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幼児用PL顆粒を幼児に使ってはいけない?
公開. 更新. 投稿者:風邪/インフルエンザ.この記事は約3分18秒で読めます.
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幼児用PL顆粒を幼児に使ってはいけない?

「幼児用PL顆粒」という製品名を見て、多くの保護者は「幼児に使っても問題のない薬」と思うかもしれません。しかし、実際には1歳の幼児には禁忌とされており、「幼児用」と名がついていながら、全ての幼児に安全とは言い切れない薬です。
ではなぜそんな名前がついているのか?そもそもどこにリスクがあるのか?
PL顆粒とは?成分と作用
PL顆粒は「サリチルアミド」「アセトアミノフェン」「メチレンジサリチル酸プロメタジン」「無水カフェイン」の4成分を含む総合感冒薬で、解熱鎮痛・抗ヒスタミン・鎮咳・鎮静などの効果を期待して処方されることがあります。
このうち問題となっているのが「メチレンジサリチル酸プロメタジン」という第一世代抗ヒスタミン薬です。
添付文書上の禁忌:「2歳未満」はダメ
添付文書には明確にこう記載されています。
禁忌:2歳未満の乳幼児
特定の背景を有する患者に関する注意「小児等」の項には
2歳未満の乳幼児:投与しないこと。外国で、2歳未満の乳幼児へのプロメタジン製剤の投与により致死的な呼吸抑制が起こったとの報告がある。
つまり、製品名に「幼児用」とついていても、1歳児は対象外ということです。この点は、医師や薬剤師が特に注意すべき部分であり、保護者への説明にも慎重さが求められます。
なぜプロメタジンが危険なのか?
プロメタジンは中枢神経に強く作用する抗ヒスタミン薬であり、副作用として呼吸抑制や過度の鎮静作用を起こすことがあります。特に乳幼児では呼吸中枢が未熟なため、少量でも致死的な呼吸抑制を引き起こすリスクが指摘されています。
このような報告は、アメリカなどでも問題視されており、FDA(米国食品医薬品局)では乳児への使用を厳しく制限しています。
ペレックス顆粒との違い:同じようで違う
PL顆粒と似たような処方薬に「ペレックス顆粒」がありますが、こちらにはプロメタジンは含まれていません。そのため、小児用ペレックス配合顆粒は2歳未満でも禁忌ではないという位置づけになります。
ただし、「使ってもよい」ということと「積極的に使うべき」というのは別問題であり、慎重な投与判断が必要です。
市販薬はどうか?厚労省の通知と現状
2008年、厚生労働省は以下のような通達を出しました。
「2歳未満の乳幼児には、医師の診療を受けさせることを優先し、止むを得ない場合にのみ服用させること。」
つまり市販の風邪薬においても、2歳未満の使用は例外的なケースに限るという方針です。
それにも関わらず、実際には市販の小児用風邪薬を1歳児に使用している家庭も少なくありません。中には「薬を飲ませれば早く治る」という認識を持っている保護者もおり、販売現場でも判断が求められます。
小児に風邪薬は必要か?
そもそも、小児に風邪薬は必要なのでしょうか?
小児の風邪は、ほとんどがウイルス性で、自然に治癒することが一般的です。解熱剤や水分補給を中心とした対症療法で十分なことが多く、「総合感冒薬を与えて治そう」とする姿勢自体に疑問が残ります。
過剰な投薬が、かえって副作用やリスクを高めることも少なくありません。
乳幼児突然死症候群(SIDS)との関係
プロメタジンが乳幼児に危険とされる理由のひとつに、乳幼児突然死症候群(SIDS)との関連が指摘されています。
SIDSは原因が完全には明らかになっていませんが、「うつぶせ寝」や「過度な保温」などがリスク要因として挙げられています。抗ヒスタミン薬による鎮静が、覚醒反応を鈍らせることで、呼吸停止が起きた際に気づかれにくくなる、という仮説もあります。
誤解を招く「幼児用」の表記
「幼児用」と書かれた製品が、実際には1歳児には使用禁止という矛盾。これは誤解を招きかねない商品名です。
このようなネーミングが許されている背景には、医療用医薬品における「商標の自由」と、厳格な年齢定義のすれ違いがあります。しかし、製品の安全性に直結する問題である以上、薬剤師や医療従事者が適切に説明・指導することが強く求められます。
幼児用PL顆粒は、その名前とは裏腹に「1歳の幼児には使えない薬」です。
プロメタジンによる中枢抑制、呼吸抑制のリスクは重大であり、使用には厳重な注意が必要です。
薬を選ぶ際には、「効きそう」や「便利そう」ではなく、「安全性」や「適応年齢」を冷静に見極める必要があります。私たち薬剤師は、こうしたリスクを丁寧に伝え、誤った使用を防ぐ役割を担っているのです。