2025年8月10日更新.2,574記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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経管チューブから投与するのに適さない薬の剤形は?

経管チューブから投与するのに適さない薬の剤形とは?

経管栄養(経腸栄養)は、経口摂取が困難な患者に対して、胃や小腸にチューブを介して栄養を投与する医療行為です。このルートを活用することで、消化管の機能を維持しながら栄養管理が可能となります。

しかしながら、経口投与を前提に設計された薬剤のすべてが経管チューブでの投与に適しているわけではありません。剤形によっては、薬効の減弱や副作用、さらにはチューブの閉塞といったトラブルを引き起こすことがあります。

経口液剤なら安全?

一見、経管投与に適しているように思える「経口液剤」ですが、すべてが安全というわけではありません。

◆シロップ剤の落とし穴:
シロップ剤は、白糖や他の糖類を溶媒とした粘稠な液体です。小児用や高齢者向けの薬剤として広く使用されていますが、以下の理由から経管投与には注意が必要です。

・高濃度糖類:栄養剤と混合すると粘度が急激に増し、チューブの閉塞リスクが高まります。
・pHの問題:多くのシロップ剤はpH4以下の酸性を示すため、栄養剤と化学反応を起こして析出(沈殿)を生じることがあります。
・高浸透圧:浸透圧が高いと腸管内の水分を引き込んでしまい、下痢・腹痛・鼓張などの消化器症状を引き起こします。

◆対処法:
・必ず医師・薬剤師に確認し、必要に応じて水で希釈して使用します。
・栄養剤との混合投与は避け、時間をずらすことが望ましいです。

経管投与に適さない主な剤形とその理由

以下に、特に注意が必要な剤形について、それぞれの特徴と経管投与に不適な理由をまとめます。

①バッカル錠(頬粘膜吸収型):
・設計目的:頬の粘膜と歯茎の間に含み、粘膜からの吸収を狙った製剤。
・問題点:胃や腸に直接送られてしまうと、薬効を発揮できない。

②舌下錠(舌下粘膜吸収型):
・設計目的:舌下の毛細血管からの迅速な吸収。
・問題点:経管では粘膜を通らないため、血中濃度が得られない可能性。

③腸溶性製剤(胃を通過して腸で溶けるタイプ)
・設計目的:胃酸に弱い成分を小腸で溶解させるためのコーティング。
・問題点:粉砕するとコーティングが破れてしまい、胃内で分解・失活する。一部は胃粘膜に障害を与えるリスク。

④徐放性製剤(持続性放出設計)
・設計目的:時間をかけてゆっくり放出させることで服用回数を減らす。
・問題点:粉砕すると一度に大量の有効成分が放出され、過量投与のリスク。効果の持続性が失われる。

⑤カプセル剤(特にミニカプセル、ゲル状のもの)
・設計目的:味のマスキングや時間差吸収。
問題点:内容物の物理的性状により詰まりやすい。オイル状の内容物は栄養剤との混合で相互作用の可能性。
対応策:開封可能なカプセルでも、薬剤師に確認のうえ、適切な調整を。

注意:チューブ閉塞だけでは済まない“薬効の問題”

経管チューブのトラブルとしてまず浮かぶのはチューブ閉塞ですが、さらに深刻なのが以下の問題です。

・薬の効果が出ない
・想定以上の効果が出てしまう
・局所的な粘膜障害を起こす

これらの問題は一見して気づきにくく、知らない間に治療効果が大きく損なわれていることも少なくありません。

代替策・工夫できる点

経管投与が難しい製剤であっても、工夫次第で代替可能なことがあります。

◆粉砕可能な製剤への変更:
医師・薬剤師と相談し、粉砕適応がある通常錠や散剤に変更してもらう。

◆注射剤の経腸投与可否:
一部の注射剤は経管投与でも使用可能なケースあり(ただし基本はオフラベル)。

◆水への懸濁投与:
一部のカプセルや錠剤は、水に懸濁して経管投与可能なことがあります(例:ラベプラゾール)。

◆粘度管理:
シロップなど粘度が高い製剤は、倍以上の水で希釈し、1回ごとにチューブのフラッシュを行うことで閉塞予防。

現場で実際に注意すべきポイント

・粉砕可否:添付文書で「粉砕不可」表記がある場合は厳守
・希釈の有無:必ず水やぬるま湯で希釈し、詰まりや高浸透圧対策を
・時間管理:栄養剤投与のタイミングとずらして投与する
・フラッシュ:投与後に10〜20mLの水でチューブを洗浄
・副作用モニタリング:下痢、腹痛、薬効の過不足など

まとめ:剤形の知識が、医療の質を左右する

経管チューブによる薬剤投与は、医師・看護師・薬剤師の連携があって初めて安全に行える医療行為です。特に剤形の特性を理解し、適切な調整と確認を行うことが、治療の効果と患者のQOLを守るうえで極めて重要です。

「その薬、チューブから投与しても大丈夫?」

という視点を、ぜひ日々の処方チェックや病棟での服薬支援に取り入れてみてください。

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