2025年7月26日更新.2,545記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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低栄養なのに肥満?

クワシオルコル型栄養障害とは

「低栄養」と聞くと、多くの方が「やせ細って骨と皮だけの状態」を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際の臨床現場では、低栄養状態にもかかわらず、むしろ肥満傾向を示すケースが存在します。この一見矛盾するように見える状態は、栄養障害の一つであるクワシオルコル型栄養障害が関与している可能性があります。

クワシオルコルとは、元々はアフリカで発見された小児の栄養障害の呼称で、「赤ん坊を置いて、次の子を産むときになる病気」という意味の言葉に由来します。主にエネルギーは足りているのにタンパク質が慢性的に不足して起こるのが特徴です。
これに対し、同じく小児期に見られる「マラスムス」は、エネルギーもタンパク質も全般的に不足する飢餓型の低栄養です。

成人においても、このクワシオルコル型栄養障害が発生することがあり、その特徴としてBMIは比較的高いのに血清アルブミンが低く、浮腫や脂肪の蓄積を伴うという点があります。

低栄養でもBMIが下がらないのはなぜ?

「低栄養」という言葉が体重やBMIの低下と直結するイメージをもたらしがちですが、実際は以下の理由で体重は維持もしくは増加しているのに、栄養障害は進行しているということが起こります。

エネルギーは足りている
経管栄養や流動食を長期的に摂取している方の場合、糖質や脂質中心の高カロリー製品を継続的に利用すると、必要なエネルギー量は満たされます。

特に寝たきりの方や活動量の少ない方は基礎代謝が低下しているため、推定必要カロリーよりも実際の消費はずっと少なく、結果としてカロリーオーバーに陥りやすい傾向があります。

タンパク質が不足する
一方で、タンパク質摂取が不十分な場合、筋肉の合成や維持に必要な栄養が足りず、筋肉量が減少(サルコペニア)し、血中のアルブミン濃度も低下していきます。これにより、体内の浸透圧バランスが崩れ、浮腫(むくみ)が生じます。

さらに、脂肪は比較的容易に蓄積されるため、見た目はむしろ丸みを帯び、太っているように見えることも少なくありません。これが「低栄養なのに肥満」という矛盾した印象をもたらします。

経管栄養とクワシオルコル型栄養障害

経管栄養(チューブフィーディング)は、嚥下障害などで口から十分な食事が取れない方にとって重要な栄養供給手段です。しかし、その一方で「栄養内容が一様になりやすい」という落とし穴があります。

特にタンパク質含有比率が低い流動食を長期に使うと、以下の問題が生じます。

・血清アルブミン低下
・浮腫や体液貯留
・筋力低下
・免疫機能低下

いわば「栄養失調の一種」でありながら、むしろ体重は横ばい〜増加するため、見落とされることが少なくありません。
こうした状態では、血清アルブミン値の定期的な確認や、体組成(筋肉と脂肪のバランス)の評価が不可欠です。

寝たきり高齢者のリスク

特に高齢で寝たきりの方では、筋萎縮の進行が早く、以下の要素が重なってクワシオルコル型栄養障害に陥りやすくなります。

●筋肉量減少(サルコペニア)
・活動量の低下により筋肉が急激に萎縮。

●基礎代謝低下
・安静臥床で消費カロリーが減り、相対的に糖質・脂質過剰に。

●タンパク質摂取不足
・経管栄養の配合調整が不十分。

●慢性炎症や疾患の影響
・感染症や褥瘡が慢性化しやすい。

結果として、むくんで丸く見えるが、実際には筋肉が減って虚弱が進むという状態に陥ります。

見た目に惑わされない評価が重要

現場で見落とされがちなのは、BMIや体重だけを目安に評価することです。

「体重がある=栄養状態良好」とは限らないことを念頭に置く必要があります。

診断や評価の際は以下の指標も併用します。

・血清アルブミン値(低値ならタンパク不足を示唆)
・浮腫の有無
・握力など筋力評価
・体組成計による筋肉量の測定
・総リンパ球数・炎症マーカー

これらを総合して、隠れた低栄養を早期に発見することが大切です。

栄養管理のポイント

クワシオルコル型栄養障害が疑われる場合、以下の対応を検討します。

●栄養内容の見直し
・流動食や経管栄養の内容を確認し、タンパク質比率の高い製品に変更する。
・必要なら栄養士と相談。

●カロリー制限の調整
・活動量に合わせ、糖質・脂質の供給を適正化。

●定期的な経過観察
・体重だけでなく、血液データや浮腫の改善をモニタリング。

●筋肉維持のための介入
・関節可動域訓練や理学療法を取り入れる。

痩身やサプリメントに頼る前に

脂肪の蓄積が目立つと、家族やケアスタッフが「体重を落としたい」「痩せさせたほうがいい」と思いがちです。しかし、筋肉量の維持・回復が先決です。

極端なカロリー制限や市販の痩身サプリメントは、タンパク質不足を悪化させるだけでなく、全身状態の悪化を招きます。

「むくんでいるから水分制限」「太っているからカロリー制限」と短絡的に判断しないことが重要です。

まとめ

「低栄養なのに肥満」という状態は、決して珍しいものではありません。特に経管栄養や寝たきり高齢者では、クワシオルコル型栄養障害に注意が必要です。

・エネルギーだけ満たされている栄養管理は危険
・BMIが高くても筋肉は減っているかもしれない
・アルブミン低下や浮腫は重要なサイン

この矛盾するように見える病態を正しく理解し、見た目ではなく科学的な指標で評価し、適切に介入することが何より重要です。

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