記事
漢方薬が不味い原因は?
公開. 更新. 投稿者:漢方薬/生薬.この記事は約4分31秒で読めます.
1,644 ビュー. カテゴリ:目次
漢方薬がマズイ原因は?

「この漢方薬、マズくて飲めません…」
薬局や病院でよく聞くセリフです。
特に初めて漢方薬を処方された方や、苦味に敏感な子どもにとっては、あの独特な味と香りは大きなハードルになります。
しかし、漢方薬において“味”は単なる副産物ではなく、効能と密接な関係があるとされています。
「苦い=効きそう」は本当か?
漢方薬のイメージといえば「苦い」「まずい」。
その原因のひとつは、漢方薬に含まれる「苦味健胃薬」や「清熱薬」などの生薬成分にあります。
代表的な“苦い”生薬
・大黄(だいおう):排便を促す作用(瀉下薬)
・黄連(おうれん):消炎・解熱作用(清熱薬)
・黄柏(おうばく):消化器系を整える苦味健胃薬
これらの生薬は、炎症や熱、便秘といった「過剰なもの」を排除する作用を持っています。つまり、“苦味”は体内の異常な熱や毒素を排出するサインと捉えることができます。
味でわかる漢方薬の特徴
漢方薬の味は、「五味(ごみ)」という考え方に基づいて分類されます。これは「酸・苦・甘・辛・鹹(しおからい)」の5つの味を基本とし、それぞれに薬理作用が対応しています。
〇苦味(くみ)──冷やす・排出する
働き:熱を冷ます、炎症を抑える、便を出す
代表生薬:大黄、黄連、黄柏、センブリ
特徴:苦いほど効果が強いとは限りませんが、清熱作用や排泄作用をもつ薬によく見られます。
例:便秘に用いられる「大黄甘草湯」など
〇甘味(かんみ)──補う・緩める
働き:滋養、緩和、生薬同士の調和
代表生薬:甘草、人参、黄耆、麦門冬、山薬
特徴:味が穏やかで飲みやすい。滋養強壮剤や虚弱体質向けの処方によく含まれます。
例:体力低下時に処方される「補中益気湯」
〇辛味(しんみ)──巡らせる・温める
働き:発汗、血流改善、冷えの改善
代表生薬:桂皮、乾姜、陳皮、紅花
特徴:香りが強く、鼻に抜けるような風味。気血の流れを良くする処方に用いられます。
例:風邪の初期に処方される「桂枝湯」
〇酸味(さんみ)──収れん・落ち着かせる
働き:汗・尿・下痢などの過剰な排泄を抑える、精神安定
代表生薬:五味子、酸棗仁、芍薬
特徴:不眠や自律神経系の乱れに効く処方に多く含まれます。
例:不眠症に用いられる「酸棗仁湯」
「マズイ」=「合わない薬」なのか?
漢方の世界では、“体に合っている薬ほど飲みやすい”という考え方があります。
つまり、苦味や匂いがそれほど気にならず、自然に飲める薬は、その人の体質や病状に合っている可能性が高いとされるのです。
逆に、「どうしても受け付けない」「気持ち悪くなる」など強い不快感を伴う場合は、証(体質・症状)に合っていないことも考えられます。
ただし、「嫌いだから」「苦いから」というだけで薬を避けるのではなく、医師や薬剤師に相談したうえで、味の工夫や処方変更を検討してもらうのがベストです。
味と効果のジレンマ:飲みやすさ VS 薬効
現代では、オブラートや服薬ゼリー、アイスクリームに混ぜて飲むなど、様々なマスキング方法が使われています。
しかし前述したように、味や香りそのものが薬効の一部である生薬もあるため、過度な味隠しは効果を弱める可能性もあります。
特に注意が必要なケース:
・苦味健胃薬:黄連、黄柏などは、苦味が消化器に作用して胃液分泌を促進
・芳香健胃薬:ケイヒやショウキョウなどは香りが自律神経に働きかける
これらはオブラートで完全に包んだり、強い味の食品でマスキングすると効果が減弱する可能性があります。
それでも飲みにくい時の工夫
どうしても飲めないときは、以下の方法でマスキングを試してみましょう。
飲みやすくするための工夫:
・ココア:苦味をブロックする作用あり(カカオバターによる味覚受容体の競合)
・アイスクリーム:冷たさと甘みで味覚の鈍麻+ザラつきを軽減
・ほうじ茶・麦茶:香ばしさで風味を調和
・電子レンジで温める:15秒程度で匂いが軽減し、口当たりもなめらかに
漢方薬の“味”を理解することは、身体を知ること
味覚は、体が発しているメッセージを受け取る手段のひとつです。
漢方薬の味に注目することは、自分の体質や状態を知るきっかけにもなります。
「苦いのはイヤだから効かない」ではなく、
「なぜこの薬は苦いのか?」「どんな意味があるのか?」と一歩踏み込んで考えてみてください。
その理解が、服薬の納得感につながり、継続のモチベーションにもなります。
マズさには理由がある
漢方薬がマズイと感じる理由は、単なる風味の問題ではなく、「五味」と呼ばれる薬効に直結した重要な要素です。
体のバランスを整えるために必要な「苦味」や「酸味」には、それぞれの意味があるのです。
服薬指導の場では、単に「飲みにくいですよね」と共感するだけでなく、
「この苦味にはこんな意味があるんですよ」と説明することで、患者さんの理解と納得を得られるかもしれません。