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在宅自己注射できない注射薬
公開. 更新. 投稿者: 32 ビュー. カテゴリ:調剤/調剤過誤.この記事は約6分44秒で読めます.
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在宅自己注射で使用できる注射薬

処方箋に注射薬が記載されていたら、薬局側で「処方していい薬かどうか」という点で迷うことはあまりない。例えば「イベニティ皮下注」が院外処方で来たら、私なら迷わず発注しようとしてしまう。しかしイベニティ皮下注は在宅自己注射ができない注射薬である。
発注時にも卸から指摘があるだろうとは思う。そのためどのような注射剤が自己注射できるのかをあらかじめ知っておく必要性はあまりないかもしれないが、処方箋に載ってくる可能のある薬を知っておくことは仕事の準備をするという点で必要ではある。
近年、糖尿病治療や慢性疾患治療の分野で、患者が自宅で自己注射できる薬剤(皮下注射製剤)が増え、通院の負担軽減やQOL向上に寄与しています。しかし、すべての注射薬が自己注射の対象となるわけではありません。法律や診療報酬制度で定められた対象範囲があり、それに合致しない薬剤は在宅自己注射の対象外とされています。
在宅自己注射の診療報酬制度:C101「在宅自己注射指導管理料」
C101の概要
「在宅自己注射指導管理料(C101)」は、在宅での自己注射を導入・継続する際に医療機関が算定できる診療報酬点数です。
・複雑な場合:1,230点
・月27回以下:650点
・月28回以上:750点
さらに“導入初期加算”や“バイオ後続品加算”などのルールもあり、一定条件下では加算対象になります
算定対象の注射薬とは?
この制度の対象になる注射薬は、「厚生労働大臣が別に定めるもの」という前提があります。
さらに、療担規則等による保険医が投与できる注射薬および在宅医療で使用可能な注射薬の範囲が定められており、それに基づき対象薬剤が追加されています。
対象薬剤の選定基準
制度上、在宅自己注射指導管理料の対象となる薬剤は以下の要件を満たす必要があります。
・学会ガイドラインで在宅自己注射の必要性が認められている
・維持期の投与間隔が概ね4週間以内
・学会からの要望書に安全性や使用指針が記載されているなど、制度上の運用基準をクリアすること
こうした審議を通じて、対象薬剤が逐次追加されています。
在宅自己注射できる薬剤とできない薬剤:法律・制度による分類
診療報酬上の対象薬剤は以下のようになっています。(2025年11月現在)
【厚生労働大臣の定める注射薬】
インスリン製剤、ヒト成長ホルモン剤、遺伝子組換え活性型血液凝固第Ⅶ因子製剤、乾燥濃縮人血液凝固第Ⅹ因子加活性化第Ⅶ因子製剤、遺伝子組換え型血液凝固第Ⅷ因子製剤、乾燥人血液凝固第Ⅷ因子製剤、遺伝子組換え型血液凝固第Ⅸ因子製剤、乾燥人血液凝固第Ⅸ因子製剤、活性化プロトロンビン複合
体、乾燥人血液凝固因子抗体迂回活性複合体、性腺刺激ホルモン放出ホルモン剤、性腺刺激ホルモン製剤、ゴナトロピン放出ホルモン誘導体、ソマトスタチンアナログ、顆粒球コロニー形成刺激因子製剤、自己連続携行式腹膜灌流用灌流液、在宅中心静脈栄養法用輸液、インターフェロンアルファ製剤、インターフェロンベータ製剤、ブプレノルフィン製剤、モルヒネ塩酸塩製剤、抗悪性腫瘍剤、グルカゴン製剤、グルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニスト、ヒトソマトメジンC製剤、人工腎臓用透析液、血液凝固阻止剤、生理食塩液、プロスタグランジンI2製剤、エタネルセプト製剤、注射用水、ペグビソマント製剤、スマトリプタン製剤、フェンタニルクエン酸塩製剤、複方オキシコドン製剤、オキシコドン塩酸塩製剤、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム製剤、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム製剤、デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム製剤、プロトンポンプ阻害剤、H2遮断剤、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム製剤、トラネキサム酸製剤、フルルビプロフェンアキセチル製剤、メトクロプラミド製剤、プロクロルペラジン製剤、ブチルスコポラミン臭化物製剤、グリチル
リチン酸モノアンモニウム・グリシン・L-システイン塩酸塩配合剤、アダリムマブ製剤、エリスロポエチン、ダルベポエチン、テリパラチド製剤、アドレナリン製剤、ヘパリンカルシウム製剤、アポモルヒネ塩酸塩製剤、セルトリズマブペゴル製剤、トシリズマブ製剤、メトレレプチン製剤、アバタセプト製剤、pH4処理酸性人免疫グロブリン(皮下注射)製剤、電解質製剤、注射用抗菌薬、エダラボン製剤、アスホターゼアルファ製剤、グラチラマー酢酸塩製剤、脂肪乳剤、セクキヌマブ製剤、エボロクマブ製剤、ブロダルマブ製剤、アリロクマブ製剤、ベリムマブ製剤、イキセキズマブ製剤、ゴリムマブ製剤、エミシズマブ製剤、イカチバント製剤、サリルマブ製剤、デュピルマブ製剤、ヒドロモルフォン塩酸塩製剤、インスリン・グルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニスト配合剤、ヒドロコルチゾン
コハク酸エステルナトリウム製剤、遺伝子組換えヒトvonWillebrand因子製剤、ブロスマブ製剤、アガルシダーゼアルファ製剤、アガルシダーゼベータ製剤、アルグルコシダーゼアルファ製剤、イデュルスルファーゼ製剤、イミグルセラーゼ製剤、エロスルファーゼアルファ製剤、ガルスルファーゼ製剤、セベリパーゼアルファ製剤、ベラグルセラーゼアルファ製剤、ラロニダーゼ製剤、メポリズマブ製剤、オマリズマブ製剤、テデュグルチド製剤、サトラリズマブ製剤、ビルトラルセン製剤、レムデシビル製剤、ガルカネズマブ製剤、オファツムマブ製剤、ボソリチド製剤、エレヌマブ製剤、アバロパラチド酢酸塩製剤、カプラシズマブ製剤、乾燥濃縮人C1-インアクチベーター製剤、フレマネズマブ製剤、メトトレキサート製剤、チルゼパチド製剤、ビメキズマブ製剤、ホスレボドパ・ホスカルビドパ水和物配合剤、ペグバリアーゼ製剤、パビナフスプアルファ製剤、アバルグルコシダーゼアルファ製剤、ラナデルマブ製剤、ネモリズマブ製剤、ペグセタコプラン製剤、ジルコプランナトリウム製剤、コンシズマブ製剤、テゼペルマブ製剤、オゾラリズマブ製剤、トラロキヌマブ製剤、エフガルチギモド アルファ・ボ
ルヒアルロニダーゼ アルファ配合剤、ドブタミン塩酸塩製剤、ドパミン塩酸塩製剤、ノルアドレナリン製剤、ベドリズマブ製剤、ミリキズマブ製剤、乾燥濃縮人プロテインC製剤、メコバラミン製剤、ベンラリズマブ製剤、マルスタシマブ製剤、ロザノリキシズマブ製剤及びレブリキズマブ製剤
できる薬剤じゃなくて、できない薬剤を教えてほしい。イベニティ:ロモソズマブ製剤は載っていない。
在宅自己注射が制度上認められている注射薬
厚労省から指定され、C101算定対象となっている薬剤の例です。
・インスリン製剤、ヒト成長ホルモン剤など
・遺伝子組換え型血液凝固因子製剤(第VII~IX因子など)
・ソマトスタチンアナログ、GLP-1受容体作動薬(チルゼパチドなど)
・顆粒球コロニー形成刺激因子製剤
・インターフェロンα、グルカゴン製剤、モルヒネ製剤、エタネルセプト製剤など
代表的には、自己注射キットで使用可能な注射薬が中心です。
制度的に在宅自己注射が認められていない注射薬
以下のような注射薬は、法律・制度面で在宅自己注射の対象とされていません:
・点滴注射(抗がん剤、抗菌薬、輸液など)
・医療的管理を要する筋注製剤(ワクチン、持効型精神科薬など)
・高リスク注射薬(静注アドレナリン、重篤な副作用を伴う薬剤)
・特殊な注射技術を要する薬(硝子体内注射、関節内注射など)
・投与間隔が長期かつ機械管理が必要な薬剤(ポンプ注入が必要な薬など)
これらは制度上「自己注射指導管理料」の対象外であり、そもそも指定薬に含まれていません。
薬剤師が知っておくべきポイント
・在宅自己注射可能かどうかは、医療的・安全的な判断だけでなく、制度上の指定の有無によるという認識
・特定薬剤が制度対象となっている背景(学会推奨、安全性、生活継続の必要性など)を説明できること
・自己注射ができない薬剤については、医療機関での投与継続や通院支援など、代替的ケアも提案できるコミュニケーション力の重要性
制度に詳しい薬剤師は、患者さんへの説明や医療チームとの連携において大きな役割を担えます。




