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漢方薬をオブラートで包んではダメ?
公開. 更新. 投稿者:漢方薬/生薬.この記事は約4分38秒で読めます.
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苦い漢方薬の飲み方

「この漢方、苦くて飲めないんですけど…」
「ゼリーに混ぜても大丈夫ですか?」
薬局でこうした質問を受けた経験のある薬剤師の方も多いのではないでしょうか。特に小児科領域では、漢方薬の味や匂いに対して強い拒否反応を示すことがあり、服薬の工夫が求められます。
漢方薬の味には意味がある
漢方薬の中には、苦味や独特の芳香をもつ生薬が含まれているものがあります。代表的なのが以下のような健胃作用をもつ生薬です。
苦味健胃薬:オウレン、オウバク、センブリ、リュウタン、ゲンチアナ など
芳香健胃薬:ケイヒ、ショウキョウ、ウイキョウ など
これらの生薬は、単に「苦い」「臭い」というだけでなく、その苦味や香りそのものが消化管を刺激し、胃液分泌や腸の蠕動運動を促進する「薬効成分」なのです。
つまり、オブラートやゼリーで味や香りを遮ってしまうと、本来の効果が十分に発揮されなくなる可能性があるのです。
これは、漢方薬を配合した医療用胃腸薬でも同様で、患者さんに「できればそのまま服用してください」と伝えることが望ましい場面もあります。
「良薬口に苦し」は本当か?
昔から「良薬口に苦し」と言います。これは本来、孔子の言葉で「自分にとって本当に大切な忠告は耳が痛いものだ」という比喩表現ですが、苦い薬に通じる面もあります。
実際、漢方薬の苦味や香りを「まずい」と感じる人も多くいます。しかし漢方医学では、「味覚の相性」も証の一部とされることがあり、飲みやすいと感じる処方は、その人に合っていることが多いとされます。
反対に、どうしても受け付けられない薬であれば、体質に合っていない可能性もあるため、症状の経過を見ながら医師と相談するのもひとつの方法です。
小児への漢方薬、どう飲ませる?
乳幼児や小児では、苦味やにおいへの感受性が高く、漢方薬をそのまま服用させるのは困難なこともあります。ここで有効なのが、味のマスキングです。
基本の工夫:
・ゼリー状オブラート(例:「おくすり飲めたね」)
→ ピーチ味・いちご味・ぶどう味などのフレーバーがあり、小児向けに開発された服薬補助食品。
・袋型オブラート
→ 顆粒を包んで飲み込みやすくした形状。
これらは基本的に漢方薬と併用しても問題ないとされていますが、苦味健胃薬の効果を期待する場合は注意が必要です。
具体的な味マスキングの方法:
〇液体で混ぜる場合(ジュース・ココアなど)
・1包分のエキス剤にティースプーン1~2杯の熱湯を加える
・5分ほど放置し、水分を吸わせる
・ココアやリンゴジュースなどの飲料(約50mL)を加えて混ぜる
※混ぜる量が少ないと薬の味が勝ってしまい、多すぎると飲み残しが出てしまうので注意。
〇半固形食品で混ぜる場合(アイス、ヨーグルトなど)
・顆粒のザラつきを減らすため、薬包のまま麺棒などで押し潰す
・アイスクリームやチョコクリームなどの甘味食品と混ぜて与える
・スプーン2杯程度の量で完結させるのがポイント
特にココアは、カカオバターが苦味受容体に働き、苦味を感じにくくする効果があることがわかっています。冷たさによる味覚の鈍麻も手伝って、アイスや冷たいゼリーは優秀なマスキング手段です。
漢方薬と電子レンジの意外な関係?
意外に知られていないのが、「電子レンジ加温」です。
お湯で溶かしただけでは残るザラつきや匂いも、電子レンジで15秒ほど温めることで改善されることがあります。
また、以下のような工夫も効果的です。
・お湯10〜20ml+砂糖(2〜3g)で溶かす
・ほうじ茶、麦茶で溶かす
・ヤクルトやプリン、ヨーグルトに混ぜて与える(数分放置で粒が消える)
味のマスキングには限界もある
一方で、味のマスキングにはデメリットもあります。とくに苦味健胃薬や芳香性生薬は、味や香りそのものが薬効に直結しているため、それを隠してしまうと、十分な効果が得られない可能性もあるのです。
また、長期服用が必要な場合、「いつまでもマスキングに頼ると自立した服薬が難しくなる」ことも考慮すべきです。実際には、苦労しながらも水やお湯で飲めるようになる小児も多くいます。
子どもに飲ませるときの裏技:
・薬を混ぜているところを見せない
→ 子どもが薬そのものを拒否している場合、混入がバレると飲まなくなってしまう
・飲みきれる量に調整する
→ 量が多いと最後に薬の味が残ってしまうため、スプーン2杯程度に
漢方薬をどう飲ませるかは、薬効と現実のバランスで
漢方薬は「苦くて臭い」だけでなく、「味や香りがそのまま薬効につながる」という独自の特性を持っています。そのため、オブラートで包んでしまうと、場合によっては効果を妨げることもあるのです。
一方で、小児や服薬困難な患者にとっては、「飲めない薬は効かない」のもまた事実。味マスキングやゼリー、ジュースなどを上手に活用し、服薬コンプライアンスの維持を優先することも重要です。
薬剤師としては、漢方薬の成分と目的を理解したうえで、患者に最適な服薬方法を一緒に考えてあげることが求められます。