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おたふくかぜで不妊になる?
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約3分53秒で読めます.
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知っておきたい感染症と生殖への影響

「子どもが耳の下を痛がっているけど、おたふく風邪かも?」
そんなとき、多くの親御さんが心配するのが「おたふく風邪の合併症」――特に、将来の不妊との関係です。
おたふく風邪(流行性耳下腺炎)と不妊の関係を中心に、感染症が生殖機能に与える影響について勉強します。
おたふく風邪とは?
正式には「流行性耳下腺炎(ムンプス)」と呼ばれるウイルス感染症で、ムンプスウイルスによって引き起こされます。
主な症状:
・両側の耳下腺の腫れと痛み
・発熱(38℃前後)
・嚥下痛、頭痛、全身倦怠感
感染経路:
・飛沫感染(くしゃみ・会話など)
・接触感染(唾液が付着した手指や物を介して)
耳下腺炎=おたふく風邪とは限らない
「耳下腺が腫れている=おたふく」とは限りません。
実際に、以下のような非ムンプス性の耳下腺炎も存在します。
反復性耳下腺炎との違い:
比較項目 | おたふく風邪 | 反復性耳下腺炎 |
---|---|---|
腫れの場所 | 両側 | 片側が多い |
発熱 | あり | ほとんどなし |
痛み | 強い | 軽い |
感染性 | あり(うつる) | なし(うつらない) |
繰り返す? | 1回限りが多い | 繰り返すことがある |
その他の鑑別:
・リンパ節炎:顎の下や首にできやすく、痛みと発熱を伴う
・蜂窩織炎:細菌感染による深部の炎症。皮膚が赤く腫れる
・化膿性耳下腺炎:細菌による耳下腺感染。ムンプスとは別物
血液検査(アミラーゼ上昇)や抗体検査で、おたふく風邪かどうかを明確に診断できます。
思春期以降に注意
おたふく風邪と睾丸炎・卵巣炎
ムンプスウイルスは耳下腺だけでなく、性腺(睾丸・卵巣)にも炎症を起こすことがあります。
●ムンプス精巣炎(睾丸炎)
・主に思春期以降の男性に見られる
・全体の15〜30%に発症
・約1/3で両側性になることがある
不妊との関係:
・両側性の睾丸炎になると、精子を作る細胞が破壊されてしまう
・その結果、無精子症や乏精子症となり、将来的な不妊の原因になる
・ただし、大半は片側のみで、実際に不妊になるケースは非常に稀
●ムンプス卵巣炎
・女性でも卵巣が炎症を起こすことはあるが、頻度は低い
・卵巣はもともと予備細胞が多く、不妊につながることはまずない
不妊の原因になる可能性がある感染症
おたふく風邪以外にも、不妊のリスクとなる感染症があります。以下に代表例を挙げます。
●クラミジア感染症
・最も頻度の高い性感染症
・女性では卵管炎→卵管閉塞を起こし、不妊の原因に
・自覚症状がほとんどないため、気づかぬうちに進行する
●淋菌感染症
・クラミジアと同様、卵管や精管の閉塞を起こす
・早期治療で回復可能だが、放置で不妊につながる
●ヘルペスウイルス
・性器ヘルペスはウイルスが神経に潜伏
・再発を繰り返すが、直接的に不妊になることは少ない
●結核(性器結核)
・特に発展途上国で問題になる
・卵管結核などが不妊の大きな原因に
●HPV(ヒトパピローマウイルス)
・子宮頸がんの原因ウイルス
・がん治療や手術により生殖機能が損なわれる場合がある
予防にはワクチンと定期的な検査を
おたふく風邪を含め、多くの感染症は予防が可能です。
●おたふく風邪ワクチン
・日本では任意接種(定期接種ではない)
・しかし、小児科学会などは2回接種を推奨
・精巣炎やムンプス難聴の予防に有効
●性感染症の検査
・クラミジアや淋菌は自覚症状がなくても感染していることが多い
・性的活動のある若年層では、年に一度の検査が望ましい
まとめ
・おたふく風邪はムンプスウイルスによる感染症で、思春期以降の男性に睾丸炎→不妊のリスクがある
・反復性耳下腺炎やリンパ節炎など、似た症状の病気もあるため診断は慎重に
・実際におたふく風邪が原因で不妊になるのは極めてまれだが、ワクチンでの予防が最も確実
・クラミジアや淋菌など、不妊に直結する感染症は他にも存在するため、検査・早期治療が重要
「子どものうちに済ませておけばよかった」と、大人になってからムンプス感染で苦しむケースは珍しくありません。
任意接種のワクチンでも、“打たないリスク”をよく考えることが大切です。
生涯の健康と生殖機能を守るためにも、予防と早期の対応が鍵になります。