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牛乳アレルギーと乳糖不耐症の違いは?
公開. 更新. 投稿者: 1,942 ビュー. カテゴリ:花粉症/アレルギー.この記事は約4分41秒で読めます.
目次
牛乳アレルギーと乳糖不耐症の違い

薬局や病院で患者さんに初回アンケートを記入してもらうと、「アレルギーの有無」という項目に「牛乳」と書かれているケースがあります。詳しく聞いてみると、「牛乳を飲むと必ず下痢をするから」と答える方も少なくありません。
しかし、ここで重要なのは「牛乳を飲むと下痢をする」=「牛乳アレルギー」とは限らないという点です。実際には 牛乳アレルギーと乳糖不耐症はまったく別の病態であり、その違いを正しく理解しておくことは、患者さんへの説明や生活指導に大変役立ちます。
牛乳アレルギーとは?
定義
牛乳アレルギーは、食物アレルギーの一種であり、牛乳に含まれるタンパク質(カゼインや乳清タンパク:α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンなど)が免疫系に「異物」として認識されることで発症します。
発症機序
・本来無害なはずの牛乳タンパクを、体の免疫システムが「敵」と誤認する
・IgE抗体が産生され、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出
・皮膚症状(蕁麻疹、湿疹)、呼吸器症状(喘鳴、咳)、消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢)などが出現
・重症例ではアナフィラキシーショックを引き起こすこともある
発症年齢と経過
・主に乳幼児期に発症することが多い
・成長とともに耐性が獲得され、学童期までに改善するケースが多い
・成人になってから新たに発症することは稀
乳糖不耐症とは?
定義
乳糖不耐症は、牛乳や乳製品に含まれる二糖類の「乳糖」を分解する酵素(ラクターゼ)の活性が低下または欠損しているために起こる消化吸収障害です。
発症機序
・牛乳や乳製品を摂取すると、腸内で乳糖が分解されず大腸まで到達
・腸内細菌によって乳糖が発酵され、大量のガス(H₂、CO₂)や有機酸が産生
・腸内浸透圧が上昇して水分が引き込まれ、腹痛・膨満感・下痢が発生
主な症状
・腹部膨満感
・放屁増加
・下痢(水様性)
・腹痛、けいれん様の痛み
発症年齢
・新生児期はラクターゼ活性が高い
・離乳後、加齢とともにラクターゼ活性が低下する
・成人で発症する「成人型乳糖不耐症」が最も多い
牛乳アレルギーと乳糖不耐症の違い
項目 牛乳アレルギー 乳糖不耐症
原因物質 牛乳タンパク(カゼイン、乳清タンパク) 乳糖(糖質)
発症機序 免疫学的反応(IgE依存性) 酵素活性低下による消化不良
主な症状 蕁麻疹、喘鳴、嘔吐、下痢、アナフィラキシー 下痢、腹痛、膨満感、ガス
発症年齢 主に乳幼児 成人に多い
重症度 場合によって生命に関わる 基本的に命に関わらない
日本人に乳糖不耐症が多い理由
欧米人に比べて日本人は乳糖不耐症の割合が高いことが知られています。これは 文化的・遺伝的背景が影響しています。
食文化の違い
・欧米では古くから牛乳・チーズ・ヨーグルトなどの乳製品を常食
・日本は歴史的に乳製品を摂取する習慣が少なく、酵素活性を維持する必要性が低かった
遺伝的要因
・欧米人はラクターゼ持続型(Lactase persistence)の遺伝子を持つ人が多い
・日本人を含む東アジア人はラクターゼ非持続型が多く、離乳後に酵素活性が低下する
発症率
・日本人の1〜2割程度が乳糖不耐症とされるが、地域差や調査方法により数字は異なる
・東アジア全体では30〜90%が乳糖不耐症とも報告されている
「牛乳を飲むと下痢する=アレルギー?」の誤解
多くの患者さんが「牛乳を飲むとお腹を壊す」=「アレルギー」と考えてしまいがちです。
しかし実際は 乳糖不耐症のケースが大多数であり、アレルギーとは全く異なるメカニズムです。
ここを正しく説明することは、患者さんの安心感につながり、不必要な食事制限を避けることにもなります。
乳糖不耐症への対応方法
摂取量を調整する
少量であれば症状が出ない人も多いため、コップ半分程度から試す。
乳製品の種類を工夫する
・ヨーグルト:乳酸菌が乳糖を分解しているため比較的症状が出にくい
・チーズ:熟成過程で乳糖が減少している
・低乳糖牛乳や無乳糖牛乳を利用する
ラクターゼ補充酵素を使用する
市販のサプリメントや医薬品で補助できる場合もある。
牛乳アレルギーへの対応方法
・厳格な除去が基本
・誤食による重篤な症状に備えてエピペン処方が必要なケースもある
・加熱や加工でも完全にアレルゲンが消失しないため注意が必要
薬剤師の立場から
調剤時に「牛乳でお腹を壊す」と患者さんが申告した場合、
・アレルギーによる除去が必要か
・乳糖不耐症で単なる消化吸収不良なのか
を聞き分けることは非常に重要です。薬の服用補助食品やサプリメントにも乳成分が含まれることがあるため、情報整理と説明責任を果たすことは薬剤師の役割といえるでしょう。
まとめ
・牛乳アレルギーと乳糖不耐症は全く別の病態。
・牛乳アレルギーは免疫反応で命に関わることもある。
・乳糖不耐症はラクターゼ不足による消化吸収障害で、腹痛・下痢を主症状とする。
・日本人に乳糖不耐症が多いのは遺伝的・文化的背景による。
・患者さんにとって「アレルギー」と「不耐症」を正しく区別することは、安心して食生活を送る上で非常に重要。




