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14日しか使えない抗うつ薬?ザズベイカプセル
公開. 更新. 投稿者: 7,159 ビュー. カテゴリ:うつ病.この記事は約7分6秒で読めます.
目次
ザズベイと今までの抗うつ薬の違い

新しい抗うつ薬「ザズベイカプセル30mg(一般名:ズラノロン)」が2026年3月に発売された。
「新しい抗うつ薬」と聞いても、SSRIやSNRIの仲間がまた増えたのかな、くらいに思っていた。
しかし調べてみると、ザズベイは今までの抗うつ薬とはかなり違う。
一番わかりやすい違いは、
「14日間飲んだら、いったん治療終了」
という点だ。
SSRIなどの抗うつ薬では、症状が改善した後も再発予防のために一定期間服用を続けることが多い。
それに対してザズベイは、
1日1回30mgを14日間夕食後に服用する。
そして、再びザズベイによる治療を行う場合には、投与終了から6週間以上あける。
なぜこんな特殊な使い方をするのだろうか?
ザズベイは「GABA」に作用する抗うつ薬
これまでの抗うつ薬の多くは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンといった「モノアミン」と呼ばれる神経伝達物質に作用する。
代表的な薬を大まかに分類すると、
| 分類 | 主な作用 |
|---|---|
| SSRI | セロトニン再取り込み阻害 |
| SNRI | セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害 |
| NaSSA | ノルアドレナリン・セロトニン神経伝達を増強 |
| 三環系抗うつ薬 | セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害など |
| 四環系抗うつ薬 | 主にノルアドレナリン系などに作用 |
| S-RIMなど | セロトニン系を複数の機序で調節 |
| ザズベイ | GABA_A受容体機能を増強 |
となる。
ザズベイはこれらとは違い、GABA_A受容体ポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)である。
つまり、これまでの「モノアミンを増やす」という発想とは違い、脳の主要な抑制性神経伝達物質であるGABAの働きを強める方向から、うつ症状を改善しようとする薬である。
ザズベイは日本で初めて承認された、この作用機序をもつ抗うつ薬である。
アロプレグナノロンって何?
ザズベイの作用を理解するうえで重要なのが、
アロプレグナノロン
という物質である。
ザズベイの一般名ズラノロンは、神経活性ステロイドであるアロプレグナノロンの誘導体である。
アロプレグナノロンは体内で作られる神経活性ステロイドで、GABA_A受容体の働きを増強する。
GABAはいわば脳の「ブレーキ」のような神経伝達物質である。
アロプレグナノロンは、そのブレーキを効きやすくする物質と考えるとわかりやすい。
うつ病患者では脳脊髄液中のアロプレグナノロン濃度が低下していたという報告もあり、ストレス応答に関係するHPA軸などとの関連も研究されている。
ザズベイはアロプレグナノロンのようにGABA_A受容体を調節することで、神経回路のバランスを整えると考えられている。
ベンゾジアゼピン系と同じなの?
「GABA_A受容体に作用する」と聞くと、
「それってデパスやレンドルミンなどと似ているのでは?」
と思うかもしれない。
確かにベンゾジアゼピン系薬もGABA_A受容体の機能を増強する。
ただし、同じGABA_A受容体に作用するといっても、作用する部位や受容体サブタイプへの作用特性などは同じではない。
特にザズベイは、シナプス部位だけでなくシナプス外GABA_A受容体にも作用することが特徴である。
一方で、GABA系の薬である以上、ベンゾジアゼピン系薬を連想させる注意点もある。
ザズベイの電子添文には、
「薬物依存を生じるおそれがある」
と記載されている。
そのため、決められた14日間という投与期間を守ることが重要であり、再投与についても6週間以上あけることになっている。
「毎日飲み続ける抗うつ薬」ではない
ザズベイと従来薬との最大の違いは、作用機序以上にこちらかもしれない。
通常の抗うつ薬では、
開始 → 効果判定 → 継続 → 寛解後も再発予防
という長期的な治療になることが多い。
ザズベイは違う。
電子添文上、
「抑うつ症状が認められる患者の急性期治療」
に使用する薬と位置づけられており、寛解・回復後の再燃・再発予防を目的として投与する薬ではない。
つまり、
従来薬:長期間かけて治療を支える薬
に対して、
ザズベイ:急性期に14日間使う薬
という違いがある。
もちろん実際のうつ病治療は薬物療法だけで完結するものではないため、14日飲めば「うつ病の治療がすべて終了」という意味ではない。
14日飲んで、まだ症状があったら?
ここも重要である。
「14日飲んだけれど、まだ症状がある。それならもう14日飲めばいいのでは?」
とはならない。
ザズベイを14日間投与しても十分な改善が認められない場合には、ザズベイを続けるのではなく、他の抗うつ薬など別の治療法を検討する。
また、いったん改善したものの6週間以内に悪化して薬物療法が必要になった場合も、ザズベイをすぐに再投与するのではなく、他の治療法を検討する。
再投与する場合は、
前回の投与終了から6週間以上
あける必要がある。
したがって、
「効いたからずっと飲む」
「効かなかったから続けて飲む」
「再発したからすぐまた飲む」
という使い方は、いずれもザズベイの基本的な使い方とは異なる。
他の抗うつ薬と一緒に飲む?
SSRIなどを飲んでいる患者に、
「症状が悪い時だけザズベイを追加する」
という使い方も思いつく。
しかし、電子添文では他の抗うつ薬へのザズベイの上乗せ効果は示されていないとされている。
そのため、他の抗うつ薬で治療中の患者に急性期治療として使用する場合には、ザズベイ単剤による治療を行うことを検討するとされている。
ザズベイを単純に「従来薬に追加する新しい抗うつ薬」と考えないほうがよさそうだ。
効果が速い?
従来の抗うつ薬の問題点としてよく挙げられるのが、
「効果が現れるまで時間がかかる」
ことである。
SSRIなどは神経伝達物質への作用自体は比較的早く生じるものの、臨床的な抗うつ効果が十分に現れるまでには時間がかかる。
一方、ザズベイは14日間という短期間の投与で有効性が検証された薬である。
国内第III相試験では、1日1回30mgを14日間投与することで、速やかなうつ症状の改善が認められたとしている。
従来の抗うつ薬とは、
「長期間飲み続けながら効果を得る」
という治療設計そのものが異なるのである。
なぜ夕食後に飲む?
ザズベイの用法は、
1日1回30mg、14日間、夕食後
とかなり限定されている。
「1日1回なら朝でもいいのでは?」
と思うかもしれないが、ザズベイでは服用タイミングも重要である。
特に注意したい副作用が、
- 傾眠
- 浮動性めまい
などである。
そのため服用中は、自動車の運転など危険を伴う機械の操作を行わないよう指導する必要がある。
また、食事によってズラノロンの吸収が増加するため、「夕食後」という用法には薬物動態上の意味もある。
「1日1回だから好きな時間に飲んでよい薬」ではないことは服薬指導上重要である。
飲み忘れたら翌日に2カプセル?
ザズベイは14日間しか飲まないので、
「1回忘れたら、その分をどこかで補ったほうがいいのでは?」
と思ってしまいそうだ。
しかし、飲み忘れた場合には、忘れた分は服用せず廃棄し、残りを通常どおり1日1回服用する。
2カプセルをまとめて服用したり、15日目にずらして飲んだりする薬ではない。
この点は調剤時に説明しておいたほうがよいだろう。
眠気・めまいだけではない
GABA_A受容体の機能を増強する薬なので、精神神経系の副作用には注意する。
患者向け資材でも、
- 会話にまとまりがなく、ぼーっとする
- 興奮して眠らなくなる
- 時間や場所などを間違える
- 不機嫌・易刺激性
- 実在しないものが見えるような行動
などについて、本人だけでなく家族にも注意するよう説明されている。
患者本人が異常に気づきにくい可能性があるため、家族への情報提供も重要になりそうだ。
アルコールや睡眠薬にも注意
ザズベイはGABA系に作用するため、中枢神経抑制作用をもつ薬との併用にも注意したい。
アルプラゾラムとの併用試験では、ザズベイ単独と比較して認知機能の低下が認められている。
また、エタノールとの併用でも認知機能の低下が認められている。
そのため服薬指導では、
「眠くなることがあります」
だけで終わらず、
飲酒、睡眠薬、抗不安薬などの使用状況
についても確認しておきたい。
ザズベイと従来の抗うつ薬の違い
最後に大まかにまとめる。
| ザズベイ | 従来の抗うつ薬(SSRI・SNRIなど) | |
|---|---|---|
| 一般名 | ズラノロン | エスシタロプラム、セルトラリン、デュロキセチンなど |
| 主な標的 | GABA_A受容体 | 主にセロトニン・ノルアドレナリンなど |
| 作用 | GABA_A受容体機能を増強 | モノアミン神経伝達を調節 |
| 治療上の位置づけ | 急性期治療 | 急性期~維持療法 |
| 投与期間 | 14日間 | 数か月以上になることが多い |
| 再発予防目的 | 使用しない | 継続投与されることがある |
| 再投与 | 6週間以上あける | 原則そのような制限なし |
| 主な注意点 | 傾眠、めまい、認知機能への影響、薬物依存など | 消化器症状、賦活症候群、性機能障害、離脱症状など薬剤により異なる |
| 運転 | 服用中は行わない | 薬剤ごとに異なる |
ザズベイは単に「新しいタイプのSSRI」ではない。
モノアミンではなくGABA_A受容体を標的とし、14日間だけ使用する急性期治療薬
という、これまでの抗うつ薬とはかなり異なる薬である。
薬剤師としては、
「夕食後に1日1回」「14日間」「飲み忘れを後から補わない」「服用中は運転しない」「再投与には6週間以上必要」
という点は特に押さえておきたい。
これまで「抗うつ薬=毎日長期間飲み続ける薬」というイメージが強かっただけに、ザズベイの登場は、うつ病の薬物治療の選択肢を大きく広げるものになりそうだ。



