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薬局で血液検査ができる?
公開. 更新. 投稿者: 71 ビュー. カテゴリ:服薬指導/薬歴/検査.この記事は約6分32秒で読めます.
目次
薬局で血液検査はできるのか?─「検体測定室」制度と薬局の新しい役割

近年、日本の薬局は単なる「薬を渡す場所」から、「地域の健康拠点」へと役割が大きく変わりつつあります。その象徴とも言えるのが、薬局での自己採血による血液検査(POCT:Point of Care Testing)の制度化です。
「薬局で血液検査ができるの?」
「採血って医療行為じゃないの?」
こうした疑問に対して、検体測定室の制度と法律上の制限、薬剤師に求められる対応、患者への説明方法、ビジネスとしての可能性まで勉強していきます。
薬局での血液検査は「できる」ようになったのか?
結論から言えば、“従来はできなかったが、現在は一定の条件下で自己採血の検査ができる” と言えます。
理由は、2014年に「臨床検査技師等に関する法律」に関連する通達と告示が見直され、
『検体測定室』という新しい枠組みが追加されたためです。
この制度により、薬局であっても以下の条件を満たして「検体測定室」の届け出を行うと、
受検者(患者)自身が採取した検体に限り、薬剤師などが測定を行えるようになりました。
検体測定室とは何か?制度の背景と目的
■ 以前は「衛生検査所」に該当し、薬局では事実上不可能だった
血液検査を行うためには、従来は
・衛生検査所としての登録
・臨床検査技師の配置
・厳しい設備基準
といった条件を満たす必要がありました。
つまり、街中の薬局で簡単に「採血して検査」はできなかったのです。
■ しかし“自己採血なら医業ではない”というグレーゾーンが存在
自己採血は医行為に当たらないため、
・検査結果を診断に使わない
・自己の健康管理に限定される
といった条件を満たせば、薬局でも可能では?という考え方がありました。
しかし、自治体(保健所)によって解釈が異なり、
ある地域ではOK、別の地域ではNG
というグレーな状況が続いていました。
制度改正で登場した「検体測定室」
そこで臨床検査技師法の告示が改正され、
医療機関でない場所で自己採血を扱う仕組みとして「検体測定室」が正式に規定されました。
法的根拠
・臨床検査技師等に関する法律 第20条の3
・「衛生検査所として登録が不要な施設」として検体測定室を明記
これにより、全国どこでも薬局が平等に自己採血検査を実施できるようになりました。
検体測定室の運用ガイドライン:薬局が守るべきルール
制度ができたとはいえ、薬局が
・血液を採取し
・検査機器を使い
・結果を伝える
という行為は、医師法・薬機法の境界に触れやすい非常にデリケートな領域です。
そこで厚労省は『検体測定室に関するガイドライン』を策定し、薬局が守るべきルールを細かく明示しました。
以下は薬剤師が絶対に押さえておくべきポイントです。
薬局でやってはいけない行為一覧(実例つき)
■ ① 特定の医療機関への誘導(NG)
×「HbA1cが高いので、●●内科を受診してください。」
→ これは特定医療機関への誘導でアウト
○「かかりつけ医へご相談ください。かかりつけ医がない場合は、いくつか医療機関をご紹介できます。」
→ OK
■ ② 診断行為(NG)
×「HbA1cが8%なので糖尿病ですね。」
→ 医師法違反(診断)
○「HbA1cは基準値上限を超えています。医療機関で再検査を受けてください。」
→ OK
■ ③ 「健康である」と断定(NG)
×「値が正常なので健康です。」
→ 健康診断の代替と誤解させる表現はNG
○「基準値内ですが、あくまで簡易的な検査です。医療機関での健診も受けてください。」
→ OK
■ ④ サプリや商品の販売誘導(NG)
×「コレステロールが高いので、この特保商品を買ってください。」
→ NG(物品販売への誘導)
○「普段のお食事で気になる点はありますか?」
→ 生活習慣アドバイスはOK
ガイドラインには明確に次のように書かれています。
検体測定室では、測定結果をふまえた物品の購入の勧奨を行わないものとする。
検体測定室で測れる項目の例
薬局や検査事業者によって測定できる項目は異なりますが、一般的には以下のような項目が対応可能です。
● 脂質系
総コレステロール
LDLコレステロール
HDLコレステロール
中性脂肪(TG)
● 肝機能
AST(GOT)
ALT(GPT)
γ-GTP
ALP
総ビリルビン(T-Bil)
● 腎機能
クレアチニン
尿素窒素(BUN)
尿酸
● 糖代謝
血糖
HbA1c
指先からの微量採血でありながら、
医療機関と近い項目が測定できるようになっています。
薬局での自己採血はどのように行われるのか?
一般的な流れは以下の通りです。
・受検者本人が自己採血キットを使用して採血(薬剤師が補助)
・薬剤師・看護師・臨床検査技師が測定装置で分析
・結果を説明
・医療機関受診の勧奨(診断はしない)
・生活習慣アドバイス(物品購入の勧奨はNG)
「薬剤師が採血してあげる」のではなく、
あくまで本人が行う“自己採血”のサポートです。
薬局での血液検査が注目される理由
■ ① 糖尿病の早期発見に寄与する
厚労省がこの制度を後押しした背景には、
● 糖尿病の未診断者の多さ
● 受診率の低さ
● 合併症の重症化・医療費増加
があり、薬局での早期スクリーニングが特に期待されています。
社会実験プロジェクト
「糖尿病診断アクセス革命」でも、薬局検査の有用性が示されています。
■ ② 薬局の「健康拠点化」政策
政府は、
・健康サポート薬局
・地域連携薬局
・専門医療機関連携薬局
など、薬局機能の拡充を進めています。
検体測定室はこの流れに合致する取り組みであり、
薬局が地域の健康チェック窓口になることが期待されています。
薬剤師の仕事はどう変わるのか?メリットと課題
■ メリット
・受診勧奨の適切化
・継続的な健康管理の支援
・生活習慣改善のアドバイスがしやすくなる
・地域の健康相談窓口としての信頼感向上
・医療費適正化に貢献
特に糖尿病・脂質異常症・高血圧の生活習慣病領域では、
薬剤師の介入余地が広がります。
■ 課題
・診断に該当しないよう、慎重な説明が必須
・物品販売との線引き
・保健所への届け出・運用体制整備
・機器の維持管理、精度管理
・スタッフ教育
特に、言い回しのミスが医師法違反に直結するため、
対応マニュアルの整備は必須となります。
患者への説明文の例(薬局用)
■ 結果説明のNG・OKまとめ
● 診断はしない
×「これは糖尿病です」
○「基準値を超えていますので医療機関で検査を受けてください」
● 健康と断定しない
×「健康ですね」
○「今回は基準値内ですが、医療機関での健診もお勧めします」
● 医療機関紹
×「●●内科に行ってください」
○「かかりつけ医にご相談ください。必要であれば近くの医療機関をいくつかご紹介できます」
薬局ビジネスとしての可能性
ガイドラインの制限はあるものの、
・検査の継続利用
・生活習慣相談
・健康イベント
・地域住民の流入増大
・医療機関との連携強化
など、薬局の価値を高める可能性があります。
アメリカやヨーロッパでは薬局POCTは一般化しており、
日本も少しずつ近づいてきています。
まとめ:薬局での血液検査は薬剤師の新たな役割を広げる
薬局での血液検査は、
“診断目的ではなく、健康チェック目的の自己採血” という枠組みで認められています。
そのため、
・診断しない
・誘導しない
・販売しない
というルールを守りながら、
住民の健康管理に貢献できる新しい薬局サービスです。
今後、薬局の「健康拠点化」がさらに進めば、
検体測定室は薬剤師にとって欠かせないスキルとなるでしょう。




