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血管が硬くなると丈夫になる?
公開. 更新. 投稿者: 26 ビュー. カテゴリ:脂質異常症.この記事は約6分55秒で読めます.
目次
血管が硬くなると丈夫になる?

「血管が硬くなる」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか。
「硬い=丈夫」
「ゴムよりプラスチックの方が壊れにくそう」
そんな感覚から、
「動脈硬化で血管が硬くなるなら、むしろ強くなって体にいいのでは?」
と考える人がいても、不思議ではありません。
一見すると、もっともらしく聞こえる考え方です。
しかし、この発想には大きな落とし穴があります。
結論から言えば、
血管が硬くなることは、血管が丈夫になることとはまったく別物です。
動脈硬化の本質は、
「血管が硬くなること」そのものではなく、
血管の内側が狭くなり、詰まりやすくなることにあります。
・なぜ「硬い血管=丈夫」ではないのか
・動脈硬化で血管に何が起きているのか
・プラークが危険とされる本当の理由
・コレステロールと動脈硬化の関係
を、勉強していきます。
血管が硬くなるのはいけないこと?
動脈硬化という言葉を、文字どおり受け取ると
「動脈が硬くなる病気」です。
そのため、
硬くなる=しっかりする
しっかりする=丈夫
と連想してしまう人がいます。
しかし、ここで一度、血管の役割を考えてみましょう。
血管は「丈夫さ」より「しなやかさ」が大切
血管、とくに動脈には重要な役割があります。
それは、
心臓が送り出した血液の勢いを和らげ、全身にスムーズに届けることです。
心臓は、ドクン、ドクンと拍動しながら血液を送り出します。
このとき生じる圧力は、決して一定ではありません。
健康な血管は、
・拡張する
・縮む
という動きを繰り返しながら、
血圧の波を吸収するクッションのような役割を果たしています。
つまり血管には、
「硬さ」よりも「弾力性」が求められているのです。
動脈硬化の問題は「硬くなること」ではない
動脈硬化で本当に問題となるのは、
血管が硬くなること自体ではありません。
問題の本質は、次の点にあります。
・動脈壁が厚くなる
・血管の内腔(血液の通り道)が狭くなる
・血流が悪くなる
つまり、
血管の中が狭くなることが最大の問題です。
動脈硬化では、動脈の壁にコレステロールなどの脂質が沈着します。
これにより血管壁が内側に盛り上がり、
結果として血管の内径が細くなります。
壁が厚くなれば、結果的に「硬く」感じられますが、
それはあくまで結果にすぎません。
血管が狭くなると何が起きる?
血管が狭くなると、当然ながら血液は流れにくくなります。
その影響が現れる場所によって、
さまざまな病気が引き起こされます。
冠動脈が狭くなる
→ 狭心症、心筋梗塞
脳の動脈が狭くなる
→ 脳梗塞
下肢の動脈が狭くなる
→ 末梢動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症)
これらはいずれも、
「血管が硬いから起こる病気」ではありません。
血管が狭くなり、血液が十分に届かなくなることで起こる病気です。
つまり、動脈硬化とは何か?
ここまでを整理すると、動脈硬化とは、
血管が硬くなる病気
ではなく、
血管の内側が厚くなり、狭くなる病気
と捉える方が、本質に近いと言えます。
血管が硬くなるのは、
血管内膜が肥厚した結果として生じる“副産物”なのです。
コレステロールが高いと動脈硬化になる?
動脈硬化の原因として、最もよく知られているのが
LDLコレステロールです。
では、なぜLDLコレステロールが問題になるのでしょうか。
動脈硬化が進む仕組み
動脈硬化は、ある日突然起こるわけではありません。
長い年月をかけて、少しずつ進行します。
一般的に考えられている流れは、次のようなものです。
① 動脈の内側が傷つく
・高血圧による強い圧力
・喫煙による刺激
・糖化などで変性したLDLコレステロール
こうした要因により、
血管の内側(血管内皮)に微細な傷が生じます。
目に見える傷ではありませんが、
例えるならひび割れのような状態です。
② LDLコレステロールが入り込む
その小さな隙間に、
血液中のLDLコレステロールが少しずつ入り込みます。
本来、血管の内側に入り込むはずのない脂質が、
血管壁の中に滞留する状態です。
③ マクロファージが集まる
体はこれを「異物」と判断します。
そこで登場するのが、
異物や老廃物を処理するマクロファージです。
マクロファージは、
LDLコレステロールを取り込みながら集まり、
やがて泡沫細胞と呼ばれる状態に変化します。
④ プラークが形成される
泡沫細胞が蓄積すると、
血管内膜が局所的に盛り上がります。
これが、
プラーク(粥状硬化病変)です。
さらにその部位にカルシウムが沈着すると、
血管壁はより硬く、もろくなっていきます。
この一連の変化を
粥状動脈硬化と呼びます。
プラークは「血管の歯垢」
「プラーク」という言葉を聞いて、
歯のプラーク(歯垢)を思い浮かべる人もいるでしょう。
このイメージは、実はかなり的確です。
・歯垢が歯の表面にこびりつく
・血管のプラークが血管内壁にこびりつく
どちらも、
・すぐには症状が出ない
・放置すると重大なトラブルを引き起こす
という共通点があります。
まさに「血管の歯垢」と考えてよいでしょう。
プラークが怖い本当の理由
動脈硬化で本当に怖いのは、
プラークが血管を狭くすることだけではありません。
プラークが破綻すると血栓ができる
プラークは、
表面を薄い膜で覆われた不安定な構造をしています。
この膜が破れる(破綻する)と、
その部分に血小板が集まり、血栓が形成されます。
血栓は、
一気に血管を詰まらせる引き金になります。
「プラークが壊れたら血管が広がる」は誤解
中には、
プラークが壊れたら、
むしろ血管が広がって血流がよくなるのでは?
と考える人もいます。
しかし現実は、真逆です。
・プラーク破綻
・血栓形成
・血管の急激な閉塞
この流れにより、
心筋梗塞や脳梗塞は突然発症します。
血管をゴムに例えると
血管をゴムに例えてみましょう。
健康な血管
→ しなやかでよく伸びるゴム
動脈硬化の血管
→ 古くなって硬く、ひび割れたゴム
どちらが「丈夫」でしょうか。
見た目は硬い後者の方が、
実はもろく、破れやすいのです。
大動脈瘤は「硬くなった血管の末路」
動脈硬化が進行すると、
血管の一部がこぶ状に膨らむことがあります。
これが大動脈瘤です。
動脈壁が硬く、弾力を失うことで、
血圧に耐えきれず膨らんでしまうのです。
恐ろしいのは、
破裂するまで自覚症状がほとんどない
破裂すると致命的になる
という点です。
脂質異常症と動脈硬化
動脈硬化の危険因子はいくつもありますが、
なかでも重要なのが脂質異常症です。
とくに、
・高LDLコレステロール血症
・低HDLコレステロール血症
は、虚血性心疾患との関連が
多くの疫学研究で示されています。
トリグリセリドも無関係ではない
高トリグリセリド血症は、
・耐糖能異常
・高血圧
・低HDLコレステロール
を合併することが多く、
近年では独立した危険因子としても注目されています。
脂質異常症とは何か
脂質異常症とは、
・コレステロール
・トリグリセリド
など、血中脂質のうち
1つ以上が基準範囲を外れた状態の総称です。
現在、日本では以下の基準が用いられています。
・LDLコレステロール:140mg/dL以上
・総コレステロール:220mg/dL以上
・トリグリセリド:150mg/dL以上
・HDLコレステロール:40mg/dL未満
これらは、
「将来、動脈硬化性疾患を起こしにくいと考えられる目安」として設定されています。
まとめ:血管は「硬さ」ではなく「しなやかさ」
・血管が硬くなる=丈夫になる、ではない
・動脈硬化の本質は「血管が狭くなること」
・プラークは血管の歯垢
・プラーク破綻は血栓を生み、突然命を脅かす
・健康な血管に必要なのは弾力性
血管は、
硬いパイプではなく、しなやかなホースであるべきです。
「血管が硬くなると丈夫になる?」
その答えは、はっきりと NO です。




