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胃薬で血圧上昇?重曹に含まれるナトリウム量
公開. 更新. 投稿者:高血圧.この記事は約4分55秒で読めます.
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胃薬で血圧上昇する?

「太田胃散を飲んでいたら、せっかくの減塩努力が台無しになるって本当ですか?」
薬局やドラッグストアで働いていると、こんな質問をされることがあります。
確かに胃薬には「ナトリウム」が含まれている製品が少なくありません。
とくに「炭酸水素ナトリウム(重曹)」は、市販の胃薬に幅広く使われています。
そしてこのナトリウム、言うまでもなく“塩分”の主要構成成分。
高血圧のリスク因子として知られており、
「健康のために減塩を心がけている方」にとっては見逃せない存在です。
「胃薬=塩分を摂る」ってどういうこと?
胃薬に含まれているナトリウムの代表が、「炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)」、いわゆる重曹です。
これは胃酸(塩酸)と中和反応を起こして胃の不快感を和らげる成分ですが、
化学反応の結果として塩化ナトリウム(NaCl)=食塩が体内に生成されます。
このため、「ナトリウム成分を摂る」=「食塩を体内で生み出す」ことになるのです。
太田胃散に含まれるナトリウム量は?
具体的にどれくらいの塩分になるのでしょうか。
太田胃散の1日最大用量に含まれる炭酸水素ナトリウム量は1875mg(1.875g)とされています。
食塩換算の計算式:
・炭酸水素ナトリウムの分子量:84(g/mol)
・塩化ナトリウムの分子量:58.5(g/mol)
生成される塩化ナトリウムは、
1.875g × (58.5 ÷ 84) ≒ 1.3g
つまり、太田胃散1日分で約1.3gの食塩を摂取したのと同じことになります。
減塩目標と比較してどうなのか?
日本高血圧学会のガイドラインでは、1日の食塩摂取量の目標は6g未満(高血圧予防の場合)とされています。
太田胃散の1日分だけでその20%以上に相当する塩分を摂ってしまう計算です。
例えば、朝食・昼食・夕食において塩分を1gずつ抑えても、その努力が胃薬ひとつで帳消しになってしまう可能性があるのです。
太田胃散だけでなく、他の市販薬や医療用製剤にもナトリウムを含むものはあります。以下に、いくつか代表的な胃腸薬の炭酸水素ナトリウム量と食塩換算量を比較してみましょう。
製品名 | 炭酸水素ナトリウム量(g) | 食塩換算量(g) |
---|---|---|
太田胃散(1日分) | 1.9 | 1.3 |
新キャベジンコーワS(1日分) | 0.9 | 0.6 |
ビアサン(1日分) | 2.8〜3.8 | 2.0〜2.7 |
つくしAM散(1日分) | 1.4〜1.8 | 1.0〜1.3 |
S・M配合散(1日分) | 0.9 | 0.6 |
※食塩換算:炭酸水素ナトリウム(g)×0.7
こうしてみると、製品によって塩分負荷に差があることがわかります。
長期服用をしている場合や、高血圧・腎疾患・心疾患など塩分制限が必要な方は特に注意が必要です。
経口補水液も意外と“しょっぱい”
ここで意外と見落とされがちなのが、「経口補水液(ORS)」です。
熱中症予防や下痢時の脱水対策として有用ですが、
普段の水分補給として安易に飲んでいる人が少なくありません。
例えば「OS-1」の場合、500mL中にナトリウム575mg=食塩換算1.46gが含まれます。
水代わりに毎日飲むと、知らないうちに塩分過多に。
健康な人の普段の水分補給は、水かお茶で十分です。
ナトリウムは「薬や飲料にも含まれる」ことを、患者さんに説明しておくと誤解を防げます。
食塩1gで血圧はどのくらい上がる?
では、食塩1gによって血圧にどのような影響が出るのでしょうか?
研究報告では、
高血圧患者において、1gの減塩で収縮期血圧が約1mmHg下がる
という結果が示されています(個人差あり)。
逆に言えば、1g余計に塩分を摂れば、血圧が1mmHg上がる可能性があるとも考えられます。
これが毎日積み重なれば、1ヶ月で30mmHgの差にもなりかねないのです。
漢方薬にもナトリウムが?
意外かもしれませんが、医療用漢方薬にもナトリウムが含まれている製剤があります。
たとえば、芒硝(硫酸ナトリウム水和物)を含む以下の製品では、Na量と食塩換算量がインタビューフォームに記載されています。
製品名(ツムラ製) | Na量(mg) | 食塩換算(g) |
---|---|---|
大黄牡丹皮湯エキス顆粒 | 301.5 | 0.8 |
大承気湯エキス顆粒 | 284.3 | 0.7 |
通導散エキス顆粒 | 259.5 | 0.6 |
桃核承気湯エキス顆粒 | 215.3 | 0.5 |
防風通聖散エキス顆粒 | 102.8 | 0.3 |
調胃承気湯エキス顆粒 | 105 | 0.3 |
特に「下剤効果」のある漢方薬では、含まれるナトリウム量も無視できません。
「自然由来だから安全」と思い込みがちな漢方薬こそ、成分表示を確認することが大切です。
栄養成分表示の「ナトリウム」に注意
食品の栄養表示を見ると、「ナトリウム○○mg」と書かれていることがあります。
このナトリウム量を食塩相当量に換算するには、以下の式が使えます:
ナトリウム(mg)×2.5 ÷ 1000=食塩(g)
例:ナトリウム520mg → 食塩換算1.3g
これを患者さんに伝えるときは、「ナトリウム量の約2.5倍が塩分量」と覚えてもらうとわかりやすいです。
ナトリウムに過敏な方、減塩を徹底している方には、以下のようなサポートができます。
・成分量の確認方法を教える
・他の代替薬(低ナトリウム処方)の提案
・食事・サプリ・飲料などトータルのナトリウム摂取量の意識を促す
・ナトリウムと食塩換算の計算方法をわかりやすく説明
胃薬の“見えない塩分”に注意を
・太田胃散1日分で約1.3gの塩分が体内に生成される
・減塩目標(1日6g未満)の20%以上に相当
・経口補水液や漢方薬にもナトリウムが含まれる
高血圧の方、塩分制限中の方は“薬の中のナトリウム”にも注意を
「胃薬は健康のため」と思って使っているものが、
実は血圧管理を妨げているかもしれません。
薬剤師としては、こうした“見えない塩分”に光を当て、
患者さんの減塩努力をサポートすることが求められています。