も

● せん妄・認知症患者では?
・H₂ブロッカーよりPPIの方が安全な場合がある
・特にタガメット(シメチジン)は中枢副作用・相互作用が多く、避けるべき

まとめ ― 腎障害とH₂ブロッカー、安全使用のポイント

ポイント
・多くのH₂ブロッカーは腎排泄型:腎機能に応じて減量
・ラフチジンは例外的に肝代謝:透析では濃度増加 → 少量
・高齢者は自然に腎機能低下:投与前にCcr評価を
・せん妄・精神症状リスク:中枢移行に注意
・PPIも万能ではない:長期リスク・腎障害との関連

結論:腎機能を評価し、患者背景に応じてH₂ブロッカーとPPIを適切に選択することが重要。

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