2025年6月22日更新.2,505記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ニトログリセリンは期限いつまでなら渡して良い?医薬品の期限感覚

発作時薬の期限管理

「ニトログリセリン(ニトロペン、ニトロールスプレー)を渡す際、どのくらい期限が残っていれば安心なのか?」
この問いは、薬局現場で日々の調剤判断に直結する非常に実務的なテーマです。

エピペンなどのアドレナリン製剤は「1年はないとダメ」と言われる一方で、ニトログリセリンなどの発作時薬は、最短で半年でも渡してよいのか、あるいは1年未満では問題になるのか。
薬剤師として「どこまで許容できるのか」の判断は、店舗の方針や個人の感覚に委ねられているのが現状です。

こうした期限の取り扱いに関して、制度・法令・実務感覚を交えつつ、以下の観点から整理します:

・医薬品の期限表示とその意味
・ニトログリセリンやエピペンなど「発作時薬」における期限感覚
・調剤時に求められる「患者目線」と「安全性評価」
・薬局現場での期限管理の落とし穴
・薬剤師としての判断と説明責任

医薬品の「期限」とは何か?

まず基本に立ち返り、「医薬品の使用期限」とは何を意味しているのかを明確にしましょう。

■ 医薬品の期限表示の定義
「使用期限」とは、製薬企業がその医薬品の品質(有効性・安全性・安定性)を保証する最終日を意味します。未開封・適正保存条件下での期限です。

つまり、
・期限を過ぎてもすぐに劣化するとは限らないが
・期限を過ぎた後の品質は保証できない
という位置づけになります。

■ 医薬品販売制度の改正(平成25年)
平成25年(2013年)の医薬品販売制度改正により、以下のような条項が施行されました。

「使用の期限を超過した医薬品の販売等の禁止」
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則 第十五条の三

この条項により、期限切れ医薬品の販売・授与・陳列・広告などが禁止されるようになりました。

それ以前は、明確に禁止されていなかったことも驚きですが、ネット販売を含む医薬品流通の変化を背景に、制度が整備されたという経緯があります。

ニトログリセリンやエピペンは「発作時薬」─期限に敏感な薬

発作時薬は、日常的には使用しないが、緊急時に命を守るために必要な医薬品です。
代表的なものには以下があります:

・エピペン:アナフィラキシー、1年未満の在庫では処方しづらい
・ニトロペン、ミオコールスプレー:狭心症発作、期限切れで再処方が多い
・メプチンエアー、サルタノール:気管支喘息発作、吸入回数・残量確認必要
・ダイアップ坐剤:けいれん予防、保育園提出などで期限厳格

これらに共通するのは、「使わないことが前提だが、使う時には確実に効いて欲しい」というニーズです。
そのため、患者が望む「期限の余裕」は、内服薬以上にシビアになる傾向があります。

患者が求める「安心できる期限」とは?

薬剤師としての感覚と患者側の感覚がズレていることもあります。たとえば:

・内服薬:3ヶ月以上あれば問題視されないことが多い
・点眼薬・貼付剤・吸入薬:2~3ヶ月以上の余裕が欲しい
・発作時薬(ニトロペン・エピペン):最低1年の余裕が欲しい

ニトログリセリン製剤を例にすると、患者が薬局で処方を希望するきっかけは「使ったから」ではなく「期限が切れたから」という場合が圧倒的多数です。

つまり、最初から「1年以上持つ薬」が求められているわけであり、半年しか期限のない薬を渡した場合、トラブルのリスクが高まります。

「最短でどのくらいの期限なら渡せるか」の実務判断

■ 一般論として
・内服薬(PTP):最低でも残り3ヶ月は必要(例外あり)
・点眼薬・貼付剤・外用剤:2~3ヶ月以上
・発作時薬(ニトロペン・ミオコール・エピペン):できれば1年以上、最低でも9ヶ月以上

■ なぜ「半年」では足りないとされるか?
・長期使用が前提であり、半年で使い切る前提がない
・使わないまま保管する性質上、次回受診や処方がいつか不明
・患者が「期限が近いものを渡された」と感じ、不信感を抱くことがある

調剤現場での落とし穴:期限管理の難しさ

薬剤師は理論上、期限管理を徹底しているはずですが、以下のようなリスクがあります:

● バラシート・ハンパ分の期限が不明
・箱から出して棚に残った薬に期限が記載されていない
・「どうせ回転するだろう」と安易な気持ちでそのまま使ってしまう

● 混合散剤・一包化薬の期限が曖昧
・実際の期限を患者に伝えにくい
・記録に残していないと後からトラブルになる可能性も

発覚した場合はどうなるか?─薬機法違反のリスク

期限切れ医薬品を誤って調剤した場合、それは調剤過誤(インシデント)になります。
しかも、悪質とみなされた場合は、薬機法違反で営業停止などの処分が下る可能性もあります。

患者が服薬後に気づいた場合、以下のようなパターンが考えられます:
・軟膏チューブや点眼薬など「期限記載あり」 → すぐに発覚しやすい
・内服薬(PTP)で「期限記載なし」 → 発覚しにくいが、信頼を失うリスクが高い

実務提案:「期限感覚マップ」の活用

以下のような「期限の目安表」を作成しておくと、薬局全体での統一感が出て事故を減らせます。

薬の種類望ましい残存期限最低ライン備考
内服薬(通常)6ヶ月以上3ヶ月程度PTPシートは患者が期限を見られないことが多い
外用薬(点眼・貼付)3ヶ月以上2ヶ月程度期限記載ありのため注意
吸入薬・発作時薬1年以上9ヶ月以上安心感のためにも長いほうが望ましい
エピペン・ニトロ系1年が必須感覚9ヶ月未満は避けたい特殊用途のため慎重に

まとめ:「期限の感覚」は薬剤師の責任

薬の期限は、単なる数字ではありません。
患者にとっては「この薬が本当に効くかどうか」の指標であり、薬剤師にとっては信頼のバロメーターです。

特にニトログリセリンやエピペンのような緊急薬は、使わないで済む薬だからこそ、いざという時に100%の効果を期待されます。
だからこそ、期限の余裕にこだわるのは当然のことです。

調剤時の「この期限で渡して大丈夫か?」という直感は、実務経験と倫理観の積み重ねからしか育ちません。
薬局としてのルール整備、薬剤師としての説明力、そして何よりも患者にとっての安心感を第一に考える視点が求められます。

1 件のコメント

  • 前期高齢者 のコメント
         

    仮に、月初にある一般用医薬品の使用期限が月末に来るような場合に販売価格を下げて、割引きして販売した場合には、違反になりますよ?

コメント


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