2025年7月13日更新.2,519記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

記事

ブイフェンドを食後に飲んじゃダメ?

ブイフェンドを食後に飲んじゃダメ?食事と吸収に要注意な抗真菌薬

「ブイフェンド(ボリコナゾール)は、食後に飲んでも大丈夫なの?」
この疑問は、抗真菌薬を扱う医療現場で非常によく耳にするものです。

特に、同じアゾール系の抗真菌薬であるイトリゾール(イトラコナゾール)やフルコナゾールなどと混同して、「どれも食後に飲んだ方がいいのでは?」と思ってしまいがちです。しかし実際は、ブイフェンドは食後に服用すると吸収が低下するため、服用タイミングには注意が必要です。

・ブイフェンド(ボリコナゾール)の用法・用量
・食事による吸収への影響
・他のアゾール系抗真菌薬との比較
・食間服用の実践的なポイント
を中心に勉強していきます。

ブイフェンドとは?何に使う薬?

ブイフェンド(Vfend®)は、有効成分「ボリコナゾール」を含むトリアゾール系抗真菌薬です。

主な適応症
・侵襲性アスペルギルス症
・カンジダ血症
・フサリウム症
・スケドスポリウム症
・その他難治性の真菌感染症

特に造血幹細胞移植後の重篤な真菌感染症など、生命を脅かす真菌感染症に対して使用される重要な薬剤です。

ブイフェンドの用法と食事の関係

ブイフェンドの用法・用量は以下のように定められています。

経口投与
●初日(負荷投与)
・成人:1回400mgを12時間間隔で2回服用
●維持投与
・成人:1回200mgを12時間間隔で服用

このとき、添付文書には「食間投与」と明記されています。

食間とは?
「食事の2時間後、次の食事の1時間前」というタイミングを意味します。

つまり、単なる空腹時(食前)でも、食直後でもなく、胃の内容物がある程度排出されたタイミングが推奨されるのです。

食事の影響:なぜ食後に飲むといけないのか?

ブイフェンドの添付文書には、食事の影響に関する試験データが記載されています。

外国データ(健康成人男性37例)
高脂肪食(約1000kcal)を摂取直後にボリコナゾールを200mg服用した場合、
・Cmax(最大血中濃度):空腹時に比べ34%低下
・AUCτ(血中濃度曲線下面積):空腹時に比べ24%低下
・Tmax(最高血中濃度到達時間):1.4時間遅延

この結果から、食後に服用すると吸収が有意に低下し、血中濃度が下がってしまうことがわかります。
抗真菌薬の治療では、有効血中濃度の維持が極めて重要です。少しの吸収低下でも、治療失敗や耐性菌出現のリスクが高まるため、用法の遵守が強く求められます。

なぜ吸収が落ちるのか?メカニズムの概要

ブイフェンド(ボリコナゾール)は脂溶性が比較的高い薬剤ですが、消化管内で食事(特に脂肪分)があると、

・溶解速度の遅延
・胃排出時間の延長
・膜透過性の変化
などの影響を受けやすいとされています。

その結果、食後では消化管からの吸収が減少し、ピーク血中濃度に達する時間も遅れるのです。

同じアゾール系抗真菌薬でも違う?イトリゾールとの比較

「同じアゾール系だから、食後に飲んだ方が吸収がいいのでは?」と誤解されがちですが、実は真逆の性質を持つ薬もあります。

代表例がイトリゾール(イトラコナゾール)です。

イトリゾールの添付文書には
空腹時に投与したとき、食直後投与時の最高血漿中濃度の約40%に低下し、
食直後投与により生物学的利用率が向上する。

つまり、イトリゾールは食後に飲むことで吸収が上がる薬です。

この違いは、各成分の溶解性や吸収過程の特徴に由来します。

薬剤と食事の影響
・ボリコナゾール(ブイフェンド):食後吸収低下(Cmax↓、AUC↓)
・イトラコナゾール(イトリゾール):食後吸収増加(Cmax↑、AUC↑)

他にも、ポサコナゾール(ノクサフィル)やイサブコナゾール(クレセンバ)など、アゾール系の中でも食事との関係は薬剤ごとに異なるため注意が必要です。

「食間服用」の実践:患者さんにどう伝える?

実際に「食間」と言われても、患者さんが混乱するケースは多いです。
「食事の後すぐ?」「空腹ならいつでもいいの?」と質問されることもあります。

分かりやすい説明例
「前の食事から2時間以上空けてください」
「服用後1時間は食事を控えてください」
「おやつなども控えて空腹に近い状態で飲んでください」

特に入院中や服薬支援が必要な患者さんには、時間を決めてタイマー管理するなど工夫が必要です。

食後に飲んでしまったら?

もし患者さんが誤って食後すぐに服用してしまった場合、

・1回で重大な影響が出ることは少ない
・ただし繰り返すと治療効果が不十分になる

可能であれば次回から正しいタイミングに修正し、治療経過に応じて血中濃度モニタリング(TDM)を行うことも検討します。

実際の医療現場でのポイント

・ブイフェンドは食後投与NG、食間投与が必須
・イトリゾールは食直後推奨、逆に空腹時は吸収低下
・患者への服薬指導では、具体的な「いつ飲むか」を明確に
・食事の影響は血中濃度に直結し、治療失敗リスクを高める

抗真菌薬は「飲み方が治療成績を左右する薬」の代表例です。

まとめ:ブイフェンドの服用タイミングを守ろう

同じ系統でも真逆の特徴がある抗真菌薬。
「ブイフェンドは食後に飲んではいけない」という点は、医療従事者・患者双方が理解しておくべき重要なポイントです。

特に、
・真菌感染症は治療期間が長期化する
・治療失敗の代償が大きい
ため、服薬アドヒアランスと服用タイミングの指導は徹底しましょう。

1 件のコメント

  • 匿名 のコメント
         

    やあ

コメント


カテゴリ

プロフィール

yakuzaic
名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブックの表紙
SNS:X/Twitter
プライバシーポリシー

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

最新の記事


人気の記事

検索