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終生免疫の得られる感染症
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約4分46秒で読めます.
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終生免疫の得られる感染症とは?

「一度かかれば、もうかからない」と聞くと、それだけで安心感を覚える方も多いのではないでしょうか。これは「終生免疫(しゅうせいめんえき)」と呼ばれる免疫のしくみです。
では、終生免疫が得られる感染症とはどのような病気なのでしょうか?ワクチンとの関係や、なぜ一度の感染で免疫が長期間持続するのかも含めて、詳しく見ていきましょう。
終生免疫とは何か
● 自然免疫と獲得免疫
免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類があります。
・自然免疫は、体に備わった即時の防御反応(例:白血球や好中球による異物の排除)
・獲得免疫は、一度感染やワクチン接種などで病原体にさらされたあとに、記憶として蓄えられる免疫(例:B細胞やT細胞による抗体生成)
「終生免疫」はこの獲得免疫によって形成され、再び同じ病原体が侵入してきたときに、迅速かつ強力に排除されるようになります。
終生免疫が得られる代表的な感染症
以下は、感染またはワクチン接種によって長期間、あるいは生涯にわたる免疫が得られるとされる代表的な疾患です。
麻疹(はしか)
原因:麻疹ウイルス(パラミクソウイルス科)
特徴:感染力が非常に強く、空気感染する
終生免疫の理由:ウイルスが変異しにくく、一度の感染で強い中和抗体ができる
補足:麻疹ワクチン(MRワクチン)でも同様の長期免疫が得られる
風疹
原因:風疹ウイルス(トガウイルス科)
特徴:発疹や発熱、リンパ節腫脹など
免疫持続:自然感染・ワクチンともに長期免疫が得られるが、個人差あり
補足:妊娠初期の風疹感染は胎児に重大な影響を及ぼす(先天性風疹症候群)
水痘(みずぼうそう)
原因:水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)
特徴:小児期に発症するが、ウイルスは体内に潜伏し、帯状疱疹として再発することもある
終生免疫の範囲:再感染はまれであり、免疫は基本的に長期間持続
補足:ワクチン接種でも高い効果
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
原因:ムンプスウイルス
特徴:耳下腺の腫れ、発熱、頭痛、まれに無菌性髄膜炎や精巣炎など
免疫持続:自然感染による免疫はほぼ終生持続
注意:ワクチンの効果は個人差あり、ブースターが必要な場合もある
B型肝炎(ただし条件付き)
原因:B型肝炎ウイルス(HBV)
特徴:成人が感染した場合、一部は急性肝炎を経てウイルス排除後に免疫を獲得
終生免疫の範囲:自然感染後にHBs抗体陽性となった場合、再感染のリスクは非常に低い
補足:乳幼児期感染は慢性化しやすく、免疫が獲得されないことが多い
終生免疫が得られない感染症の存在
一方で、多くの感染症では終生免疫は得られません。その理由には以下のような要因があります。
・ウイルスが変異しやすい(例:インフルエンザ、COVID-19)
・免疫の記憶が弱く、時間とともに抗体が減衰する(例:百日咳)
・感染後の免疫が完全でない(例:ノロウイルス、RSウイルス)
したがって、「一度かかったからもう大丈夫」と過信するのは危険です。
ワクチンと終生免疫の関係
● 生ワクチン vs 不活化ワクチン
・生ワクチン(麻疹、風疹、水痘など):実際の感染に近いため、終生免疫が得られることが多い
・不活化ワクチン(インフルエンザ、百日咳など):免疫持続期間が短く、定期的な追加接種が必要
● ワクチン接種後の抗体持続期間
・たとえば、MRワクチンは1回の接種でも高い免疫効果があり、2回でほぼ100%の免疫を得られるとされる
・一方、インフルエンザは年ごとに型が変わるため、毎年の接種が必要
免疫の個人差とブースターの重要性
● 個体差
・同じワクチンを接種しても、人によって抗体の上がり方・持続期間が異なる
・免疫力の低下(高齢者、免疫抑制状態など)により効果が限定的になる場合も
● ブースター接種
・免疫の再活性化を目的として、ブースター接種(追加接種)が行われることがある
・特に小児期に接種したワクチンの免疫が大人になる頃には減衰しているケースが多い
実際の感染症対策にどう活かすか?
● 予防接種歴の確認
終生免疫が得られる感染症でも、未感染・未接種の人は無防備です。大人になってからも、必要に応じてワクチンの再接種や抗体検査を行うことが推奨されます。
● 妊娠前の抗体チェック
風疹・麻疹・水痘などは、妊娠中の感染が胎児に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠前の抗体確認と必要に応じた予防接種が勧められています。
● 海外渡航前の予防
海外では日本と流行状況が異なることもあります。渡航前にワクチン接種を確認しましょう。
終生免疫が得られる感染症は限られており、特にウイルスの変異が少なく、免疫記憶がしっかりと形成される疾患に多く見られます。麻疹や風疹、水痘などはその代表例であり、ワクチン接種でも長期免疫が期待できます。
一方で、すべての感染症に対して「一度かかれば大丈夫」とは限らないため、予防接種の履歴管理や定期的な抗体チェックも重要です。医療者も一般市民も、免疫の性質と限界を理解し、過信せず、適切な対策を取り続けることが感染症予防において不可欠です。