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処方せんの受付を断ってはダメ?
公開. 更新. 投稿者:調剤/調剤過誤.この記事は約2分19秒で読めます.
2,612 ビュー. カテゴリ:薬剤師が調剤を拒否できるか

薬局で働いていると、どんなタイミングであっても処方せんを持った患者さんが来局することがあります。たとえば、閉店間際や休憩中、あるいは調剤室に薬がない時など、内心「今は無理…」と思う瞬間もあるでしょう。しかし、薬剤師は法的に「調剤の求めを拒んではいけない」とされています。
この義務の根拠は、薬剤師法第21条です。
薬剤師法 第21条(調剤の求めに応ずる義務)
調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
つまり、基本的に患者が処方せんを持参すれば、薬剤師は調剤しなければならないのです。これは「義務」として法律に明記されています。
「正当な理由」とは何か?
では、どのような場合に「正当な理由」が認められ、調剤を断ってもよいのでしょうか。法令上、具体的な定義は明示されていませんが、実務や判例、行政通知などから以下のような状況が例として挙げられます。
◎ 正当な理由とされうるケース
・薬局が天災・災害等で機能していない場合
例:東日本大震災のような大規模災害により調剤が物理的に不可能な場合。
・法令違反となる調剤の場合
例:麻薬小売業者免許のない薬局で麻薬処方せんが提出された場合。
・薬の在庫がまったくなく、至急の取り寄せも困難な場合
→ この場合も原則「断る」よりは、「一部残薬調整」「近隣薬局への紹介」「後日調剤で日付記載」などの工夫が求められる。
・薬剤師不在(閉局時間外)で業務ができない場合
例:薬局が営業時間外、かつ対応できる薬剤師もいない場合は受付を断るのはやむを得ない。
×正当な理由とは認められにくいケース
・「在庫がないから」という理由だけで無対策のまま断る
・忙しい、昼休み中、休憩中といった薬剤師の都合だけで拒否する
・調剤が面倒・時間がかかるなど主観的事情による拒否
たとえ勤務時間外や昼休憩中でも、薬剤師が在籍しており薬局として機能している時間帯であれば、患者への対応は求められます。
■ 他職種と同様の義務が課されている
薬剤師に限らず、医師も同様の義務を負っています。
医師法 第19条 第1項(応招義務)
診療に従事する医師は、診療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
医師も、診療拒否は原則不可。ただし、正当な理由がある場合に限り拒否が認められます。
■ 現場対応の工夫
調剤を「拒む」のではなく、時間を要することを説明したうえで柔軟に対応することが望まれます。
「ただいま薬歴記載中ですので、順番にご案内いたします」
「在庫がない薬がございますが、●日までにお渡しできます」
「一部を先にお渡しし、残りは後日ご用意できます」
といった形で、断るのではなく“調整する”姿勢が、法的にも患者対応としても好ましいものです。
薬剤師は、患者の生命や健康を預かる専門職です。その責任の一環として、「調剤の求めを拒んではならない」という義務が課されています。
在庫切れや多忙な業務状況に直面することもありますが、法律上の責任を踏まえ、現実的な代替策を提示することが、信頼される薬局づくりの第一歩になります。