記事
ネフィー点鼻液とエピペン注射液の違い
公開. 更新. 投稿者: 34 ビュー. カテゴリ:花粉症/アレルギー.この記事は約9分40秒で読めます.
目次
アナフィラキシー対応における新たな選択肢 ― ネフィー点鼻液とエピペン注射液の比較

アナフィラキシー(即時型重篤アレルギー反応)は、急速に進行し、気道閉塞・循環虚脱・意識障害といった致命的な状況に至る可能性があります。初期対応として、迅速な アドレナリン注射液(エピネフリン)の投与が生命予後を左右することが、長年にわたり報告されています。
日本国内ではエピペン注射液(アドレナリン自己注射キット)が広く知られており、学校・保育園、レストランなど、アナフィラキシーリスクのある場面で備えておく重要な医薬品となっています。
そして最近、国内で承認されたネフィー点鼻液(アドレナリンを点鼻投与する製剤)が“注射以外のルート”として新たな選択肢となりうるとして注目を浴びています。
ネフィー点鼻液とエピペン注射液(アドレナリン自己注射器)を比較しながら、「なぜ点鼻か」「どこに利点・課題があるか」「薬剤師・医療者が知っておくべきポイントは何か」を整理します。
アナフィラキシー治療におけるアドレナリンの位置づけ
作用機序
アドレナリン(エピネフリン)は、α受容体およびβ受容体を刺激することで、アナフィラキシー時に発現する血管拡張・血管透過性亢進・気管支狭窄・心拍数低下などの病態を改善します。
具体的には:
・α₁受容体刺激 → 血管収縮、血圧上昇、浮腫や血管透過性亢進の抑制
・β₁受容体刺激 → 心拍出量増加、循環維持
・β₂受容体刺激 → 気管支拡張、気道抵抗の低下
アナフィラキシー発症時には、上記の臓器系統が同時に障害を受けるため、アドレナリンによるマルチ受容体刺激は「初期かつ最重要の対応」とされています。
使用タイミング・重要性
アナフィラキシー対応において、アドレナリン投与の遅れは死亡率・合併症リスクの上昇と関連しています。
日本でもガイドライン等で「迷ったら打つ(投与をためらわない)」という対応が示されており、医療者および患者・家族双方への教育が重要です。
エピペン注射液(アドレナリン自己注射器)の概要
製剤概要・使用法
エピペン®注射液は、筋肉内(通常は大腿外側広筋または上腕三角筋)へのアドレナリン筋注を“自己注射可能”なキットとして設計された医薬品です。
日本においては、体重15kg以上30kg未満には0.15 mg製剤、体重30kg以上には0.3 mg製剤が一般的に使用されており、携帯用ケース付きで携行されることが多いです。
使用手順は「安全キャップを外す → 太ももの外側に垂直に押し当てる → 5秒間保持」などが説明されています。
利点および留意点
利点
・長年の使用実績があり、ガイドライン上で第一次選択として認知されている。
・投与量が確定されており、操作後すぐに薬液が筋肉内に注入される。
・多くの学校・家庭で備蓄されており、緊急時の“慣れ”もある。
留意点・課題
・注射器であるため、針・安全キャップの取り扱いや誤注射(例:手指への誤刺)リスクがある。
・注射をためらったり迷ったりすることで、投与が遅れるケースも報告されている。
・子ども・幼児・学童などにおいて、保護者・教職員が迅速かつ的確に操作できるかどうかの教育・訓練が必要。
・携行・保存・期限管理・熱変性・針の露出など、実務上のハードルがある。
患者支援・教育
・エピペンの普及に伴い、使用説明書やトレーナー(練習器具)などが整備されています。たとえば、学校保健の視点でも「エピペン使用マニュアル」が配布されており、授業・給食時・校外活動時の備えとして重要視されています。
ネフィー点鼻液(アドレナリン点鼻液)の概要
製剤の特徴・開発背景
・ネフィー®点鼻液(1 mg/2 mg)は、アドレナリンを有効成分とし、鼻腔内へスプレー(点鼻)投与できる初の製剤として登場しました。日本国内では2025年9月に製造販売承認を取得しています。
効能・効果として「蜂毒、食物及び薬物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人または発現する危険性の高い人に限る)」とされています。
点鼻という新たな投与経路を用いる背景には、注射以外の簡便な投与手段を求めるニーズがあり、米国では同様の点鼻スプレー「Neffy®」が既に承認されているという報道もあります。
用法・用量・投与対象
・国内情報によれば、体重30 kg未満の患者には1回1 mg、体重30 kg以上の患者には1回2 mgを鼻腔内に投与する用量設定が記載されています。
ただし、国内発売日や保険適用開始時期、実臨床での使用経験はまだ限られており、「補助治療剤」と明記されている点に注意が必要です。
投与方法のポイント・利点
利点
・注射器・針を使用しないため、針刺しによる心理的抵抗・誤注射リスクが大幅に低減される可能性があります。
・点鼻という操作自体が比較的簡単で、教職員・保護者・非専門者でも使用しやすい設計が期待されます。
・携行性・保管性が注射器型より向上する可能性があり、学校・保育園・レストランなど現場での備えとして有用になる可能性があります。
留意点・課題
投与の“補助”治療剤として承認されており、主治医・処方医の登録・教育プログラム等が設定されているため、使用開始前の体制整備が必須です。
鼻からの吸収・投与量・薬物動態・患者状態(例:鼻出血、鼻腔構造異常、重度の呼吸困難時など)に対する影響を考慮する必要があります。
点鼻後の効果持続時間・再投与タイミング・救急車手配・エピペン併用との使い分けなど、実臨床での運用が今後出てくる課題です。
「鼻孔からの噴霧」が適さない状況(例:強い鼻づまり・鼻骨変形・鼻出血など)では注射が優先される可能性があります。
臨床データ・薬物動態
米国のNeffy®に関する報告では、点鼻後の薬物動態および薬力学的反応が、既存の注射型エピネフリン製剤とほぼ同等であったとされます(血中濃度・血圧・心拍数等で比較)。
日本国内でも薬物動態・第Ⅲ相試験が実施され、承認申請に至った旨報じられています。
ネフィー点鼻液 vs エピペン注射液 ― 比較整理
以下に、両製剤を比較する表を示します。
| 項目 | エピペン®注射液 | ネフィー®点鼻液 |
|---|---|---|
| 投与経路 | 筋肉内注射(太もも/上腕) | 鼻腔内点鼻スプレー |
| 投与対象・用量(主な) | 体重15kg以上30kg未満:0.15 mg/30kg以上:0.3 mg | 体重30kg未満:1 mg/30kg以上:2 mg(日本国内申請内容) |
| 投与操作の難易度 | 針を刺す/押し当てるという操作が必要 → 誤刺や注射をためらう可能性あり | 鼻にスプレーを噴霧するだけ → 操作が簡便、訓練負荷低減の可能性あり |
| 薬物動態・効果発現 | 確立されたデータあり、即効性重視 | 注射製剤と同等の血中濃度や心拍数・血圧反応を示した報告あり(米データ) |
| 備蓄・携行性 | ケース付き携行式だが針・刺入怖れ・熱変性・期限管理が必要 | より軽量・針なし・保存・携行性が向上の可能性 |
| 使用ハードル | 注射への抵抗感、誤注射のリスク、非医療者の操作支援が課題 | 鼻スプレーという直感的操作、保護者・学校関係者による使用負担軽減が期待される |
| 承認・適用範囲(日本) | 既に国内使用実績あり、ガイドラインに位置づけられている | 2025年9月に製造販売承認取得。発売日・保険適用日未定。処方医師登録制度あり。 |
| 使用上の留意点 | 注射ミス・使用遅延のリスク、使用後も医療機関受診必須 | 点鼻でもやはり“補助治療”として位置づけられており、救急体制・医療機関受診は必須。鼻腔条件など考慮要。 |
解説・考察
①投与操作の観点
エピペンでは「針刺し」に対する抵抗・誤用リスクが指摘されてきました。特に子ども・幼児・学校・保育現場では、「注射が怖い」「使えなかった」という課題も報告されています。
対して、ネフィー点鼻液は「鼻にスプレー」という直感的操作が可能であり、非専門者による使用ハードルを低くするポテンシャルがあります。
②薬物動態・効果の観点
点鼻によるアドレナリン投与が、注射と同等の薬物動態を示したというデータは、投与経路が異なっても“実用的な代替”となりうることを示唆しています。
ただし、日本国内では実使用経験がまだ限られるため、実臨床での“操作ミス・鼻腔条件・吸収変動”といった要素に対する注意が必要です。
③携行・備蓄・適用環境の観点
注射器型は針・安全キャップ・ケース・期限・温度管理など備蓄管理が負担となることがあります。点鼻型はその点で軽く扱える可能性があり、学校・イベント・レストランなどの“現場備え”としての適用拡大が期待されます。
とはいえ「補助治療剤」という位置づけが明記されており、点鼻だから“注射不要・安心”とは言い切れず、あくまで初期対応として投与後も医療機関受診を要することは共通です。
④安全性・教育・使用体制の観点
ネフィー点鼻液の承認条件として、処方医師登録制度が設けられ、使用に際しての講習や適正使用体制の構築が求められています。
薬剤師・医療者としては、点鼻だからといって“手軽すぎる”という誤解を生まないよう、教育・指導が重要です。特に「いつ使うか」「必ず医療機関・救急車を呼ぶ」という点は、注射・点鼻いずれも変わりません。
実務で薬剤師が押さえるべきポイント
処方・服薬指導時のチェックポイント
①適応・対象患者の確認
ネフィー点鼻液では「アナフィラキシーの既往がある人、または発現する危険性の高い人」に対して補助治療剤として承認されています。
エピペンでは、エピラキシーの予備治療用として処方され、指導・携行が推奨されています。
②操作方法の説明
- エピペン:自己注射器の取り扱い(キャップ外し、太ももへの垂直押し当て、5秒保持など)を必ず練習用トレーナー等で体験説明します。
- ネフィー点鼻液:点鼻位置(鼻腔内)、噴霧回数・用量、使用直前・使用後の注意事項(例えば鼻腔内の出血・強い鼻閉・鼻骨変形の有無)を説明します。
③携行・保存・更新管理
- エピペン:期限・熱変性・ケースの破損・携行ポーチの有無など確認が必要。
- ネフィー点鼻液:携行しやすいよう設計されている可能性があるが、点鼻ノズルの破損・キャップの外し忘れなど実務上の配慮が求められます。
④使用後のフォローアップ
いずれも「投与=治療終了」ではなく、救急医療機関受診が必須。指導時には「投与後も必ず救急/医療機関を受診する」「症状改善しても自己判断で中止しない」ことを確認します。
学校保健ポータルサイト
⑤学校・職場・保育園での指導・備え
薬剤師として、学校・保育園・飲食店・施設等へ「アナフィラキシー対応備え」の指導を行う際、エピペン・ネフィーどちらの存在も説明できるようにしておきましょう。特に点鼻という選択肢が登場したことで、「針を刺すのが怖い/使えない」ケースへの配慮が広がる可能性があります。
今後の展望と課題
期待できる展開
ネフィー点鼻液の発売・保険適用開始により、アナフィラキシー対応の“門戸”が広がる可能性があります。特に、注射に抵抗がある子ども・保護者・学校・施設現場では有用な選択肢となりえます。
点鼻型が普及すれば、携行率・使用率の向上、早期投与の促進へつながる可能性があります。米国の報告では、注射を使わない点鼻製剤が未使用・処方拒否のハードルを下げる可能性を示唆しています。
教育・指導プログラム・地域健康支援体制の整備が、次世代のアナフィラキシー予防・対応モデルとなる可能性があります。
主な課題・留意点
発売直後は、実臨床での使用データが限られており、点鼻による吸収バラツキ・鼻腔条件の影響・重症例での有効性・時間経過後の持続性など解明が必要です。
「補助治療剤」という位置づけであるため、注射製剤を完全に代替するものではなく、症例・状況によって適切な使い分けが重要です。
医療機関・保育園・学校・施設での「点鼻型でも油断しない」教育・シミュレーションが求められます。点鼻であっても、救急医療機関への受診・加療継続が必要です。
コスト・保険適用・備蓄定数・使用期限・携行実態・地域救急体制との連携など、実装上の制度的・運用的課題もあります。
注射型と点鼻型を併用する場合の使い分けガイドラインや、学校・幼稚園用の標準手順の構築が必要です。
まとめ
アナフィラキシー対応において、アドレナリン投与は「早期・確実・実践的」が鍵です。従来のエピペン®注射液は、その役割を十全に果たしてきましたが、操作負担・針への心理的障壁・携行管理など実務面の課題も抱えていました。
今回、ネフィー®点鼻液という“針を使わないアドレナリン製剤”が登場したことで、アナフィラキシー対応備えにおける選択肢が拡大します。点鼻という操作簡便性、携行性の向上、使用ハードルの低下は、学校・保育園・子ども・施設対応といった場面で特に期待されています。
しかしながら、点鼻投与だからといって“安心・手軽”だけではありません。注射製剤同様「適切なタイミングでの投与」「その後の医療機関受診」「教育・訓練」が不可欠です。薬剤師・医療者としては、エピペンとネフィーの特徴・使い分け・操作指導・備蓄管理・教育場面での導入支援に対応できる体制と知識を整えておくことが重要です。
今後、国内での発売・保険適用・実使用データが蓄積されることで、点鼻型アドレナリンの普及とともに、アナフィラキシー対応の新しいスタンダードが形成される可能性があります。薬剤師として、今からその変化を理解し、備えておくことが求められています。




