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天気と季節と病気の話
公開. 更新. 投稿者: 1,662 ビュー. カテゴリ:服薬指導/薬歴/検査.この記事は約4分46秒で読めます.
目次
天気と季節と病気 ― 季節ごとの体調不良とその対策

日本は四季がはっきりしており、それぞれの季節に特徴的な病気が存在します。
春には花粉症、夏には熱中症や食中毒、秋には喘息や花粉症の再燃、冬にはインフルエンザやノロウイルスなど。加えて、梅雨のような気候特有の時期にも体調を崩す人が少なくありません。
薬局ではこうした季節性の流行を把握し、処方やOTC医薬品の需要を予測することが大切です。患者指導や在庫管理の観点からも、「天気と季節と病気の関係」を知っておくことは欠かせません。
春:花粉症とアレルギー疾患
スギ・ヒノキを中心とした花粉症
春といえば花粉症。スギは2~4月、ヒノキは3~5月に飛散し、多くの患者が抗ヒスタミン薬や点鼻薬を求めて薬局を訪れます。
また、ハンノキやシラカンバといったカバノキ科の花粉も春に飛散し、特定の地域では重要なアレルゲンです。
薬剤師のポイント
・花粉症薬はシーズン前から在庫を確保する
・第2世代抗ヒスタミン薬、点眼薬、点鼻薬を中心に需要が増える
・「眠気が出にくい薬が欲しい」「子供用のシロップが欲しい」といった要望に応じる
寒暖差アレルギーと喘息
春は気温差が大きく、自律神経が乱れやすい時期です。鼻水やくしゃみ、蕁麻疹のような症状を「寒暖差アレルギー」と呼ぶこともあります。また、喘息患者は季節の変わり目に症状が悪化しやすく、吸入ステロイドや配合剤(例:アドエア)の処方が増える傾向があります。
夏:熱中症・感染症・皮膚トラブル
熱中症
夏の代表的な病気が熱中症です。高温多湿の環境で体温調節がうまくいかず、脱水や電解質異常をきたします。
軽症では経口補水液やスポーツドリンクで対応できますが、高齢者や子供は重症化リスクが高く注意が必要です。
薬剤師のポイント
・経口補水液の在庫確保
・「水だけでなく塩分補給も必要」という啓発
・高齢者には「喉が渇かなくても定期的に水分を」と指導
夏風邪
アデノウイルスによるプール熱、コクサッキーウイルスによる手足口病やヘルパンギーナなどが夏に流行します。抗ウイルス薬は存在せず、解熱鎮痛薬や脱水予防が中心です。
水虫(白癬)
高温多湿は白癬菌が繁殖しやすく、水虫の相談も増えます。OTCの抗真菌薬(アゾール系、アリルアミン系など)の需要が高まります。
食中毒
気温と湿度の上昇で細菌性食中毒(サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクターなど)が増加します。抗菌薬が必要になるケースは医師が対応しますが、軽症例では整腸剤や補液が処方されることもあります。
秋:喘息・秋の花粉症・気象病
喘息悪化
秋雨前線や台風の影響で気圧や湿度が変動しやすく、喘息発作が増える時期です。また、夏にしまっていた布団や毛布に付着したダニやカビも症状悪化の一因となります。
薬剤師のポイント
・吸入薬の適正使用を確認(使い方・残量チェック)
・ダニ・カビ対策として布団乾燥や掃除を指導
秋の花粉症
ブタクサやヨモギといったキク科植物が原因。春に比べ患者数は少ないものの、日常的な生活環境に自生しているため注意が必要です。
季節性うつ病(SAD)
日照時間が短くなることで気分が落ち込み、睡眠リズムも乱れやすくなります。抗うつ薬や光療法が治療に用いられます。薬局では「秋から冬にかけて気分が沈む」という訴えがあれば医療機関受診を勧めることが大切です。
冬:感染症とヒートショック
インフルエンザ
冬の代表疾患で、予防接種や抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、ザナミビル、バロキサビルなど)の需要が高まります。
室内湿度を50~60%に保つことが予防に有効であることも知られています。
ノロウイルス・ロタウイルス
冬に流行する急性胃腸炎。特にノロはアルコール消毒が効きにくく、次亜塩素酸による消毒が必要です。整腸剤や補液が処方されることが多いです。
ヒートショックと脳卒中
寒い脱衣所から熱い浴槽に入ることで血圧が急激に変動し、脳出血や心筋梗塞を招く「ヒートショック」が問題となります。高齢者への生活指導が重要です。
梅雨・気象変化と病気
気圧の低下と頭痛・関節痛
梅雨時期は気圧の変化が激しく、片頭痛やリウマチ症状が悪化する人が多いです。
ヒスタミンの分泌増加や交感神経の乱れが関係すると考えられています。
リウマチ患者と天候
「雨の日に痛みが増す」という患者は多く、実際にリウマトレックス(メトトレキサート)など抗リウマチ薬の調整が必要となることもあります。
季節と時間帯の発症リスク
脳梗塞・心筋梗塞は早朝に多い
夜間の発汗による脱水、朝方のホルモン分泌による血管収縮が影響します。
夏の脱水による脳梗塞
冬だけでなく、夏の血液濃縮も脳梗塞のリスク因子です。
まとめ
天気や季節の変化は、私たちの体調に大きな影響を与えます。
薬剤師としては、単に処方薬を渡すだけでなく「なぜこの季節にこの病気が多いのか」を理解し、予防や生活習慣の指導も行うことが重要です。
・春:花粉症、喘息悪化
・夏:熱中症、食中毒、夏風邪、水虫
・秋:喘息、秋の花粉症、気象病
・冬:インフルエンザ、ノロウイルス、ヒートショック
・梅雨:関節痛、片頭痛、リウマチ悪化
季節の流行を意識した在庫管理と患者指導を行うことで、より実践的な薬局業務につながります。




