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TORCH症候群とは?妊娠中に気をつけたい感染症
公開. 更新. 投稿者:妊娠/授乳.この記事は約4分32秒で読めます.
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TORCH症候群とは?妊娠中に気をつけたい感染症と胎児への影響

妊娠中の感染症は、母体だけでなく胎児にも大きな影響を及ぼすことがあります。特に注意が必要なのが「TORCH(トーチ)症候群」と呼ばれる一群の感染症です。これらは胎盤を通して胎児に感染(垂直感染)することで、流産や先天異常など深刻な問題を引き起こす可能性があります。
TORCH症候群とは?
「TORCH」とは、以下の感染症の頭文字を取った総称です。
T:Toxoplasma gondii(トキソプラズマ症)
O:Others(その他:梅毒、HIV、B型肝炎、水痘など)
R:Rubella(風疹)
C:Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス感染症)
H:Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス)
これらの感染症は、母体にとっては軽症で済むこともありますが、胎盤を介して胎児に感染することで重篤な先天異常を引き起こす可能性があるため、特に妊婦に対して注意喚起されています。
各疾患の詳細と胎児への影響
◆トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)
●原因:トキソプラズマ・ゴンディという寄生虫
●感染経路:加熱不十分な肉類(特に豚肉)、猫の糞、土壌
●母体の症状
・無症状が多い
・時にリンパ節腫脹、軽い発熱など
●胎児への影響(特に妊娠初期):
・水頭症
・脳内石灰化
・網脈絡膜炎
・発達障害
●予防策:
・生肉を避ける、肉は中心部まで加熱
・猫のトイレ掃除は他人に任せる
・園芸作業時に手袋を着用
◆その他(Others)
主に含まれる疾患:
●梅毒(Syphilis)
・胎児死亡、先天梅毒(骨変形、皮膚症状など)
・予防:妊婦健診でのスクリーニングとペニシリン治療
●HIV
・母子感染で新生児HIV感染
・予防:妊娠中の抗ウイルス薬投与、帝王切開、人工乳使用
●B型肝炎
・母子感染によるキャリア化
・予防:出生時のワクチンとHBIG(免疫グロブリン)併用投与
●水痘(みずぼうそう)
・妊娠初期:先天性水痘症候群(四肢形成不全、皮膚の瘢痕など)
・出産直前:新生児水痘として重篤化
・予防:妊娠前にワクチン接種(妊娠中は不可)
◆風疹(Rubella)
●感染経路:飛沫感染
●母体の症状:軽い発熱、発疹、関節痛(無症状も多い)
●胎児への影響(特に妊娠12週まで):
・先天性風疹症候群(CRS):
難聴
白内障
先天性心疾患
精神運動発達遅滞
●予防策:
・妊娠前に風疹ワクチン(MRワクチン)を接種
・妊娠中の接種は禁忌のため、計画妊娠が望ましい
◆サイトメガロウイルス(CMV)
●感染経路:唾液、尿、性交渉、母乳など
※保育士や小さな子どもがいる家庭での感染リスクが高い
●母体の症状:
・軽い風邪症状や無症状が多い
●胎児への影響:
・小頭症
・脳内石灰化
・聴力障害(後から発症することもある)
・精神発達遅滞
●予防策:
・手洗いの徹底(特におむつ交換後や食事前)
・子どもの唾液との接触を避ける(コップの共有など)
◆単純ヘルペスウイルス(HSV)
●感染経路:主に性行為による初感染または再活性化
・出産時の産道感染が問題
●胎児・新生児への影響:
・新生児ヘルペス(致死率高い)
・発疹、脳炎、全身感染症
●予防策:
・妊娠中に外陰部ヘルペスがある場合は帝王切開を検討
・HSV既感染かどうかの確認、抗ウイルス薬の使用
TORCH感染症が与える胎児への共通の影響
TORCH感染症はいずれも「先天異常」のリスクがあるため、以下のような影響が共通してみられます。
・神経系障害(小頭症、水頭症、脳内石灰化)
・聴覚障害(難聴)
・視覚障害(白内障、網膜異常)
・心奇形
・精神発達の遅れ
・低出生体重児
・胎児死亡、流産、早産
妊婦健診でのTORCH対策
日本では妊婦健診の初期で、TORCH感染症のスクリーニングが行われることが一般的です。
・風疹抗体価検査(HI法またはEIA法)
・梅毒血清反応
・HIV抗体検査
・B型・C型肝炎ウイルス検査
・(必要に応じて)トキソプラズマ抗体やCMV抗体の検査
特に妊娠初期においては、感染歴や抗体の有無を把握し、必要な感染予防策を講じることが重要です。
TORCH感染症の予防ポイントまとめ
●感染症と予防策
・トキソプラズマ:生肉を避ける、猫の糞に注意
・梅毒・HIV・B型肝炎:妊婦健診で早期発見・治療
・風疹:妊娠前にワクチン接種
・サイトメガロウイルス:手洗い、乳幼児の唾液に注意
・単純ヘルペス:性感染予防、外陰部病変に注意
まとめ:TORCH症候群の理解は胎児を守る第一歩
TORCH症候群は、妊娠中に注意すべき重要な感染症群です。現代では多くの感染症が予防可能であり、早期のスクリーニングと適切な対応が胎児を守るカギとなります。
感染症という「目に見えないリスク」への理解と備えが、健やかな妊娠・出産につながります。妊娠を希望する女性は、妊娠前から予防接種歴や感染歴をチェックし、必要があれば抗体検査を受けることをおすすめします。