2025年12月19日更新.2,693記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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りんご病は第五病?大人の関節痛、妊婦の胎児リスク

りんご病(伝染性紅斑)とは?

第五病=fifth disease と呼ばれる理由と、大人・妊婦で注意すべき点
子どものほっぺがリンゴのように赤くなる――。そんな特徴的な症状から、日本では古くから「りんご病」と呼ばれています。正式名称は 伝染性紅斑(でんせんせいこうはん)。原因は ヒトパルボウイルスB19(Parvovirus B19) による感染症です。

その英語名として有名なのが fifth disease(フィフス・ディジーズ: 第五病)。
なぜ “第五” なのでしょうか?実は歴史的な病名分類が関係しています。

りんご病は「第五病」?その由来とは

子どもに多い発疹性疾患は、診断技術が未熟だった時代、臨床症状だけで分類されていました。そのうち、特徴的な発疹を伴う病気に番号が付けられたのです。

番号病名現名称
第一病麻疹様疾患麻疹
第二病猩紅熱(しょうこうねつ)A群溶連菌感染症
第三病風疹様疾患風疹
第四病明確な実体は不明かつて存在した仮の分類
第五病伝染性紅斑りんご病
第六病突発性発疹HHV-6/7感染

「第五病」とは、発疹性疾患を症状の特徴で分類した際の “5番目” という意味だったのです。

映画のタイトルのように格好良く響く fifth disease ですが、実体は子どもに多い急性のウイルス感染症、つまりりんご病です。

りんご病の原因:ヒトパルボウイルスB19とは?

・DNAウイルス
・赤血球前駆細胞に感染し、増殖する
・ヒトのみに感染(犬のパルボとは別物)

このウイルスは、赤血球を作る細胞で増える性質を持っています。そのため 溶血性貧血のある患者、免疫不全患者、胎児では重症化のリスクがあります。

健康な子どもにとっては軽い病気でも、医学的には注意すべき点が多い疾患です。

りんご病の症状と経過

伝染性紅斑の症状は、実は 3つの時期に分けて理解すると、感染・診断・感染力の問題が整理できます。

● ① 前駆期(風邪症状) ― 感染力が最も強い!
・微熱
・咳、鼻汁など風邪様症状
・倦怠感
・頭痛

患者本人も、家族も、医療者でさえ この時点でりんご病と診断することはできません。

● ② 発疹期(ほっぺが赤い) ― すでに感染力ほぼなし!
・左右対称の頬の紅斑(蝶形紅斑)
・その後、腕・脚にレース状(網目状)の発疹

「見た目で最も特徴的な時期=すでに感染力がない」という、他の感染症と大きく異なる特徴があります。

つまり りんご病と診断された頃には、人にうつす心配はほぼない。

● ③ 回復期(再燃・かゆみ) ― 発疹が消えて戻る?
・数週間、時に数ヶ月にわたり発疹が再燃
・熱や発疹はなく、 入浴、運動、日光、ストレス、摩擦 などでぶり返す

完全に治るまでに時間がかかることがあるため、「ずっと治らない」と不安になる親も少なくありません。

大人のりんご病:関節痛に要注意!

● 大人は「ほっぺが赤くならない」
成人の伝染性紅斑では、特徴的な顔の紅斑が目立たないことが多く、むしろ以下の症状が主体となります。

● 関節痛・関節炎が高頻度に起こる
・男性:約30%
・女性:約60%
・しかも 数ヶ月続くこともある

例)
・物を持てないほどの手指の痛み
・膝、足首、手首の腫れ
・朝のこわばり(リウマチ様)

● 膠原病と鑑別が必要
検査をすると以下のような異常が出て、まるで膠原病のような結果になることがあります。

・ANA陽性:抗核抗体
・抗DNA抗体陽性:SLEが疑われる
・補体低下:免疫複合体病様
・ANCA陽性:血管炎様
・抗リンパ球抗体:自己免疫疾患類似

検査すればするほど膠原病に見えてくるのが、パルボウイルスB19感染の怖いところ。

医師の中には、「パルボウイルスが膠原病を誘発している可能性」を指摘する研究者もいます。

妊婦のりんご病は危険か?胎児感染に注意

健常な成人にとっては良性の疾患ですが、妊婦だけは例外です。

● 妊婦が感染すると?
胎盤を介して胎児に感染することがあります。胎児が感染すると、赤血球を作れず 胎児貧血 → 心不全 → 胎児水腫 に至ることがあります。

リスク
・胎児水腫:全身に液体がたまる
・流産:特に妊娠初期〜中期
・死産:重症例

● しかし「ほっぺが赤い子」からはうつらない
発疹が出ている子どもと接触しても、感染の可能性は低いのです。

時期と感染力
・風邪症状(前駆期):強い
・発疹期(顔が赤い):ほぼない

「ほっぺが赤いとき」とは、すでに感染力がほぼ消えている時期であり、妊婦が注意すべきは 風邪症状の子に近づきすぎないこと。

● 妊婦が取るべき対応
・園や学校で流行があるときは情報共有
・手洗いの徹底
・発症が疑われる場合は産科で相談
・抗体検査(IgM、IgG)を必要に応じて実施

● ワクチンなし
予防接種がなく、感染を完全に防ぐことは困難。だからこそ、正しい理解とリスク管理が重要になります。

りんご病の流行と疫学

● 年齢分布
・4〜5歳がピーク
・9歳以下で約9割

● 流行の周期
・4〜5年に1度 流行

特定地域・保育園・学校単位で集団発生

● 季節性
・夏に流行しやすい
・秋以降に終息する

● 感染経路
ルート
・飛沫感染:咳・鼻水など
・経口感染:抵抗力の低い乳児など
・垂直感染:妊婦 → 胎児

りんご病と学校・保育園での登園基準

りんご病は 学校保健安全法に基づく出席停止の対象疾患ではない ため、基本的には登校・登園して構いません。

● 登園OKの理由
・診断時には 感染力がほぼ消失している
・発疹は症状であって感染源ではない

● ただし例外
以下は園側と相談が必要
・発熱や強い倦怠感がある場合
・妊婦が関わる環境(産科実習、保育士、看護学生など)

りんご病の治療

● 対症療法のみ
抗ウイルス薬はなく、自然に治癒します。
・解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)
・保湿、痒み対策
・安静、十分な水分

● 大人の関節炎には?
・NSAIDs(適応に応じて)
・長引く場合は膠原病との鑑別を

● 貧血の持病のある人は注意
・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
・鎌状赤血球症
・再生不良性貧血 など

これらの患者では 一過性の赤芽球 aplasia(赤血球産生停止) を起こすことがあるため、医療機関での治療が必要です。

まとめ:りんご病を正しく理解するポイント

ポイント
・第五病の正体:発疹性疾患の歴史的分類の一つ
・感染力は発疹前が最強:風邪症状の時期に注意
・発疹時はほぼうつらない:りんごの頬は「感染終了のサイン」
・大人は関節痛が主症状:リウマチ類似で鑑別が必要
・妊婦は注意が必要:胎児水腫・流産のリスク
・ワクチンは存在しない:手洗いと情報共有が重要
・治療は基本対症療法:自然治癒が多い

最後に

りんご病は、子どもにとっては軽い病気である一方、大人や妊婦にとっては見逃してはいけない感染症です。特に、風邪のような症状の時期に感染力が強いという点は、一般の方だけでなく医療従事者でも誤解しやすいポイントです。

ほっぺが赤くなって診断された時点で安心しすぎるのではなく、周囲の状況や妊婦の有無を踏まえ、適切な情報提供を行うことが、薬剤師や医療者に求められる対応と言えます。

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