2025年6月5日更新.2,490記事.

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チラーヂン服用中、葛根湯を飲んじゃダメ?

チラーヂン服用中に葛根湯を飲んじゃダメ?~甲状腺ホルモンと麻黄の注意点

「風邪気味だから葛根湯を飲んでおこう」と思ったけど、チラーヂン(レボチロキシン)を飲んでいることを思い出した…
そんなとき、「葛根湯を飲んでいいの?ダメなの?」と不安に感じた方はいませんか?

実は、甲状腺ホルモン製剤(チラーヂン)と葛根湯の併用には注意が必要です。その理由は、葛根湯に含まれる「麻黄(マオウ)」という生薬に含まれるエフェドリンが関係しています。

チラーヂンとは?【甲状腺ホルモン製剤】

チラーヂン(一般名:レボチロキシンナトリウム)は、甲状腺機能低下症(橋本病など)の治療に使われる薬です。
体内で不足している甲状腺ホルモン(T4)を補い、代謝を正常に保つ目的で使われます。

添付文書上の適応症は「粘液水腫、クレチン病、甲状腺機能低下症(原発性及び下垂体性)、甲状腺腫」です。
服用を続けることで、体温・脈拍・代謝などが正常化されます。

葛根湯とは?【風邪の初期に使う漢方薬】

葛根湯(かっこんとう)は、風邪の初期症状や肩こりなどに使われる代表的な漢方薬です。
比較的安全で市販薬としても広く使われていますが、その中に含まれている「麻黄(マオウ)」が曲者です。

葛根湯の構成生薬(例)
・葛根(かっこん)
・麻黄(まおう)←ここに注意!
・桂皮(けいひ)
・芍薬(しゃくやく)
・生姜(しょうきょう)
・大棗(たいそう)
・甘草(かんぞう)

このうち、麻黄にはエフェドリンという成分が含まれています。エフェドリンは交感神経刺激作用を持ち、血圧や心拍数を上げる働きがあります。

チラーヂンとエフェドリンの相互作用

添付文書の「併用注意」記載
チラーヂンの添付文書には以下のような併用注意があります:

交感神経刺激剤(アドレナリン、ノルアドレナリン、エフェドリンなど)
→交感神経刺激作用が増強し、冠動脈疾患のある患者においては冠不全(狭心症など)のリスクが高まる可能性がある。

なぜ作用が増強されるのか?
甲状腺ホルモンは、βアドレナリン受容体の感受性を高めると考えられています。つまり、チラーヂンを飲んでいると、エフェドリンのような交感神経刺激物質の効果が強く出てしまうのです。

想定される症状
・動悸
・頻脈(脈が速くなる)
・振戦(手の震え)
・頭痛
・不眠・興奮
・高血圧
・胸部圧迫感や狭心症の悪化(基礎疾患ありの場合)

葛根湯に含まれるエフェドリン量は?

厚労省や製薬企業のデータによると、麻黄を含む葛根湯1日量にはエフェドリン換算で約16.4mgが含まれるとされています。

これは、単純な風邪薬や咳止めに含まれるエフェドリン量と比較しても決して少なくありません。

つまり、葛根湯も立派な「交感神経刺激薬」なのです。

どんな人が注意すべき?
以下のような条件に当てはまる方は、葛根湯とチラーヂンの併用に特に注意が必要です。

条件注意理由
心疾患のある人動悸・狭心症・不整脈の悪化リスク
高血圧の人血圧上昇のリスク
高齢者薬物代謝・排泄機能が低下しており影響を受けやすい
チラーヂンの用量が多い人甲状腺ホルモンが多いほど感受性が増す
他の交感神経刺激薬も使っている人相乗作用で過剰刺激になる可能性

実際の服薬指導ではどうするか?

薬局での服薬指導や市販薬の相談時には、次のような対応が考えられます。

「葛根湯+チラーヂン」併用を完全禁止にする?
→No。添付文書では「併用禁忌」ではなく「併用注意」です。
一時的に使用する場合は慎重投与でよいと考えられています。

〇注意して併用する場合のポイント
・体調の変化(動悸、ふらつき、手の震えなど)に注意
・1日2回の服用を1回に減らす(用量調整)
・医師・薬剤師への相談を忘れずに

〇他の風邪薬に変えられるか
麻黄を含まない漢方薬(銀翹散、小青竜湯など)や、総合感冒薬のうち交感神経刺激成分を含まない製剤への切り替え提案も可能です。

漢方薬だからといって「安全」ではない

漢方薬は自然由来で安全、というイメージがありますが、実際には西洋薬と同等かそれ以上の薬理作用を持つことがあります。

特に麻黄(エフェドリン)や甘草(グリチルリチン)は、有害作用のリスクが明確に知られている生薬です。

「市販されているから」「自然のものだから」といった理由での安易な併用は避けましょう。

葛根湯は使ってもいいが注意が必要

・チラーヂン(甲状腺ホルモン)は、エフェドリンの感受性を高める
・葛根湯に含まれる麻黄(エフェドリン)は交感神経刺激作用あり
・両者の併用は「併用注意」扱いであり、慎重な使用が求められる
・動悸、ふらつき、手の震えなどが現れたら中止し、医師に相談しましょう。

よくある質問Q&A

Q. 風邪の初期症状にはやっぱり葛根湯がいいですか?
→寒気・肩こり・発熱感が強い風邪には効果的ですが、麻黄を含むためチラーヂン服用中は注意が必要です。

Q. 葛根湯は市販薬と処方薬で成分が違いますか?
→基本的な生薬構成は同じですが、含有量に違いがある場合もあります。市販薬も用量には注意が必要です。

Q. チラーヂンを服用していることを、薬剤師に伝える必要はありますか?
→必ず伝えてください。漢方薬や市販薬の選択にも関わります。

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