2025年11月9日更新.2,663記事.

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タケプロンと酸化マグネシウムを併用してはいけない?

タケプロンと酸化マグネシウムを併用してはいけない?― 医療用と市販薬で異なる扱いと注意点 ―

胃酸を抑える薬の代表格である プロトンポンプ阻害薬(PPI)。その中でも「タケプロン(一般名:ランソプラゾール)」は古くから使われている薬で、胃潰瘍・逆流性食道炎などの治療に広く用いられています。さらに市販薬(OTC)として「タケプロンS」としても販売され、医師の処方がなくても入手できるようになっています。

一方で、便秘薬や制酸剤としておなじみの 酸化マグネシウム も、多くの方が使う薬です。高齢者の便秘治療では定番であり、医療現場ではPPIと併用されることもしばしばあります。

ところが、市販薬タケプロンSの「してはいけないこと」には酸化マグネシウムの名前が挙げられ、「同時に使用しないこと」 と記載されています。これは「併用禁忌」なのか? 医療用と市販薬でなぜ扱いが違うのか?

医療用タケプロンと酸化マグネシウムの関係

添付文書の記載
医療用タケプロン(ランソプラゾール)の添付文書には、酸化マグネシウムとの併用について以下のように記載されています。

「酸化マグネシウムの緩下作用が減弱するおそれがある。本剤の胃酸分泌抑制作用による胃内pH上昇により、酸化マグネシウムの溶解度が低下するためと考えられる。」

つまり、タケプロンを服用すると胃酸が抑えられ胃内pHが高まるため、酸化マグネシウムが溶けにくくなり、便を柔らかくする作用が弱まる可能性があるのです。

位置づけは「併用注意」
・併用禁忌(絶対に使ってはいけない)には分類されていません。
・併用注意として扱われ、効果の減弱が起こる可能性があるため気をつけましょう、というレベルです。

臨床的にはPPIと酸化マグネシウムが同時処方されることも多く、特に高齢者では便秘対策として併用されるケースがよく見られます。

市販薬タケプロンSでは「酸化マグネシウム禁止」

一方で、市販のタケプロンSには明確な記載があります。

「本剤を服用している間は、次のいずれの医薬品も使用しないこと
他の胃腸薬、テオフィリンを含有する内服薬(鎮咳去痰薬、乗物酔い薬)、酸化マグネシウムを含有する内服薬(瀉下薬等)」

つまりOTCのルールでは、「タケプロンSを飲んでいるときに酸化マグネシウムを含む薬は服用禁止」とされているのです。
薬剤師が処方薬を禁止するような指示はできないので、酸化マグネシウムを処方されている患者にはタケプロンSは販売できないということになる。

他の市販PPIとの比較

OTCのPPIは現在、タケプロンSのほかに以下が販売されています。

・パリエットS(ラベプラゾール)
・オメプラールS(オメプラゾール)

これらの「してはいけないこと」には、

「本剤を服用している間は,次の医薬品を服用しないでください:他の胃腸薬」

とだけ記載されており、酸化マグネシウムという具体名は出てきません。

つまり、タケプロンSだけが酸化マグネシウムを名指しで禁止 しているのです。

なぜタケプロンSだけ酸化マグネシウムを指定しているのか?

考えられる背景は以下の通りです。

ランソプラゾールの特性
ランソプラゾールは他のPPIに比べて酸に不安定で、胃内pHの変化の影響を受けやすい薬剤です。そのため酸化マグネシウムとの併用による相互作用が、より問題視された可能性があります。

OTCは自己判断で使用される
医療用では医師が効果をモニタリングできるため「併用注意」で済みますが、市販薬では患者が独自に便秘薬(酸化マグネシウム)を一緒に服用してしまうリスクが高い。安全性を最優先にするため「禁止」と強い表現にしていると考えられます。

安全マージンを広めにとる製薬会社の方針
添付文書の記載は厚労省の承認プロセスを経て決まりますが、OTCでは「一般消費者の誤用防止」を意識して、医療用より厳しい制限をかけることがしばしばあります。

臨床現場での実際

医療現場では、タケプロンと酸化マグネシウムはしばしば併用されています。特に高齢患者の多くはPPIを長期処方され、さらに便秘症状の改善のため酸化マグネシウムが同時に処方されることが多いです。

もちろん、添付文書通り「酸化マグネシウムの緩下作用が弱まる」ことは理論的にあり得ます。しかし、臨床的には十分な下剤効果が得られることも多く、医師が患者の便通を観察しながら併用を調整しています。

患者指導のポイント

薬剤師としては、以下の点を伝えることが重要です。

・医療用では併用注意、OTCでは併用禁止 という違いがあること。
・医師から両薬が処方されている場合は、必要性を考慮したうえでの併用なので自己中止しないこと。
・市販のタケプロンSを服用している場合は、酸化マグネシウムを含む便秘薬や胃腸薬を併用しないこと。
・便秘や胃の不調で市販薬を追加したい場合は、必ず薬剤師や医師に相談すること。

まとめ

・医療用タケプロン(ランソプラゾール)と酸化マグネシウムは 併用禁忌ではなく併用注意。
・添付文書には「酸化マグネシウムの緩下作用が減弱するおそれ」「胃内pH上昇により酸化マグネシウムの溶解度低下」と明記されている。
・一方で市販のタケプロンSには「酸化マグネシウム含有薬と併用禁止」と厳しく記載されている。
・他のOTC PPI(パリエットS・オメプラールS)では「他の胃腸薬と併用禁止」だけで、酸化マグネシウムの指定はない。
・背景にはランソプラゾールの特性、OTC使用時の自己判断リスク、安全マージンを広めにとる企業方針がある。
・臨床現場では両者を併用することも多いが、便通や効果を確認しながら調整されている。

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