2026年2月18日更新.2,754記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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クリアミンに使用上限がある理由と麦角の歴史

クリアミンを1週間に10錠以上飲んじゃダメ?

頭痛治療薬として古くから使われてきた「クリアミン」は、現在でも一部の患者に処方されています。しかし、この薬には「1週間あたりの使用上限」が明確に定められているという、他の鎮痛薬にはあまり見られない特徴があります。

なぜクリアミンには厳しい制限があるのでしょうか。
その答えは、「麦角(ばっかく)」というカビと、その成分がもつ強力な作用の歴史にあります。

クリアミンの成分、麦角の正体、危険性、そして現代医療における位置づけまでを詳しく解説します。

1.クリアミンとはどのような薬か

■ 片頭痛治療の“古典的名薬”

クリアミンは、片頭痛の発作時に用いられる薬です。
主成分は「エルゴタミン酒石酸塩」と「カフェイン」の配合剤です。

エルゴタミンは、血管を収縮させることで頭痛を抑える作用を持っています。片頭痛では、脳周囲の血管拡張や神経炎症が関与しているため、血管を適度に収縮させることで痛みを緩和できます。

そのため、かつては片頭痛治療の主力薬として広く使われていました。

■ 現在では「第二選択薬」

現在の片頭痛治療では、トリプタン系薬やCGRP関連薬が主流です。
クリアミンは、安全性の問題から「他剤で効果が不十分な場合」に限って使われることが多くなっています。

2.クリアミンの「使用上限」が定められている理由

■ 明確な週単位制限

クリアミンの添付文書では、1週間あたりの使用錠数に制限が設けられています。

これは単なる注意喚起ではなく、医学的に裏付けのある「安全ライン」です。

■ 理由①:強力な血管収縮作用

エルゴタミンは非常に強い血管収縮作用を持っています。

過剰に使用すると、以下のような障害が起こる可能性があります。

・手足の血流障害
・冷感・しびれ
・壊死
・心筋虚血
・脳血管障害

特に末梢血管への影響は深刻で、重症例では切断に至った報告もあります。

■ 理由②:体内蓄積と中毒リスク

エルゴタミンは体内に蓄積しやすい性質があります。
連続使用により、慢性的な中毒状態になることがあります。

これを「エルゴティズム(麦角中毒)」と呼びます。

症状としては、

・強い四肢痛
・しびれ
・チアノーゼ
・動悸
・筋肉痛

などが出現します。

週単位で制限することで、この慢性中毒を防いでいます。

■ 理由③:薬物乱用頭痛の防止

クリアミンは「効きが良い」ため、つい使用頻度が増えがちです。

しかし、頻回使用により、

・薬が切れると頭痛が再発
・再び服用
・さらに悪化

という悪循環に陥ります。

これを「薬物乱用頭痛(MOH)」といいます。

エルゴタミン系薬は、このMOHを最も起こしやすい薬のひとつです。

■ 理由④:自己判断使用の危険性

クリアミンは頓服薬であり、患者自身が服用量を調整します。

そのため、

「今日は強いから多めに」
「予防的に飲もう」

といった誤用が起こりやすくなります。

明確な上限設定は、こうした乱用防止の役割も果たしています。

3.麦角とは何か

■ 麦角の正体

「麦角」とは、ライ麦や小麦などに寄生するカビが作る黒紫色の塊です。

原因菌は「Claviceps属真菌」で、穀物の実の代わりに角状の構造物を形成します。

これが「ergot(麦角)」です。

■ 中世ヨーロッパの集団中毒

中世ヨーロッパでは、麦角が混入した穀物から作ったパンを食べることで、大規模中毒が頻発しました。

これを「聖アントニウスの火」と呼びます。

主な症状は、

・手足の壊死
・幻覚
・けいれん
・精神錯乱

などでした。

現代医学的には、麦角アルカロイド中毒と考えられています。

4.麦角から生まれた医薬品

■ 毒から薬へ

麦角には「麦角アルカロイド」と呼ばれる生理活性物質が含まれています。

これらは強力な作用を持つため、精製すれば薬として利用可能でした。

そこから生まれたのが、
・エルゴタミン(片頭痛)
・エルゴメトリン(産後出血)
・ドパミン作動薬(パーキンソン病)

などです。

■ LSDとの関係

麦角アルカロイドの研究過程で、リゼルグ酸誘導体からLSDが合成されました。

つまり、LSDも麦角由来の化合物です。

このことからも、麦角成分の中枢神経作用の強さが分かります。

5.なぜ麦角製剤は危険なのか

■ 受容体への非選択的作用

麦角アルカロイドは、以下の受容体に幅広く作用します。

・セロトニン受容体
・アドレナリン受容体
・ドパミン受容体

そのため、

・血管収縮
・子宮収縮
・心臓弁障害
・線維症
・中枢障害

など多彩な副作用が起こります。

■ 持続的作用

麦角系薬は作用時間が長く、収縮が持続します。

これが安全域を超えると、不可逆的障害につながります。

6.トリプタンとの違い

現在主流のトリプタン系薬は、5-HT1B/1D受容体に選択的に作用します。

一方、麦角系は非選択的です。

この違いにより、

・安全性
・副作用頻度
・管理の容易さ

に大きな差が生まれています。

7.現代医療におけるクリアミンの位置づけ

■ 「最後の選択肢」に近い薬

現在の治療方針では、

・トリプタン無効
・他剤禁忌
・特殊症例

などに限定して使用されることが多い薬です。

■ 頻回使用は治療見直しサイン

週の上限まで使用している患者は、

・予防療法の導入
・治療方針変更
・専門医紹介

を検討すべき状態です。

8.まとめ

クリアミンに使用上限が設けられている理由は、偶然ではありません。

それは、

1.強力な血管収縮作用
2.中毒・蓄積リスク
3.薬物乱用頭痛
4.自己調整による乱用
5.麦角由来成分の危険性

という複数の問題が重なっているためです。

■ 一言でいうと

クリアミンは「効くが危険性も高い、歴史ある薬」であり、
その使用には厳密な管理が必要である。

という位置づけになります。

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