2025年9月6日更新.2,617記事.

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抗生物質と抗菌薬の違いは?

抗生物質と抗菌薬の違いは?

「この薬は抗生物質だから最後まで飲んでくださいね」と患者さんに説明すると、多くの方は「はい、わかりました」とうなずきます。しかし、薬剤師の立場から見ると「その薬、厳密には“抗生物質”ではなく“抗菌薬”です」と言いたくなる場面も少なくありません。

では、「抗生物質」と「抗菌薬」は何がどう違うのでしょうか?

「抗菌薬」は広義の言葉、「抗生物質」はその一部

まず結論からお伝えすると、抗生物質は抗菌薬の一部です。

● 抗菌薬(Antimicrobial agents)とは?
抗菌薬とは、「細菌などの微生物を殺す、またはその増殖を抑える薬剤」の総称です。抗菌薬には、以下のような分類があります。

・抗生物質(Antibiotics):微生物が作り出す天然物またはそれを元にした薬
・合成抗菌薬(Synthetic antimicrobials):完全に化学合成されたもの(例:サルファ剤、ニューキノロンなど)

つまり、「抗菌薬」という大きな分類の中に、「抗生物質」が含まれている、という位置づけになります。

抗生物質の定義とは?

抗生物質は元々、「微生物が産生し、他の微生物の発育を抑制する物質」として定義されました。

● 発祥はペニシリンの発見
1928年、アレクサンダー・フレミングによってペニシリンが発見されたことで「抗生物質」という概念が誕生しました。ペニシリンは、青カビ(ペニシリウム・ノタトゥム)が分泌する物質で、周囲の細菌の増殖を抑えることが観察されました。

この発見をきっかけに、「微生物が作った、ほかの微生物に効く薬」が「抗生物質」と呼ばれるようになったのです。

合成抗菌薬は抗生物質ではない?

● 化学合成された抗菌薬の登場
しかし時代が進み、科学の発展とともに、微生物に頼らずに完全に人工的に合成された抗菌薬も登場してきました。その代表が、サルファ剤(スルファニルアミド)や、ニューキノロン系抗菌薬です。

これらは微生物の代謝経路を人為的に模倣し、試験管の中だけで化学的に作られた薬であり、「抗生物質」ではなく「合成抗菌薬」に分類されます。

現代では“抗生物質”の意味が広がっている?

一方で、実際の医療現場や教科書では、ニューキノロンやカルバペネム、テトラサイクリンなどもひとくくりに「抗生物質」と呼ばれることがあります。

● 広義の「抗生物質」とは?
現代では、「抗菌作用のある内服薬・注射薬の総称」として、「抗生物質」という言葉が日常的に使われる場面が多くなっています。これは厳密な定義からは逸脱していますが、患者への説明や簡便さのためにある意味で許容されている「広義の抗生物質」です。

とはいえ、薬剤師や医師がその違いを正確に理解しておくことは、適切な薬剤選択と患者指導に欠かせません。

「ニューキノロン」はもう「ニュー」じゃない?

● 「ニューキノロン」という名称の違和感
「ニューキノロン系抗菌薬」という名称は現在でもよく使われています。しかし、「ニュー」と言っておきながら、発売からすでに40年以上経過しているものもあり、「新しい」という印象とはかけ離れています。

● オールドキノロンとの違い
「ニューキノロン」に対して、「オールドキノロン」(旧キノロン)と呼ばれる薬も存在しました。ナリジクス酸やオキソリン酸などがその例です。これらは尿路感染症に限定された活性しかなく、副作用も多かったため、現在ではほとんど使用されていません。

● 現在は「フルオロキノロン系」などの呼称も
「ニューキノロン系抗菌薬」は、その構造にフッ素原子(fluoro)を持つため、「フルオロキノロン系」と呼ばれることもあります。近年ではこちらの呼称のほうが正確で、使われることも増えています。

なぜこの違いが重要なのか?

● 耐性菌対策と抗菌薬適正使用
抗菌薬の誤用・乱用が進むと、耐性菌(薬が効かなくなった菌)が増えてしまい、将来的に感染症が治療困難になるリスクがあります。そのため、日本でも「AMR(抗菌薬耐性)対策アクションプラン」が策定されています。

この中では、「抗菌薬は必要なときに、必要な期間だけ使う」ことが強調されており、抗生物質と合成抗菌薬の違いを知っておくことは、処方意図や作用機序の理解に直結します。

患者への説明ではどう使い分ける?

患者にとって「抗生物質」も「抗菌薬」も違いがわからず、「風邪=抗生物質」という誤解も根強くあります。

薬剤師としては、以下のような使い分けを意識するとよいでしょう。

・一般的な説明では「抗生物質」と言っても問題はないが、
・必要に応じて「これは人工的に作られた“抗菌薬”で、いわゆる“抗生物質”とは違います」と補足する
・特に薬剤師間や医師との連携、後発品の選定などでは、正確な分類で認識することが大切

終わりに:薬剤師が伝える「正しい言葉の使い方」

「抗生物質と抗菌薬は違うのですか?」と聞かれたとき、「厳密には違います」と自信を持って答えられることは、薬剤師の専門性を示す一つのポイントです。

言葉の意味を正しく理解することは、患者に安心を与えるだけでなく、医療の質の向上にもつながります。薬剤師としての説明力を高めるためにも、用語の使い分けを意識してみましょう。

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