2025年11月26日更新.2,671記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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イボの治療に使われる処方薬―ヨクイニンからビタミンD₃外用薬、ベセルナクリームまで

イボはなぜできるのか?

皮膚にできる「イボ(疣贅)」の多くは、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因です。
ウイルスが表皮の小さな傷から侵入し、角化細胞の増殖を促すことで、皮膚の一部が盛り上がったような硬い結節を形成します。

発症部位は手足、指、顔などに多く、見た目が気になるだけでなく、歩行時の痛みや他人への感染のリスクもあります。
また、自然に治ることもありますが、数か月から数年かかることもあり、根気のいる治療が必要です。

皮膚科では凍結療法(液体窒素)が最も一般的ですが、薬局でも扱うことができる院外処方薬にも、有効性が報告されているものがあります。

ヨクイニン(薏苡仁)内服 ― 「体質改善」ではなく、免疫を整える

● 成分と由来
ヨクイニン(薏苡仁)はハトムギの種皮を除いた生薬です。
漢方薬として古くから「肌荒れ」「いぼ」「むくみ」に用いられてきました。

● 作用機序(現代医学的視点)
はっきりとした作用機序はまだ解明されていませんが、次のような効果が指摘されています。

・免疫調整作用:リンパ球やマクロファージの活性化
・抗ウイルス作用:HPVの増殖抑制に関与する可能性
・角化抑制作用:皮膚細胞のターンオーバーを整える

つまり、直接ウイルスを殺すわけではなく、自己免疫を整えて自然治癒を促すという穏やかなアプローチです。

● 用法と注意点
・通常、1日3回食前または食間に内服
・効果が出るまで数週間〜数か月かかる
・小児にも比較的安全に使える

副作用は少ないものの、稀に胃部不快感や下痢を起こすことがあります。
また、漢方薬の一種として「ヨクイニンエキス顆粒」「薏苡仁湯」などの製剤があります。

● 臨床的評価
「即効性はないが、再発予防や全身的な免疫のサポートとして有用」とされ、
液体窒素療法との併用が多いのが特徴です。

サリチル酸外用 ― 最も身近な角質溶解療法

● 成分と作用
サリチル酸は角質溶解作用を持ち、イボ表面の角化層を軟化・剥離させることで、ウイルスを含む組織を徐々に除去します。

市販薬(スピール膏など)としても有名ですが、医療用ではより濃度の高いものを処方可能です。

● 使用方法
・患部をお湯などで柔らかくしてから貼付
・1〜2日おきに張り替え
・浮いてきた角質をピンセットややすりで除去
・これを繰り返すことで、徐々にイボが小さくなります。

● メリット
・自宅でできる治療法
・痛みが少ない
・子どもでも使いやすい

● デメリット
・根が深いイボでは除去しきれない
・周囲皮膚に刺激が強く、赤みや炎症が出ることがある
・毎日の根気が必要

● 他治療との併用
液体窒素療法の前後に使用して角質を柔らかくして治療効果を高める方法や、
ヨクイニンとの併用も一般的です。

ビタミンD₃外用薬(オキサロール・ボンアルファ・ドボネックス)

● 成分の違い
・オキサロール軟膏(マキサカルシトール):活性型ビタミンD₃の一種。乾癬治療にも使われる。
・ボンアルファ軟膏(タカルシトール):表皮分化促進作用が強い。
・ドボネックス軟膏(カルシポトリオール):欧米では乾癬の標準治療薬。

● 作用機序
もともと乾癬の治療薬として使われており、
角化細胞の増殖抑制・分化促進、および免疫調整作用があります。

尋常性疣贅に対しては、以下のようなメカニズムが推測されています。
・HPV感染細胞の増殖抑制
・局所免疫応答の活性化(Th1応答の促進)
・サイトカインバランスの正常化

つまり、ウイルスを直接殺すのではなく、皮膚の免疫を整えて排除を促すという仕組みです。

● 臨床報告
・小児の難治性疣贅に有効例多数
・液体窒素抵抗例でも改善報告あり
・約70%の有効率を報告した海外論文も(Raghukumar et al., 2017)

● 使用法と注意
・通常は1日2回塗布
・効果発現までに数週間以上
・副作用:軽度の刺激感・紅斑、稀に高カルシウム血症

保険適応外(off-label)ではありますが、痛みが少なく安全性が高いため、
凍結療法が困難な小児や多発例に試みられることがあります。

ベセルナクリーム(イミキモド) ― 免疫応答を利用した新しい選択肢

● 成分と適応
一般名:イミキモド(Imiquimod)
本来は「尖圭コンジローマ」(性器にできるHPV感染症)の治療薬として承認されています。
尋常性疣贅に対しては保険外使用となりますが、難治例への有効例が報告されています。

● 作用機序
イミキモドは免疫応答修飾薬(immune response modifier)であり、
皮膚の樹状細胞(特にプラズマサイトイド樹状細胞)を刺激してインターフェロンα、IL-12などのサイトカイン産生を促します。

これにより、局所的な抗ウイルス免疫(Th1応答)を誘導し、HPV感染細胞の排除を促進します。

● 使用方法(尋常性疣贅での実際の使われ方)
・通常は週2〜3回、夜間に塗布し、翌朝洗い流す
・数週間〜数か月継続
・凍結療法と併用することもある

● 注意点・副作用
・塗布部の発赤、腫脹、かゆみ、かさぶた形成が多い
・強い炎症が出る場合は休薬が必要
・全身吸収による副作用は稀

● 効果と位置づけ
・通常治療(液体窒素など)で治らない難治例に選択
・局所免疫を利用した根治的治療が期待される
・一方で刺激が強く、使用には医師の指導が必要

治療法の比較と実際の使い分け

治療法作用機序メリット注意点
ヨクイニン免疫調整内服で安全、再発予防即効性が乏しい
サリチル酸外用角質溶解手軽、安価毎日の継続が必要
ビタミンD₃外用薬角化正常化+免疫調整痛みがなく安全保険適応外、効果に個人差
ベセルナクリーム局所免疫賦活難治例にも効果刺激が強く要注意

複合的なアプローチが鍵

イボ治療は「ウイルス感染症」であるため、単一の治療法だけで完全に除去できるとは限りません。
そのため、次のような組み合わせ治療が行われます。

・液体窒素+ヨクイニン(免疫補助)
・サリチル酸+ビタミンD₃外用(角質軟化+免疫調整)
・液体窒素+イミキモド(免疫刺激相乗効果)

こうした多角的なアプローチによって、治療効果の持続と再発予防を狙います。

日常生活での注意点と再発予防

・患部を傷つけない(かさぶたを無理に剥がさない)
・爪切りやタオルを共有しない(家族間感染を防ぐ)
・免疫を整える生活(睡眠・栄養・ストレス管理)
・治療中断しない(見た目が改善してもウイルスは残存する)

イボは見た目以上に「粘り強く治す病気」です。
一時的に小さくなっても、完全にウイルスが排除されるまでは再発しやすい点を理解しておく必要があります。

薬剤師からのコメント

薬局でこれらの処方に出会ったとき、単に「イボの薬」として説明するのではなく、
それぞれがどの段階の病態・治療目的に使われているのかを理解しておくことが大切です。

・ヨクイニンは「体の内側から免疫を整える薬」
・サリチル酸は「角質を溶かしてイボを削る薬」
・ビタミンD₃外用は「皮膚の免疫と分化を整える薬」
・ベセルナは「免疫のスイッチを強力に入れる薬」

患者さんには「時間はかかりますが、少しずつ良くなります」と伝えることが、継続の支えになります。

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