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振ってはいけない点鼻薬?振ってはいけないスプレー?
公開. 更新. 投稿者:花粉症/アレルギー.この記事は約4分1秒で読めます.
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振ってはいけない点鼻薬・スプレーがある?

薬の使い方の常識を覆す注意事項
点鼻薬や外用スプレーと聞くと、多くの方が「使う前に容器をよく振るものだ」と思うでしょう。特に薬剤が懸濁液(粒子が液に分散している状態)の場合、容器を振らないと有効成分が偏ってしまい、正しい用量が噴霧されなくなります。
そのため、多くの点鼻薬や外用スプレーの添付文書には「使用前によく振ってください」「用時振盪(ようじしんとう)」と記載があります。
しかし、中には逆に「容器を振ってはいけない」と明記されている製剤もあります。
この「振ってはいけない」という指示は非常に珍しく、誤っていつもの癖で振ってしまいがちです。
特に注意が必要な「振ってはいけない」点鼻薬・外用スプレーと、その理由について勉強します。
「振らずに使う」点鼻薬
ベクロメタゾン点鼻液50μg「DSP」(旧ナイスピー点鼻薬)
かつて「ナイスピー点鼻薬」という商品名で販売されていたステロイド点鼻薬が、現在はベクロメタゾン点鼻液50μg「DSP」という名称に変わっています。
ベクロメタゾンは鼻アレルギー治療に使用されるステロイド性抗炎症薬で、通年性アレルギー性鼻炎や季節性アレルギー性鼻炎に適応があります。
この製剤の特徴は、一般的な懸濁液ではなく溶液製剤である点です。
懸濁液であれば使用前に振って有効成分を均一化する必要があります。しかし、このベクロメタゾン点鼻液は特殊な基剤に溶けており、振ると逆に泡立ちや気泡が発生して噴霧機構が詰まる原因になります。
添付文書にもはっきりと次のように記載されています。
・容器は振らずに使用すること。
「振る必要がない」のではなく、振ってはいけないというのは薬剤師としても一度目にすると驚く注意書きです。
なぜ「振ってはいけない」のか?
ナイスピー(現ベクロメタゾン点鼻液「DSP」)は、粘稠性のある溶液をスプレーできるように設計された製剤です。
この基剤は液だれを抑える特徴を持ち、鼻腔内に噴霧すると粘着性により長時間とどまります。これにより有効成分が鼻腔粘膜にしっかりと作用し、効果を持続させます。
しかし容器を振ると、基剤の粘性や気泡の発生でスプレーポンプ内の構造に不具合が生じ、以下のようなトラブルが起きやすくなります。
・噴霧が途中で止まる
・ポンプが詰まる
・適正な容量が出なくなる
特に使い始めの頃に振ってしまうと、そのまま噴霧不良を起こす例も報告されています。
「いつものように振ってから使ったらすぐ出なくなった」というクレームは決して珍しくありません。
一方で「振る必要がある」点鼻薬
ほとんどの点鼻薬は逆に「よく振って使うもの」です。代表的な例を挙げると以下の通りです。
アラミスト点鼻液
→「使用前に容器を上下によく振ること。」
ナゾネックス点鼻液
→「使用前に容器を上下によく振ること。」
フルナーゼ点鼻液
→「使用時振盪」
リボスチン点鼻液
→「懸濁液のため、使用の際にはその都度容器をよく振るよう指導すること。」
これらは懸濁液のため、有効成分が沈殿します。
振らずに使うと薬の濃度が低下し、治療効果が不安定になります。
日頃の癖で、すべての点鼻薬を「使う前に振るもの」と認識しがちですが、ベクロメタゾン点鼻液はその常識から外れた例です。
「振ってはいけない」外用スプレー
ヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「日本臓器」
皮膚保湿剤として処方されるヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「日本臓器」も、振ってはいけないスプレーとして有名です。
この製剤は、泡状で噴霧されるよう設計されていますが、使用前に容器を振ると内部のガスと液が混ざってしまい、泡が上手く形成されなくなります。
添付文書には以下のように明記されています。
・容器を振ってからスプレーすると、泡がスプレーされにくくなるので振らずにスプレーすること。
これも「振らずに使う」一例です。
薬局での患者指導の注意点
薬局で患者さんに説明する際、こうした「例外ルール」を明確に伝えることが大切です。
とくに次のようなポイントを意識しましょう。
・必ず薬の名称を確認する
同じ点鼻薬でも製品ごとに使い方が異なります。
・「振る」「振らない」の確認
「このお薬は振らないでください」と強調しましょう。
・使い始めの初回指導を丁寧に
1回目に振ってしまうとスプレー不良が起きやすいです。
・患者用説明書を活用する
メーカーの情報資材や薬局独自の資料も併用すると理解が深まります。
「同じステロイド点鼻薬だからアラミストと同じ使い方でいいですよね?」と質問されることが多いため、振るか振らないかを混同しやすい製品であると認識しておくと良いでしょう。
おわりに
「薬を使う前に振る」という行為は、正しく使うために必要不可欠な操作として浸透しています。しかし、薬の設計によっては振らないことが正しい使い方になります。
誤った取り扱いによって効果が落ちるだけでなく、噴霧不良や無駄な廃棄につながる場合もあります。
患者さんも薬局スタッフも、「薬によってルールが異なる」ことを改めて意識していただきたいと思います。
もし、点鼻薬や外用スプレーの使い方に不安がある場合は、調剤薬局で遠慮なく質問してください。薬剤師は必ず製品ごとの正しい使用方法を説明します。
薬は正しく使ってこそ本来の効果を発揮します。「振ってはいけない薬がある」という知識をぜひ周囲にもシェアしていただければ幸いです。