2025年8月20日更新.2,590記事.

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グリセリンとグリセリンカリ液の違いは?

グリセリンとグリセリンカリ液の違いとは?浣腸や皮膚治療での正しい使い分け

「グリセリン」と「グリセリンカリ液」は名前がよく似ていて、同じものだと思っている方も少なくありません。しかし、実際には性質も用途も大きく異なり、誤用すると皮膚や粘膜に強い刺激を起こす恐れがあります。

それぞれの特徴、薬理作用、主な使い方を整理し、特に誤解しやすい「浣腸用途」や「皮膚軟化剤としての使い分け」についても勉強します。

グリセリンとは

グリセリンの基本情報
グリセリンは、化学的には「グリセロール」とも呼ばれる無色透明の粘性の高い液体です。わずかに甘味があり、食品添加物、医薬品、化粧品、さまざまな産業用途に広く利用されています。

化学式:C₃H₈O₃
性質:
・水に非常によく溶ける
・吸湿性が強い
・比較的中性のpH
・刺激性が低く、皮膚や粘膜にも安全性が高い

医療における主な用途
グリセリンはその保湿性と浸透圧作用を利用して、さまざまな医療用途に用いられます。

●保湿剤・皮膚保護剤
・軟膏基剤やクリームに配合
・乾燥やひび割れの防止

●浣腸液
・「グリセリン浣腸」として、便秘治療に用いる
・浸透圧作用で直腸内に水分を引き込み、排便を促進する

●その他
・咽喉薬などの基剤
・点眼液の浸透圧調整

一般的に「グリセリン」というと、この単独の成分を指します。

グリセリンカリ液(ベルツ水)とは

グリセリンカリ液の基本情報
グリセリンカリ液は、グリセリンに炭酸カリウム(K₂CO₃)を加えて溶解させた液体です。

「ベルツ水(Berz水)」とも呼ばれることがありますが、これは明治期に来日したドイツ人医師ベルツ博士の処方に由来しています。

主成分:
・グリセリン
・炭酸カリウム

性質:
・強アルカリ性(pH10以上)
・皮膚軟化作用が強い
・刺激性が高い

この性質のため、通常のグリセリンとは取り扱いが大きく異なります。

医療における用途
●皮膚軟化剤
・グリセリンカリ液は、主に皮膚の角質層を浸軟・軟化させる目的で用いられます。

使い方の例
・厚く硬くなった角質部にガーゼ湿布
・削る処置の前の前処置
・角質肥厚や胼胝(たこ)の軟化

浣腸用途は認められていない
一部に「浣腸にも使う」といった誤解が流布されていますが、正式な添付文書では浣腸としての効能効果はありません。

強アルカリ性のため、直腸粘膜に注入すると強い刺激や損傷を起こす恐れがあるため、決して浣腸には使いません。

なぜ「浣腸にも使う」という話があるのか?

歴史的経緯
医療の歴史をたどると、ベルツ水(グリセリンカリ液)は「便秘の処置の際に肛門周囲を軟化するために外用」された記録が一部に見られます。

しかし、これは直腸内に注入する浣腸ではなく、硬い便や肛門周囲の角質をふやかす「外用処置」に近いものでした。

この経緯が混同され、

グリセリンカリ液=浣腸
と誤解されることがあるようです。

現在の適応

今日の医療では、グリセリンカリ液を浣腸に使うことは全く推奨されません。添付文書にも「皮膚軟化」のみが効能効果として記載されています。

浣腸が必要な場合
→「グリセリン浣腸」を使用
→正式に承認された浣腸剤であり、安全性も確認されています。

皮膚軟化剤としてのグリセリンカリ液

尿素軟膏やサリチル酸軟膏と同じく「角質をやわらかくする目的」で使われることがあります。

作用の違い

●尿素軟膏
→ 保湿と角質溶解のマイルドな作用
→ 乾燥性角化症やかかとのひび割れ

●グリセリンカリ液
→ 強アルカリで角質を急速に浸軟
→ 短時間で硬い角質を軟化(ガーゼ湿布)

グリセリンカリ液は強い作用と刺激があるため、使用部位や時間を厳密に管理する必要があります。

化粧品には使われる?

グリセリン単体は化粧水や保湿剤に非常に多く使われています。

●グリセリン(グリセロール)
・保湿成分
・刺激性が低い
・化粧水やクリームに配合

一方で、グリセリンカリ液は化粧品にはほとんど使われません。理由は強アルカリ性で皮膚刺激が強く、安全性の観点から通常のスキンケアには不適だからです。

結論
→ 化粧品に含まれる「グリセリン」と、医療用皮膚軟化剤の「グリセリンカリ液」は全く別の用途です。

誤用を防ぐために

「名前が似ているから同じだろう」と思い込むと、誤用による皮膚障害や粘膜障害を招きかねません。

・浣腸はグリセリン浣腸を使う
・皮膚軟化はグリセリンカリ液を適切に短時間使用する
・化粧品はグリセリン単体を選ぶ

この区別がとても重要です。

まとめ

・グリセリンは中性で保湿性・浣腸作用があり、皮膚や粘膜に比較的安全に使える
・グリセリンカリ液はグリセリンに炭酸カリウムを加えた強アルカリ性の液体で、皮膚軟化に限定して使用する
・浣腸にグリセリンカリ液を使うのは誤用であり、危険
・化粧品にはグリセリンは使われるが、グリセリンカリ液はまず使われない
・使用の際は必ず添付文書と医師・薬剤師の指導に従う

「グリセリン」と「グリセリンカリ液」の違いをしっかり理解し、誤用を防ぐ参考になれば幸いです。

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