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オレキシン受容体拮抗薬まとめ ― 新薬ボルズィ錠の登場と4剤比較
公開. 更新. 投稿者:睡眠障害.この記事は約3分44秒で読めます.
289 ビュー. カテゴリ:オレキシン受容体拮抗薬まとめ ― 新薬ボルズィ錠の登場と4剤比較

不眠症治療薬の領域は近年大きな変化を遂げています。かつてはベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZ-drug)が主流でしたが、副作用や依存性の問題から、新たな治療選択肢が模索されてきました。
その中で注目を集めているのが オレキシン受容体拮抗薬(Dual Orexin Receptor Antagonist: DORA) です。
日本ではすでに以下の3剤が承認・販売されています。
・ベルソムラ®(スボレキサント)
・デエビゴ®(レンボレキサント)
・クービビック®(ダリドレキサント)
そして新たに、国内4番目のDORAとして ボルズィ®(ボルノレキサント) が登場予定です。
それぞれの特徴を整理しながら比較し、臨床現場での使い分けの視点を考えてみます。
オレキシンと睡眠のメカニズム
オレキシンは覚醒維持に関わる神経ペプチドで、オレキシン受容体(OX1R, OX2R)を介して覚醒系を活性化します。
DORAはこれらの受容体を同時に阻害することで、覚醒のシグナルを抑制し、自然に近い入眠を促す作用を示します。
従来の睡眠薬(GABA受容体作動薬)とは異なり、脳全体を抑制するのではなく、覚醒ドライブを抑える点が特徴であり、依存性や反跳性不眠が少ないとされています。
各薬剤の特徴
ベルソムラ®(スボレキサント)
・発売年:2014年(日本が世界初承認)
・作用:OX1R/OX2R両方に拮抗
・特徴:最初に登場したDORA。用量は20mg(高齢者は15mg)。
・課題:効果発現がやや弱いとの声もあり、添付文書上「翌日眠気」の副作用が一定数報告されている。
・使い分け:不眠症治療に新しい選択肢を提示した先駆薬。
デエビゴ®(レンボレキサント)
・発売年:2020年
・用量:5mgまたは10mg(高齢者は5mgから開始)
・特徴:OX2Rへの親和性が強く、入眠効果だけでなく中途覚醒改善効果も期待される。
・臨床データ:ベルソムラよりも「中途覚醒」への改善が明確に示された。
・課題:眠気による転倒リスクへの注意。
クービビック®(ダリドレキサント)
・発売年:2024年
・用量:25mgまたは50mg
・特徴:血中半減期が短め(約8時間)で、翌朝への持ち越し効果が少ないことが期待される。
・臨床試験:睡眠効率の改善が明確に示されており、特に「翌日の眠気が少ない」点を強調。
・課題:実臨床での使用経験はまだ少なく、処方実績が積み上がる段階。
ボルズィ®(ボルノレキサント)
・発売予定:2025年(国内4番目のDORA)
・特徴(速報ベース):
OX1R/OX2R両方を遮断するDORA
他剤と比較して「即効性」「翌日のパフォーマンス維持」を強調
・期待される点:選択肢が広がることで、患者背景(高齢者、転倒リスク、翌日の活動性など)に応じた個別化が進む。
オレキシン受容体拮抗薬比較一覧表
医薬品名 | 一般名 | 剤形・規格 | 併用禁忌 |
---|---|---|---|
ベルソムラ | スボレキサント | 錠(10㎎、15㎎、20㎎) | イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、ボノプラザン・アモキシシリン・クラリスロマイシン、ラベプラゾール・アモキシシリン・クラリスロマイシン、リトナビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル |
デエビゴ | レンボレキサント | 錠(2.5㎎、5㎎、10㎎) | なし |
クービビック | ダリドレキサント | 錠(25㎎、50㎎) | イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸 |
ボルズィ | ボルノレキサント | 錠(2.5㎎、5㎎、10㎎) | イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル含有製剤、エンシトレルビル フマル酸、コビシスタット含有製剤、セリチニブ |
臨床現場での使い分けの視点
・ベルソムラ:まず試しやすい先発DORA。副作用経験の蓄積が多い。
・デエビゴ:中途覚醒を伴う不眠患者に適応しやすい。
・クービビック:翌日の眠気リスクを避けたいアクティブな患者に。
・ボルズィ:詳細はこれからだが、4剤目の登場により、より「患者に合わせたオーダーメイド治療」が現実的になる。
おわりに
不眠症治療薬の選択肢は、ここ10年で大きく変化しました。オレキシン受容体拮抗薬は「自然な眠りを促す」という新しいコンセプトで、依存性の低さや翌日への影響の少なさが期待されています。
今後、ボルズィ錠の登場によって、DORAはついに4剤体制となります。薬剤ごとの特徴を把握し、患者ごとの症状・生活背景・リスクに合わせた選択をすることが、薬剤師に求められる役割となるでしょう。