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クリアミンに使用上限がある理由と麦角の歴史
公開. 更新. 投稿者: 37 ビュー. カテゴリ:頭痛/片頭痛.この記事は約4分27秒で読めます.
目次
クリアミンを1週間に10錠以上飲んじゃダメ?
頭痛治療薬として古くから使われてきた「クリアミン」は、現在でも一部の患者に処方されています。しかし、この薬には「1週間あたりの使用上限」が明確に定められているという、他の鎮痛薬にはあまり見られない特徴があります。
なぜクリアミンには厳しい制限があるのでしょうか。
その答えは、「麦角(ばっかく)」というカビと、その成分がもつ強力な作用の歴史にあります。
クリアミンの成分、麦角の正体、危険性、そして現代医療における位置づけまでを詳しく解説します。
1.クリアミンとはどのような薬か
■ 片頭痛治療の“古典的名薬”
クリアミンは、片頭痛の発作時に用いられる薬です。
主成分は「エルゴタミン酒石酸塩」と「カフェイン」の配合剤です。
エルゴタミンは、血管を収縮させることで頭痛を抑える作用を持っています。片頭痛では、脳周囲の血管拡張や神経炎症が関与しているため、血管を適度に収縮させることで痛みを緩和できます。
そのため、かつては片頭痛治療の主力薬として広く使われていました。
■ 現在では「第二選択薬」
現在の片頭痛治療では、トリプタン系薬やCGRP関連薬が主流です。
クリアミンは、安全性の問題から「他剤で効果が不十分な場合」に限って使われることが多くなっています。
2.クリアミンの「使用上限」が定められている理由
■ 明確な週単位制限
クリアミンの添付文書では、1週間あたりの使用錠数に制限が設けられています。
これは単なる注意喚起ではなく、医学的に裏付けのある「安全ライン」です。
■ 理由①:強力な血管収縮作用
エルゴタミンは非常に強い血管収縮作用を持っています。
過剰に使用すると、以下のような障害が起こる可能性があります。
・手足の血流障害
・冷感・しびれ
・壊死
・心筋虚血
・脳血管障害
特に末梢血管への影響は深刻で、重症例では切断に至った報告もあります。
■ 理由②:体内蓄積と中毒リスク
エルゴタミンは体内に蓄積しやすい性質があります。
連続使用により、慢性的な中毒状態になることがあります。
これを「エルゴティズム(麦角中毒)」と呼びます。
症状としては、
・強い四肢痛
・しびれ
・チアノーゼ
・動悸
・筋肉痛
などが出現します。
週単位で制限することで、この慢性中毒を防いでいます。
■ 理由③:薬物乱用頭痛の防止
クリアミンは「効きが良い」ため、つい使用頻度が増えがちです。
しかし、頻回使用により、
・薬が切れると頭痛が再発
・再び服用
・さらに悪化
という悪循環に陥ります。
これを「薬物乱用頭痛(MOH)」といいます。
エルゴタミン系薬は、このMOHを最も起こしやすい薬のひとつです。
■ 理由④:自己判断使用の危険性
クリアミンは頓服薬であり、患者自身が服用量を調整します。
そのため、
「今日は強いから多めに」
「予防的に飲もう」
といった誤用が起こりやすくなります。
明確な上限設定は、こうした乱用防止の役割も果たしています。
3.麦角とは何か
■ 麦角の正体
「麦角」とは、ライ麦や小麦などに寄生するカビが作る黒紫色の塊です。
原因菌は「Claviceps属真菌」で、穀物の実の代わりに角状の構造物を形成します。
これが「ergot(麦角)」です。
■ 中世ヨーロッパの集団中毒
中世ヨーロッパでは、麦角が混入した穀物から作ったパンを食べることで、大規模中毒が頻発しました。
これを「聖アントニウスの火」と呼びます。
主な症状は、
・手足の壊死
・幻覚
・けいれん
・精神錯乱
などでした。
現代医学的には、麦角アルカロイド中毒と考えられています。
4.麦角から生まれた医薬品
■ 毒から薬へ
麦角には「麦角アルカロイド」と呼ばれる生理活性物質が含まれています。
これらは強力な作用を持つため、精製すれば薬として利用可能でした。
そこから生まれたのが、
・エルゴタミン(片頭痛)
・エルゴメトリン(産後出血)
・ドパミン作動薬(パーキンソン病)
などです。
■ LSDとの関係
麦角アルカロイドの研究過程で、リゼルグ酸誘導体からLSDが合成されました。
つまり、LSDも麦角由来の化合物です。
このことからも、麦角成分の中枢神経作用の強さが分かります。
5.なぜ麦角製剤は危険なのか
■ 受容体への非選択的作用
麦角アルカロイドは、以下の受容体に幅広く作用します。
・セロトニン受容体
・アドレナリン受容体
・ドパミン受容体
そのため、
・血管収縮
・子宮収縮
・心臓弁障害
・線維症
・中枢障害
など多彩な副作用が起こります。
■ 持続的作用
麦角系薬は作用時間が長く、収縮が持続します。
これが安全域を超えると、不可逆的障害につながります。
6.トリプタンとの違い
現在主流のトリプタン系薬は、5-HT1B/1D受容体に選択的に作用します。
一方、麦角系は非選択的です。
この違いにより、
・安全性
・副作用頻度
・管理の容易さ
に大きな差が生まれています。
7.現代医療におけるクリアミンの位置づけ
■ 「最後の選択肢」に近い薬
現在の治療方針では、
・トリプタン無効
・他剤禁忌
・特殊症例
などに限定して使用されることが多い薬です。
■ 頻回使用は治療見直しサイン
週の上限まで使用している患者は、
・予防療法の導入
・治療方針変更
・専門医紹介
を検討すべき状態です。
8.まとめ
クリアミンに使用上限が設けられている理由は、偶然ではありません。
それは、
1.強力な血管収縮作用
2.中毒・蓄積リスク
3.薬物乱用頭痛
4.自己調整による乱用
5.麦角由来成分の危険性
という複数の問題が重なっているためです。
■ 一言でいうと
クリアミンは「効くが危険性も高い、歴史ある薬」であり、
その使用には厳密な管理が必要である。
という位置づけになります。




