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加湿器は風邪予防になる?
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約4分40秒で読めます.
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加湿器は風邪予防になる?乾燥・湿度・ウイルスの意外な関係とは

「冬は加湿器を使いましょう。風邪予防になりますよ。」
こんな言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。実際に、ドラッグストアや家電量販店では、乾燥する季節になると加湿器がずらりと並びます。
ところが近年、夏でもインフルエンザが流行したり、湿気の多い季節にウイルス感染症が広がるケースも増えており、「ウイルスは乾燥に弱い」という“常識”に対して、再考の必要が出てきています。
「ウイルスは乾燥に弱い」は本当か?
従来、インフルエンザウイルスなどの「風邪を引き起こすウイルス」は低温・乾燥を好むと考えられてきました。
実際、冬になると空気が乾燥し、気温が下がり、インフルエンザの流行時期を迎えます。そのため「冬=ウイルスが活性化する季節」というイメージが定着しています。
この背景には次のような理由があります:
乾燥した空気中では飛沫が小さく軽くなるため、空気中に長時間漂いやすくなる(感染リスクが高くなる)
湿度が低いと粘膜の防御力が下がる(気道が乾燥し、ウイルスが侵入しやすくなる)
低温ではウイルス粒子が安定しやすい
したがって、冬に加湿器を使って湿度を上げることは、理にかなった感染対策といえます。
なぜ夏にもウイルスが流行するの?
「じゃあ、夏は大丈夫なんだ」と思っていたら、近年は夏にもインフルエンザが流行することがあり、意外に思った人も多いのではないでしょうか。
実際、2023年・2024年と、真夏の7〜8月にインフルエンザが流行したという報告が複数ありました。
さらに、プール熱(咽頭結膜熱)やヘルパンギーナ、手足口病など、夏に流行するウイルス感染症も少なくありません。これらのウイルスは、高温・多湿を好むタイプとも言われています。
この事実は、「ウイルス=乾燥を好む」という一般論に例外があることを示しています。
熱帯地域のインフルエンザは1年中
もう一つ興味深いのが、熱帯地域ではインフルエンザが1年中流行しているという点です。シンガポールやマレーシア、ブラジルなどでは、湿度が高いにもかかわらず、インフルエンザは一定数発生し続けています。
つまり「インフルエンザは湿気に弱い」というのは、日本の冬のような乾燥・低温の環境における傾向であって、ウイルス自体の性質はもっと多様である可能性があるのです。
加湿器の役割は「人間のため」
加湿器がウイルスに対して働きかけるというよりは、
「加湿器の本当の目的は、人間の気道を守ることである」
という考え方が最近では主流です。
空気が乾燥すると、鼻や喉の粘膜が乾いてしまい、バリア機能が弱くなります。そこにウイルスが侵入すると、咳や鼻水などの症状が出やすくなります。
加湿器はこの粘膜の乾燥を防ぎ、粘液や繊毛の働きを保つことで、ウイルスや細菌に対する自然な防御力をサポートするのです。
実際の加湿効果:湿度の目安は?
厚生労働省の推奨では、冬場の室内湿度は50〜60%程度が理想とされています。加湿しすぎるとカビやダニの繁殖につながるため、過度の加湿も避けなければなりません。
湿度の目安と状態
・40%以下:乾燥状態。インフルエンザウイルスが活性化しやすい
・50〜60%:快適な湿度。気道の防御に最適
・70%以上:結露・カビの原因。喘息やアレルギーにも注意
加湿器にもリスクがある?
加湿器は便利な家電ですが、使い方を誤ると健康被害につながる可能性もあります。
◆ 韓国で起きた「加湿器殺菌剤事件」
2011年、韓国で加湿器に入れる「殺菌剤」によって肺障害が多数発生し、9人が死亡するという事件がありました。
殺菌成分を含んだ水蒸気を吸い込んだことで、肺が線維化し呼吸困難に至ったと報告されています。これは殺菌剤を超音波加湿器で霧状にして拡散した結果とされています。
日本ではこのような殺菌剤入り製品は流通していませんが、「加湿器の水に薬剤を入れる」「芳香剤や洗剤を一緒に使う」といった行為は絶対に避けるべきです。
加湿器使用時の注意点
以下の点を守れば、安全に加湿器を使うことができます。
・毎日タンクの水を交換し、ぬめりや水垢をこまめに掃除する
・定期的にフィルターを交換・洗浄する
・アロマや除菌剤をタンクに入れない
・室内の湿度を50~60%に保つように調整する
・超音波式の場合は水質に注意(ミネラル成分が空気中に出ることも)
まとめ:加湿器は万能ではないが有用
加湿器はあくまで感染予防の「補助」的な役割を担う存在です。ウイルスに直接効果を与えるわけではなく、人間側の防御機構を守るために活躍する道具です。
ウイルスの中には乾燥に強いもの、湿気を好むものなど、性質は一様ではありません。また、近年では気候変動や生活スタイルの変化によって、ウイルスの流行時期やパターンも多様化しています。
だからこそ「加湿=万能」と過信せず、適切な衛生管理、睡眠、栄養などの生活習慣の改善と併用することが、真の感染対策につながります。