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ガナトンと抗コリン薬を併用してはいけない?
公開. 更新. 投稿者: 45 ビュー. カテゴリ:消化性潰瘍/逆流性食道炎.この記事は約4分35秒で読めます.
目次
イトプリドと抗コリン薬を併用してはいけない?

消化器症状の治療薬として広く使われるガナトン(一般名:イトプリド塩酸塩)。
胃の運動を改善する薬として処方されることが多く、特に食後のもたれ感や胃の不快感に効果が期待されます。
一方で、OTC(一般用医薬品)として販売されている「イラクナ」(イトプリド製剤)もあり、医師の処方がなくても購入可能になっています。
ところが、このガナトン(イラクナ)には抗コリン薬との併用に関して注意点が存在します。医療用添付文書とOTC添付文書ではその表現が微妙に異なっており、薬剤師としてどのように理解し、患者へ説明するかがポイントになります。
ガナトン(イトプリド)の薬理作用
アセチルコリン分解酵素阻害作用
ガナトンはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬として作用します。これにより、消化管神経終末から放出されたアセチルコリンの分解が抑制され、シナプス間隙にアセチルコリンが長く残ることになります。
その結果、消化管平滑筋のムスカリン受容体刺激作用が増強し、胃運動亢進作用を示します。
ドパミンD₂受容体遮断作用
加えて、イトプリドはドパミンD₂受容体遮断作用を持ちます。ドパミンはアセチルコリン放出を抑制するため、これを遮断することでさらにアセチルコリン放出が促進され、胃腸運動が高まります。
→ つまりイトプリドは「アセチルコリンの作用を増強する薬」という位置づけになります。
抗コリン薬の作用
抗コリン薬(代表例:ブチルスコポラミン、ロートエキスなど)は、ムスカリン受容体拮抗薬です。
・消化管平滑筋の過剰な収縮を抑える
・胃腸鎮痙薬として腹痛や過敏性腸症候群に使われる
・一方で副作用として口渇、便秘、排尿障害などが起こりやすい
つまり、抗コリン薬はガナトンとは正反対の薬理作用を持ちます。
医療用ガナトン添付文書での記載
ガナトン(イトプリド塩酸塩)の医療用添付文書には、併用注意薬として以下のような記載があります。
「抗コリン作用を有する薬剤」
理由:本剤の作用を減弱させる可能性がある
→ すなわち「併用注意」に分類されており、絶対に避けるべきではないが、効果が打ち消し合う可能性があるため注意せよ、というニュアンスです。
OTC薬(イラクナ)の添付文書での記載
一方、OTC薬として販売されているイラクナでは添付文書の記載がより強くなっています。
「本剤を服用している間は、次の医薬品を服用しないこと」
その中に「胃腸鎮痛鎮痙薬」「ロートエキス製剤(抗コリン薬)」が含まれている
→ つまりOTCでは「併用しないこと」という併用禁忌に近い扱いになっているのです。
なぜOTCでは厳しい表現になるのか?
この違いの背景には以下のような理由があります。
自己判断による服用リスク
OTC薬は医師の診察を受けずに購入できるため、患者が複数の薬を同時に服用してしまう危険があります。
薬理作用が真逆
イトプリドはアセチルコリン作用を増強、抗コリン薬は抑制という拮抗関係にあるため、理論的には効果が打ち消し合います。
添付文書の記載スタンスの違い
医療用医薬品:医師や薬剤師の管理下で使用 → 「併用注意」で十分
OTC医薬品:自己判断リスクが高い → 「併用しないこと」と強調
実際の臨床での問題点
① 併用による効果の相殺
例えば、ガナトンを処方されている患者が市販の鎮痙薬(ロートエキス配合薬)を併用した場合、ガナトンの消化管運動促進作用は弱まり、十分な効果が得られなくなる可能性があります。
② 高齢者でのリスク
抗コリン薬は高齢者に多い認知機能低下・排尿障害を悪化させる可能性があります。
もしガナトンと抗コリン薬を漫然と併用すれば、副作用リスクが高まります。
③ OTC購入時の説明不足
薬局でイラクナを購入する患者が、同時に「お腹の薬」としてロートエキス配合の市販薬を使ってしまうケースも考えられます。
その場合、添付文書上は「禁止」されているため、薬剤師がきちんと確認・説明しなければなりません。
薬剤師としての対応ポイント
処方薬確認
イラクナを希望する患者には、現在服用中の処方薬にガナトンが含まれていないかを確認。
OTC併用チェック
胃腸鎮痛鎮痙薬や総合感冒薬(ロートエキス配合)を併用していないか確認。
患者説明
「この薬は胃の動きをよくする薬ですが、逆に動きを抑える薬と一緒に飲むと効果が弱まります」
「市販の腹痛止めや風邪薬に含まれる成分と重なることがあるので、必ず相談してください」
まとめ
・ガナトン(イトプリド)はアセチルコリン作用を増強する薬
・抗コリン薬はその作用に拮抗し、効果が相殺される可能性がある
・医療用添付文書では「併用注意」だが、OTC(イラクナ)では「服用しないこと」と厳しく書かれている
・背景にはOTC特有の「自己判断リスク回避」の考え方がある
・薬剤師は処方薬とOTCの両面で確認を行い、患者にわかりやすく説明することが重要



