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歯磨きを推奨する薬 ― 副作用予防としての口腔ケア
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歯磨きを推奨する薬 ― 副作用予防としての口腔ケア

「薬を飲んだら、きちんと歯磨きをしてください」
調剤時や服薬指導の場で、薬剤師がこう声をかけることがあります。患者さんの中には、「薬と歯磨きは関係ないのでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、薬の副作用を予防するうえで口腔ケアは極めて重要な役割を果たします。
薬による副作用の中でも、口腔内に関連するものは軽微な審美的問題から、生活の質を著しく損なう重大なものまで幅広く存在します。たとえば、ビスホスホネート系薬による顎骨壊死、カルシウム拮抗薬による歯肉肥厚、鉄剤による歯の着色、シロップ製剤による虫歯のリスクなどが挙げられます。
ビスホスホネート系薬と顎骨壊死予防
ビスホスホネート系薬とは
骨粗鬆症や骨転移を伴うがんの治療に用いられる薬剤で、骨吸収を抑制する作用を持っています。代表的な薬には、アレンドロン酸(フォサマック®/ボナロン®)、リセドロン酸(アクトネル®/ベネット®)、ゾレドロン酸などがあります。
問題となる副作用:薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)
長期使用や抜歯・インプラントなどの歯科処置を契機に、顎骨壊死 を発症するリスクが知られています。発症すると難治性で、疼痛や感染、摂食障害を伴い、患者の生活の質を著しく低下させます。
歯磨き推奨の理由
顎骨壊死のリスクを下げるには、口腔内を清潔に保ち、歯周病や虫歯を予防することが重要 です。毎日の歯磨き、歯科医院での定期的なメンテナンスが推奨されます。
服薬指導では「歯磨きは副作用予防の一環」であることを伝えることが求められます。
Ca拮抗薬による歯肉肥厚
カルシウム拮抗薬の特徴
ニフェジピン、アムロジピン などの降圧薬として広く使われています。長期投与で問題となる副作用の一つが 歯肉肥厚(歯肉増殖症) です。
歯肉肥厚のリスク
歯肉が異常に増殖し、歯を覆うようになるため、審美的な問題に加えてブラッシング困難、咀嚼障害、歯周病リスク増大を引き起こします。
発症頻度は薬剤や投与量、服薬期間、そして患者の口腔衛生状態に依存します。
歯磨き推奨の理由
歯肉肥厚は口腔内のプラーク(歯垢)蓄積がリスクを高めることが知られています。毎日の歯磨きや歯科医院でのクリーニングによって、発症や重症化を防ぐことが可能です。
薬剤を変更することで改善する場合もありますが、まずは基本となる口腔衛生管理が不可欠です。
鉄剤による歯の着色
鉄剤の副作用
フェロミア®(クエン酸第一鉄)、フェロ・グラデュメット®(硫酸鉄) などの経口鉄剤は、鉄欠乏性貧血に広く使用されます。
副作用として歯や舌の黒色沈着が起こることがあります。これは鉄イオンが口腔内で沈着することによる現象で、一時的なものではあるものの、患者にとっては不快です。
歯磨き推奨の理由
服用後に水でうがいや歯磨きをすることで沈着を予防できます。鉄剤をストローで服用する方法も有効ですが、基本は服薬後の歯磨きを徹底することです。
含嗽薬による着色
ポピドンヨード・クロルヘキシジン
うがい薬として使用されるこれらの薬剤は、歯や舌に褐色の着色を起こすことがあります。特に長期連用した場合に目立ちやすく、審美的な問題につながります。
歯磨き推奨の理由
使用後に口をゆすぐ、あるいは歯磨きを行うことで色素沈着を防ぐことができます。口腔内を常に清潔にしておくことが重要です。
小児用シロップ薬と虫歯リスク
シロップ薬の問題点
小児向けの薬は飲みやすくするために糖分を多く含みます。抗菌薬や抗ヒスタミン薬などが代表的です。
これらを服用した後に歯磨きやうがいを怠ると、虫歯のリスクが高まります。
歯磨き推奨の理由
就寝前にシロップを服用する場合は特に注意が必要です。歯磨きまたはうがいを徹底することで虫歯予防につながります。
テトラサイクリン系抗菌薬
歯牙着色のリスク
ミノマイシン®(ミノサイクリン) などのテトラサイクリン系は、歯牙着色を起こすことで知られています。特に小児期や妊婦への使用は禁忌とされています。
成人でも長期投与で歯の黄変・褐色化をきたすことがあります。
歯磨き推奨の理由
完全に予防できるわけではありませんが、服薬中は口腔衛生を保ち、着色を軽減する目的で歯磨きを徹底するよう指導されます。
抗けいれん薬・免疫抑制薬による歯肉肥厚
フェニトイン・シクロスポリン
・フェニトイン(抗けいれん薬)
・シクロスポリン(免疫抑制薬)
これらの薬もCa拮抗薬と同様に歯肉肥厚を引き起こすことが知られています。
歯磨き推奨の理由
歯肉肥厚のリスク因子はプラークの存在であるため、口腔衛生を保つことが最大の予防策です。歯磨き指導や歯科受診と併せて対応することが重要です。
まとめ
薬剤による副作用は全身に及びますが、口腔に関連する副作用は日常の歯磨きによって予防できるものが多いという特徴があります。
・ビスホスホネート系薬 → 顎骨壊死予防
・Ca拮抗薬・フェニトイン・シクロスポリン → 歯肉肥厚予防
・鉄剤・含嗽薬 → 歯や舌の着色予防
・小児用シロップ薬 → 虫歯予防
・テトラサイクリン系抗菌薬 → 歯牙着色リスク軽減
患者への服薬指導では、「歯磨きが副作用予防につながる」という具体的な理由を添えて伝えることが大切です。薬の適正使用を支えるだけでなく、患者の生活の質を守ることにも直結します。
日常の何気ない歯磨き指導が、重篤な副作用を防ぐ最初の一歩になるのです。