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ビオチンの処方理由は?
公開. 更新. 投稿者: 1,581 ビュー. カテゴリ:栄養/口腔ケア.この記事は約4分53秒で読めます.
目次
ビオチンの処方理由は?

「ビオチンって何に効くんですか?」
皮膚科処方の中でも、この質問に一瞬言葉に詰まってしまう薬の一つがビオチンではないでしょうか。
ビタミン剤であることはわかっている。
皮膚に良いとも聞く。
でも、なぜこの患者さんに処方されているのかを明確に説明するのは意外と難しい。
「ビオチンがどんな病気に、どんな理由で使われているのか」
を、勉強していきます。
皮膚に良いビタミンといえば?
皮膚のビタミンといえば、まず思い浮かぶのはビタミンB2でしょう。
・口角炎
・口内炎
・脂漏性皮膚炎
などで処方され、
市販薬ではチョコラBBに代表されるように一般にも認知されています。
そこから広げると、
・ビタミンB6
・ビタミンB1
・ビタミンC
なども「皮膚によいビタミン」として知られています。
一方で、
ビオチン(ビタミンH/ビタミンB7)は、
同じビタミンでありながら、やや影の薄い存在です。
ビオチンとはどんなビタミン?
ビオチンは、
・糖・脂質・アミノ酸代謝に関わる補酵素
・皮膚・毛髪・爪の代謝に関与
する水溶性ビタミンです。
皮膚科では、
・アトピー性皮膚炎
・ニキビ
・慢性湿疹
などに処方されることがありますが、
「欠乏しているから補う」という明確な構図が見えにくいのが特徴です。
ビオチンは不足しにくいビタミン
ビオチンは、
・レバー
・豆類
・卵黄
など、さまざまな食品に含まれています。
さらに特徴的なのが、
腸内細菌によっても産生されるという点です。
そのため、
通常の食生活をしていれば欠乏することはまれ
とされており、
欠乏症が珍しいことから、単に「ビオチン」と呼ばれることが多くなっています。
ビオチンを多く含む食品
(可食部100gあたり)
| 食品名 | ビオチン含有量 |
|---|---|
| パン酵母(乾燥) | 309.7μg |
| まいたけ(乾燥) | 242.6μg |
| 鳥レバー(生) | 232.4μg |
| 落花生 | 92.3μg |
| インスタントコーヒー | 88.4μg |
| 卵黄(生) | 65.0μg |
| アーモンド(フライ) | 61.6μg |
| 卵黄(ゆで) | 54.9μg |
| 焼きのり | 46.9μg |
| 干しシイタケ | 36.6μg |
| 黒砂糖 | 33.6μg |
| きな粉(脱皮大豆) | 32.9μg |
それでも増えているビオチン欠乏症
「不足しにくい」はずのビオチンですが、
近年ではビオチン欠乏症が増えているとも言われています。
その背景には、
・抗菌薬の長期使用
・慢性下痢
・食生活の変化
・腸内細菌叢の乱れ
といった要因があります。
腸内細菌が作るビオチンは、
体内ビオチンの“下支え”的な役割を担っており、
これが失われることで欠乏が表面化することがあります。
生卵を食べるとビオチン欠乏になる?
ビオチンに関する有名な話題が、生卵との関係です。
吸収の仕組み
食品中のビオチンは結合型ビオチンとして存在し、
・膵液中のビオチニダーゼで分解され
・遊離型ビオチンとなり
・主に空腸で吸収されます
ところが、
卵白に含まれるタンパク質アビジンは、
ビオチンと非常に強く結合し、腸管からの吸収を阻害します。
実際は?
通常の摂取量では問題ありません。
しかし、
生卵白を毎日大量に摂取
する場合には、
ビオチン欠乏症を起こす可能性があります。
(ヒトでは、総カロリーの約30%を生卵白で与えると
欠乏症が誘発されると報告されています)
※ 加熱すればアビジンは失活するため問題ありません。
ビオチンをミルクに入れてはいけなかった時代
実は日本では、2014年までミルクへのビオチン添加が認められていませんでした。
そのため、
・乳児のビオチン欠乏症
・皮膚炎や脱毛
が問題になった歴史があります。
特に問題となったのが牛乳アレルギー児
牛乳アレルゲン除去調整粉乳では、
・異物混入を極力避ける製造工程
・原料由来のビオチンも少ない
という事情から、
通常のミルクよりさらにビオチン含有量が少ない状況でした。
使用されるミルクの種類
・中等度加水分解乳(推奨されにくい)
・高度加水分解乳
・森永ニューMA-1
・ビーンスターク ペプディエット
・アミノ酸乳
・明治エレメンタルフォーミュラ
特にアミノ酸乳では、
・国際基準:100kcalあたり 1.5µg以上
・日本平均:約1.0µg
・明治エレメンタルフォーミュラ:0.1µg未満
と、著しく低値であることが報告されていました。
2014年の使用基準改正以降、
この問題は大きく改善されています。
流動食とビオチン欠乏
ビオチンはビタミンB群ですが、
すべての流動食に必ず添加されているわけではありません
そのため、
・長期の経管栄養
・原因不明の口唇炎・皮膚炎
がある場合は、
使用している製品にビオチンが含まれているかを確認する必要があります。
では、なぜ皮膚病にビオチンが処方されるのか?
ここが本題です。
理由①:欠乏の補正
・抗菌薬使用
・腸内環境の変化
・経管栄養
など、
はっきりした欠乏リスクがある場合は理論的です。
理由②:経験的に効く人がいる
特に有名なのが、
掌蹠膿疱症
です。
欠乏が証明されていなくても、
症状が改善する患者が一定数存在することが、
日本の皮膚科領域で経験的に知られています。
そのためビオチンは、
「欠乏治療+難治性皮膚疾患への経験的治療」
という、
少し特殊な立ち位置の薬になっています。
まとめ:ビオチンの処方理由とは
・ビオチンは不足しにくいが、不足すると皮膚症状が出る
・腸内環境や栄養療法の影響で、現代では欠乏が起こり得る
・欠乏がなくても、掌蹠膿疱症などで改善する例がある
・そのため皮膚科では「試す価値のある薬」として使われている
「なぜ効くかわからないが、効く人がいる」
それがビオチンという薬の正体かもしれません。




