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漸増の必要のない抗うつ薬は?
公開. 更新. 投稿者: 138 ビュー. カテゴリ:うつ病.この記事は約3分44秒で読めます.
目次
漸増が必要な抗うつ薬はどれ?

抗うつ薬の服薬指導や疑義照会の場面で、
「この薬はなぜ少量から始めるのか」
「この薬はいきなり通常量で出ているが問題ないのか」
と疑問に思った経験は、多くの薬剤師にあるのではないでしょうか。
抗うつ薬の多くは少量開始・漸増投与が基本とされますが、実はすべての抗うつ薬で同じ考え方が必要なわけではありません。
・どの抗うつ薬が「漸増が必要」なのか
・なぜ漸増が必要なのか
・逆に、なぜ漸増しなくても開始できる薬があるのか
を、勉強していきます。
まず結論:漸増が必要な抗うつ薬は?
| 薬効分類 | 一般名 | 商品名 | 用法(漸増) |
|---|---|---|---|
| SSRI | エスシタロプラム | レクサプロ | 10mgを1日1回夕食後 |
| フルボキサミン | デプロメール/ルボックス | (うつ病)1日50mgを初期用量とし、1日150mgまで増量 | |
| パロキセチン | パキシルCR | 初期用量としてパロキセチン12.5mgを経口投与し、その後1週間以上かけて1日用量として25mgに増量する | |
| セルトラリン | ジェイゾロフト | 1日25mgを初期用量とし、1日100mgまで漸増 | |
| SNRI | デュロキセチン | サインバルタ | (うつ病)通常、成人には1日1回朝食後、デュロキセチンとして40mgを経口投与する。投与は1日20mgより開始し、1週間以上の間隔を空けて1日用量として20mgずつ増量する。 |
| ミルナシプラン | トレドミン | 1日25mgを初期用量とし、1日100mgまで漸増 | |
| ベンラファキシン | イフェクサー | 1日37.5mgを初期用量とし、1週後より1日75mgを1日1回食後に経口投与する | |
| NaSSA | ミルタザピン | リフレックス/レメロン | 1日15mgを初期用量とし、15~30mgを1日1回就寝前に経口投与する |
| S-RIM | ボルチオキセチン | トリンテリックス | 10mgを1日1回経口投与する |
なぜ抗うつ薬は「漸増」が必要なのか
ポイントは「効き目」ではなく「副作用」
抗うつ薬の漸増が必要とされる最大の理由は、
効果が強すぎるからではありません。
本質は、服用初期に出やすい副作用を回避するためです。
① セロトニン刺激による初期副作用
SSRI・SNRIでは、服用開始直後から以下の副作用が起こりやすくなります。
・悪心・嘔吐
・下痢
・食欲不振
・不安感・焦燥感
・不眠
これは、脳よりも先に腸管や末梢神経のセロトニン受容体が刺激されるためです。
少量から始めることで
身体がセロトニン増加に慣れる時間を作る
これが「漸増」の意味です。
② 賦活症状(いわゆる“ソワソワ感”)
SSRI・SNRIでは、治療初期に
・落ち着かない
・じっとしていられない
・不安が一時的に増強する
といった賦活症状が出現することがあります。
これが原因で
「薬が合わない」
「悪化した」
と自己中断につながるケースも少なくありません。
漸増は脱落防止策でもあります。
各薬剤ごとの位置づけ
■ SSRI(4成分)は原則として漸増が必要
エスシタロプラム
・SSRIの中では副作用が比較的少なく、初期忍容性が高い薬剤
・添付文書上の通常量は10mgであり、通常量までの漸増は必須ではない
・悪心・眠気・賦活症状が出現する可能性はあるため、患者背景によっては5mg開始が選択されることもある
「最初から通常量(10mg)で開始可能だが、高用量への増量時には漸増が必要」
フルボキサミン
・消化器症状が出やすい
・CYP阻害による相互作用にも注意
少量開始・慎重漸増が基本
パロキセチン
・抗コリン作用が比較的強い
・離脱症状が出やすい
開始も中止も漸増・漸減が重要
セルトラリン
・消化器症状が比較的多い
・海外では高用量使用も多い
初期は必ず少量から
■ SNRI(3成分)も原則漸増
デュロキセチン
・悪心の頻度が高い
・血圧上昇、動悸の報告
20mg開始 → 漸増が基本
ミルナシプラン
・ノルアドレナリン作用が比較的強い
・動悸、発汗、血圧変動
特に高齢者では慎重な漸増が必要
ベンラファキシン
・用量依存的にノルアドレナリン作用が増強
・血圧上昇リスク
低用量から段階的に増量
漸増が必須ではない抗うつ薬
ミルタザピン(NaSSA)
ミルタザピンは、他の抗うつ薬と決定的に異なります。
・セロトニン再取り込み阻害をしない
・5-HT2・5-HT3受容体を遮断
・悪心・下痢が非常に少ない
その結果、
・初期から眠気が出やすい
・食欲増進が出やすい
という特徴があります。
15mg開始がそのまま維持量になるケースも多い
ボルチオキセチン
・セロトニン再取り込み阻害+受容体調整
・認知機能改善効果が注目されている
・消化器症状はあるが比較的軽度
形式上は漸増だが、実質的には少量固定開始に近い
まとめ
・漸増の目的は「効かせるため」ではなく「続けてもらうため」
・SSRI・SNRIは開始時が最もつらい
・ミルタザピンは初期から効き目と副作用が出やすい
この違いを理解していると、
処方意図の理解、服薬指導、薬歴コメントが一段深くなります。




