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鉄剤は空腹時に飲んだ方がいい?
公開. 更新. 投稿者:血液/貧血/白血病.この記事は約4分18秒で読めます.
15,028 ビュー. カテゴリ:ヘム鉄と胃酸
フェロミアなどの鉄剤は胃に対する直接刺激、吐き気があるので、服薬指導時に「食後すぐに飲んだほうが吐き気が少ない」と指導することがしばしばあります。
しかし鉄剤の中には、フェロ・グラデュメットやテツクールなど「空腹時」という用法の薬がある。
基本的には「空腹時」に飲ませたほうがいいのだろうか?
鉄は胃酸によって、3価鉄が2価鉄になって、腸管から吸収される。
同じ鉄分でも、鉄は水溶液中では二価の鉄イオン(Fe2+)と三価の鉄イオン(Fe3+)とがあります。
鉄分を食品から摂取する場合、動物性の食品に多く(60%ほど)含まれるヘム鉄(鉄単体ではなく、二価の鉄原子とタンパク質からなる分子)、植物性の食品に含まれる非ヘム鉄(ヘム鉄以外)とが有ります。動物性の鉄分はヘム鉄と言う形でそのまま吸収できます。非ヘム鉄は三価鉄でそのままでは吸収できず、ビタミンCや消化酵素によって二価鉄に還元されて吸収されます。
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胃の中に食事が入っている状態よりも、胃の中が空っぽなほうが胃酸の影響を受けやすいので、鉄剤は空腹時に飲んだ方がいいとも言われる。
鉄剤の中でフェロミアはクエン酸第一鉄(2価鉄)で胃酸の影響を受けにくいので、食後服用となっている。
フェルム(フマル酸第一鉄)も2価鉄。
インクレミン(溶性ピロリン酸第二鉄)は3価鉄。インクレミン以外は2価鉄。
Fe2+(2価鉄)の状態じゃなければ吸収されないので、Fe3+(3価鉄)は胃酸で還元される必要性がある。
フェルムは1日1回。
フェロ・グラデュメットは、「1~2回に分けて,空腹時に,または副作用が強い場合には食事直後に,経口投与する.」となっている。
フェルムもフェロ・グラデュメットも徐放錠なので影響は少ないのではないかと思うのですが、空腹時が基本。
鉄欠乏性貧血の患者は鉄吸収が亢進状態にあるので、食後でも問題ないという話もあります。
フェルムの添付文書には、併用注意のところに、
制酸剤 同時に服用することを避ける。 制酸剤が消化管のpHを上昇させ,また,不溶性の塩を形成することにより本剤の吸収を阻害する。
と書いてある。
フェロ・グラデュメットにも制酸剤との併用注意が書かれている
フェロミア以外の鉄剤とPPIとかH2ブロッカーが併用されていた場合、間隔を空けて使うように指導しますが、そんな必要もないのかな。
フェロ・グラデュメットと胃内pH
フェロ・グラデュメット(乾燥硫酸鉄)は硫酸鉄の徐放剤である。
同薬は空腹時の服用が原則である。
硫酸鉄は、pH上昇に伴い高分子重合体を形成するため、食後に服用すると吸収されにくくなるためである。
鉄は、酸性の水溶液中では水が配位した状態で溶解しており、Fe(H2O)6 2+で存在している。これがpH上昇に伴いH+が解離していくと、-Fe-OH-Fe-OH-Feのように無制限に重合して高分子鉄重合体[Fe(OH)3]∞が形成される。
高分子化すると吸収されにくくなる。
特に硫酸第一鉄のような錯体構造を持たない鉄は水溶液中pHが上昇するとH+が外れ、容易に高分子重合体を形成しやすくなると言われている。
一方、フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)は、クエン酸と鉄との間で錯体構造を形成しているため、pHが上昇しても、クエン酸との間に低分子キレートが安定して存在しており、硫酸第一鉄のように高分子鉄重合体を形成せずに溶解しているものと考えられている。
そのため、胃切除後で胃酸分泌が少なく、胃内pHが中~アルカリ性の患者であっても、吸収されにくくなることはない。
胃内のpHが高くなる要因としては、胃切除のほかに、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬の服用が挙げられる。
また、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウムを服用した場合にも鉄吸収の阻害が示唆されたとの報告がある。これらの薬剤は、医療用医薬品以外にもOTC薬などで服用しているケースがあり、注意が必要である。
鉄剤と吐き気
貧血のとき処方される鉄剤。
鉄分の必要量の多い妊婦さんにもよく処方されます。
鉄剤を飲むと気持ち悪くなる患者さんが多いです。
妊婦さんだとつわりの吐き気もあってさらに気持ち悪くなります。
飲んでいるうちに慣れてくるので、初めは少量から飲ませるという方法もあります。
また、食直後に飲んだほうが胃に対する刺激が少ないのでいいです。
あとビタミンCは鉄の吸収を促進し、胃腸障害を強めることがあるので、食後のフルーツのあとに鉄剤を飲むことは避けましょう。
逆にお茶で飲むと鉄剤の吸収を妨げるのでいいかも知れません。
鉄剤による消化器症状
鉄剤は消化管を刺激するために悪心、嘔吐、腹痛、食欲低下といった胃腸障害を起こす頻度が高い。
便秘、下痢、腹部膨満感、が表れることもある。
ただし、1週間程度服用を続けると症状が改善することが多いので、可能であれば服用を継続する。
副作用症状がひどいときは、鉄の吸収が若干落ちるが、服用時点を空腹時から食後や就寝前にすると軽快することがある。
このほか、胃腸薬か、吸収は低下するが制酸剤を併用する、投与量をいったん減らして再度増量する、といった対応が取られることもある。
なお、緑茶などに含まれるタンニン酸が鉄と結合するが、これによる吸収阻害は臨床上はあまり問題にならない。
鉄剤と一緒にお茶を摂取しなければ、お茶の制限は必要ない。
鉄剤と便秘
鉄剤の服用で便秘になるというのはよく知られている。
妊婦さんなんかで、貧血気味で鉄剤が処方される方もいますが、妊娠すると便秘気味にもなるので、鉄剤を飲むと便秘がさらに悪化。
なんてことも。
あるいは、便秘がちで痔になり、痔出血などで鉄剤が処方されたりした患者が、鉄剤を飲んで便秘がさらに悪化。
とか。
女性に対して「便秘になることがあります」なんて言うと、コンプライアンス下がりそうで、なかなか言いづらい副作用ではある。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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