2025年8月26日更新.2,601記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ビタミンK1とK2の違いは?

ビタミンK1とK2の違いとは?

ビタミンKは、血液凝固に欠かせない脂溶性ビタミンとして知られています。医療現場では「新生児メレナ(新生児出血症)」予防から「骨粗鬆症治療」、さらには「ワルファリン拮抗薬」としての使用まで幅広い領域に関わっており、薬剤師にとっても身近な栄養素兼治療薬です。

一口に「ビタミンK」と言っても、実際には複数の種類が存在します。その中でも臨床的に重要なのが ビタミンK1(フィトナジオン:phylloquinone) と ビタミンK2(メナテトレノン:menaquinone-4) です。

ビタミンKの種類

●天然型
ビタミンK1(フィトナジオン)
緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)に多く含まれる。主に肝臓でビタミンK依存性凝固因子の生成に関与する。
ビタミンK2(メナキノン類)
腸内細菌が産生するほか、発酵食品(納豆など)にも含まれる。日本で医薬品として用いられているのは メナテトレノン(MK-4)。

●合成型
ビタミンK3~K7といった人工合成体も存在しますが、医療用として主流なのはK1とK2です。

新生児への投与:ケイツーシロップの役割

新生児は腸内細菌叢が未発達で、母乳中のビタミンK含有量も少ないため、ビタミンK欠乏性出血(新生児メレナ) のリスクがあります。
この予防目的で使用されるのが ビタミンK2シロップ(ケイツーシロップ®) です。

一方、ビタミンK1のシロップ製剤(ケーワンシロップ®)は存在せず、実際の臨床では 新生児への定期的投与はK2で行う ことが標準になっています。

添付文書に見る適応の違い

分類医薬品名一般名剤形規格適応症
ビタミンK1ケーワンフィトナジオン錠5mg〇ビタミンK欠乏症の予防及び治療
各種薬剤(クマリン系抗凝血薬、サリチル酸、抗生物質など)投与中に起こる低プロトロンビン血症、胆道及び胃腸障害に伴うビタミンKの吸収障害、新生児の低プロトロンビン血症、肝障害に伴う低プロトロンビン血症
〇ビタミンK欠乏が推定される出血
ビタミンK2グラケーメナテトレノンカプセル15mg骨粗鬆症における骨量・疼痛の改善
ケイツーメナテトレノンカプセル5mgビタミンKの欠乏による次の疾患及び症状
〇新生児低プロトロンビン血症
〇分娩時出血
〇抗生物質投与中に起こる低プロトロンビン血症
〇クマリン系殺鼠剤中毒時に起こる低プロトロンビン血症
シロップ0.2%〇新生児出血症及び新生児低プロトロンビン血症の治療
〇新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防

ケイツーシロップ®(ビタミンK2製剤)
新生児出血症及び新生児低プロトロンビン血症の治療
→ 新生児領域での使用が中心。

ケーワン®錠(ビタミンK1製剤)
・ビタミンK欠乏症の予防及び治療
・クマリン系抗凝固薬(ワルファリンなど)投与時の低プロトロンビン血症
・サリチル酸、抗生物質などによるビタミンK代謝障害
・胆道・消化管障害に伴う吸収障害
・新生児の低プロトロンビン血症
・肝障害に伴う低プロトロンビン血症
・ビタミンK欠乏が推定される出血
→ より幅広い適応を有し、「解毒薬」としての役割が大きい。

このように、K1は汎用的な補充・解毒薬、K2は新生児予防や骨領域に特化という棲み分けがあります。

骨粗鬆症治療におけるビタミンK2

ビタミンK2は、骨代謝にも関与します。具体的には オステオカルシンのカルボキシル化 を介して骨形成を促進し、PTH(副甲状腺ホルモン)による骨吸収を抑制します。

近年のメタアナリシスでは以下のような効果が報告されています。
・骨量減少予防効果
・椎体・非椎体骨折のリスク低下

日本の骨粗鬆症治療ガイドラインにおける推奨グレードは B。
また、ビスホスホネートが使用できない症例(例:重度食道障害や腎機能低下例)では、K2製剤の使用が推奨されるケース があります。

ワルファリンとの相互作用

基本的な仕組み
・ワルファリン:ビタミンKエポキシド還元酵素を阻害し、凝固因子の活性化を抑制 → 抗凝固作用を示す。
・ビタミンK:凝固因子を活性化 → ワルファリンの作用を打ち消す。

したがって、両者は本質的に「拮抗関係」にあります。

●添付文書での扱い
・ビタミンK1:併用注意
出血時にワルファリンの解毒薬として投与する必要があるため、「禁忌」とはされない。
臨床上、医師の裁量で使用する余地を残している。

・ビタミンK2:併用禁忌
・骨粗鬆症治療などで慢性的に投与される。
・ワルファリンの抗凝固作用を持続的に弱め、治療目的そのものを損なうため「禁忌」とされる。
・解毒薬としての使用場面はない。

まとめると
・K1は解毒薬として必要 → 併用注意
・K2は慢用されて無効化リスクだけ → 併用禁忌

実務上の留意点

骨粗鬆症治療薬の選択
ワルファリンを服用している患者には、ビタミンK2製剤は使用不可。他の薬剤(ビスホスホネート、SERM、活性型ビタミンD製剤など)を検討する。

新生児への予防投与
新生児メレナ予防はK2シロップが標準。ワルファリン服用母体からの影響にはK1製剤を使用する場合もあり、適応を理解する必要がある。

食事指導
野菜や納豆などのビタミンK摂取はPT-INRに影響する。急激な食生活の変化を避けるよう指導が求められる。

まとめ

・ビタミンKにはK1(フィトナジオン)とK2(メナテトレノン)があり、臨床的な使い分けは明確。
・K1:幅広い欠乏症対応、ワルファリン解毒薬 → 併用注意
・K2:新生児出血症予防、骨粗鬆症治療 → ワルファリン併用禁忌
・添付文書上の扱いの違いは、「臨床的に併用を正当化できるか否か」 に基づいている。

薬剤師としては、処方監査や服薬指導の際に、患者背景(新生児、骨粗鬆症、ワルファリン内服中か否か)を的確に把握し、適切な情報提供を行うことが重要です。

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