2025年6月25日更新.2,507記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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爪水虫は塗り薬じゃ治らない?

「塗り薬は効かない」は本当か?

「爪水虫(爪白癬)は塗り薬では治らない」
そう信じている医師や薬剤師も、まだ多いかもしれません。

かつては内服薬(イトリゾール、ラミシール)が治療の主流でした。レセプトでも「爪白癬に外用薬処方」で査定されるケースがあったという話もあります。しかし、2014年のクレナフィン爪外用液の登場によって、その常識は大きく変わりました。

・爪白癬の病型と治療方針
・新しい外用薬(クレナフィン・ルコナック)の特徴
・外用治療が有効な症例
・補助療法としての爪削りや尿素軟化剤の役割

について勉強します。

爪白癬とは?──皮膚の水虫とは違う難しさ

● 病名:爪白癬(つめはくせん)
白癬菌(Trichophyton rubrumなど)が爪に侵入し、混濁・肥厚・変形などを引き起こす疾患です。

● 主な症状:
・爪が白く濁る
・厚く変形する
・剥がれやすくなる
・爪下にカスがたまる(爪甲下角化)

爪白癬の分類:軽症~重症まで症状で異なる治療方針

爪白癬にはいくつかの病型があり、それぞれ治療方針が異なります。

病型特徴外用治療の適応
表在白色型表面のみ白く濁る◎ 外用薬で十分対応可能
遠位側縁部型(DLSO)爪の先端から濁り始める○ 軽症なら外用で可
全層型(Total Dystrophic)爪全体が混濁・肥厚△ 外用薬単独では難しい
近位型(PSO)爪の根元から濁る× 内服薬が望ましい

つまり、「すべての爪白癬が内服でないと治らない」というのは過去の話であり、軽症例なら外用治療も選択肢になります。

クレナフィン・ルコナック──新しい外用薬の登場

● クレナフィン(一般名:エフィナコナゾール)
・トリアゾール系抗真菌薬(2014年発売)
・ケラチンとの親和性が高すぎず、爪内部に浸透しやすい
・患部にとどまりつつ、爪床にも到達可能

● ルコナック(一般名:ルリコナゾール)
・イミダゾール系抗真菌薬(2016年発売)
・爪表面からの浸透性と持続性に優れる
・爪水虫に対する2つ目の保険適用外用薬

使用方法:
・1日1回、罹患した爪全体に塗布
・爪床・爪縁・周囲皮膚にも軽く伸ばす
・周囲に薬剤が付いたら拭き取る(刺激防止)

なぜ昔は「塗り薬では治らない」と言われていたのか?

爪は皮膚と違い、血流が乏しい角質の塊(ケラチン)でできているため、従来の外用薬では内部への浸透が不十分でした。

外用治療が難しかった理由:
・爪のバリア性が高く、薬が届かない
・患部が爪床や爪母など深部にある
・外用薬の有効性を示すエビデンスが乏しかった

しかし、クレナフィンやルコナックは「浸透性の高さ」「抗真菌活性の持続性」に優れ、軽症~中等度の爪白癬に十分効果を発揮できるとされています。

外用薬のメリットと限界

【外用薬のメリット】
・副作用が少ない(肝障害、血液障害のリスクがない)
・高齢者や併用薬の多い患者にも安全
・局所治療のため妊婦・授乳婦でも検討可能

【外用薬の限界】
・効果発現に時間がかかる(半年~1年以上)
・爪全体の病変には浸透しきらない
・患者の継続使用のモチベーションが必要

内服治療はいつ必要?

重症例や根元から病変があるタイプ(近位型)は、以下の内服薬が有効とされています。

内服治療に用いられる薬剤
・ラミシール(テルビナフィン):最もよく使われる内服抗真菌薬
・イトリゾール(イトラコナゾール):脂溶性が高く、パルス療法も可能

ただし、定期的な肝機能・血液検査が必要で、高齢者や肝疾患のある患者では使用に注意が必要です。

爪白癬治療を支える補助的手段

● 尿素軟化剤で爪を柔らかく
爪の表面が厚く硬くなっていると、外用薬が浸透しにくくなります。

そこで使われるのが「40%尿素軟膏」などの角質軟化剤。これにより爪を柔らかくし、薬剤の浸透性を高めます。

● 爪削り療法(機械やヤスリ)
皮膚科では以下のような処置が併用されることがあります。

・金属製ヤスリで白濁部分を削る
・爪に微細な穴を開け、薬剤を染み込ませる(ドリル法)
・削った後、外用薬+密封療法(ラップなど)で浸透促進

削ることで白癬菌が集中する患部を減らし、治療効果が格段に高まるとされています。

実際に効果が出るまでの期間は?

・軽症であっても、完治まで半年~1年はかかる
・爪の伸びるスピードは1か月に約1mm前後
・爪全体が生え変わるには足爪で1~1年半

そのため、根気強く外用を継続するよう、患者指導が重要です。

市販薬で治療できる?──軽症例なら可能性あり

最近では市販の水虫薬にも、尿素配合や白癬菌への浸透を意識した製品が登場しています。

例:エクシブディープ10(ロート製薬)
・抗真菌成分+尿素10%配合
・角質を柔らかくしながら殺菌
・軽度のかかと水虫や表在型爪白癬向け

ただし、爪白癬と断定できる場合は皮膚科受診が原則です。

まとめ:今や「塗り薬でも治る時代」に

「塗り薬じゃ治らない」と一蹴されがちだった爪水虫ですが、現在では状況が変わってきています。

・外用薬の有効性はエビデンスにより認められてきた
・軽症例では副作用の少ない外用薬が第一選択にもなり得る
・重症例や根元病変は内服との併用や専門的対応が必要
爪白癬は放置すれば徐々に進行し、家族内感染のリスクもあります。早期発見・早期治療と、患者の生活に合わせた治療戦略を選ぶことが大切です。

「水虫で死ぬことはない」と軽視せず、
爪水虫もれっきとした医療介入が必要な疾患として、正しい知識で対応していきましょう。

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