記事
デンタルショック予防にニトログリセリン?
公開. 更新. 投稿者:狭心症/心筋梗塞.この記事は約3分59秒で読めます.
54 ビュー. カテゴリ:デンタルショックとは?歯科治療中の意識消失の正体と対策

歯科治療中に患者さんが突然気分を悪くし、意識を失うことがあります。この現象は「デンタルショック」とも呼ばれ、正式には「血管迷走神経反射(vasovagal syncope)」といいます。歯科医院で起こる偶発症の中でも最も頻度が高く、特に局所麻酔時や抜歯などの処置中に発生しやすいとされています。
デンタルショック(血管迷走神経反射)とは?
◆発生機序:
デンタルショックは、歯科治療に対する不安や恐怖、痛みなどのストレスが引き金となり、自律神経のバランスが崩れることで発生します。初めに交感神経が優位になり、心拍数や血圧が上昇しますが、その後、反動で副交感神経(迷走神経)が過剰に働き、心拍数や血圧が急激に低下します。この結果、脳への血流が減少し、意識消失に至ることがあります。
◆症状:
デンタルショックの主な症状は以下の通りです:
・顔面蒼白
・冷や汗
・めまい
・吐き気
・徐脈(心拍数の低下)
・低血圧
・意識消失
これらの症状は、局所麻酔の注射時や抜歯などの処置中、あるいは処置直後に現れることが多いです。
◆発生頻度とリスク要因:
デンタルショックは、歯科治療中に起こる偶発症の中で最も頻度が高いとされています。特に、局所麻酔を行った患者の約0.65%(約150人に1人)に発生すると報告されています。
リスク要因としては、以下が挙げられます:
・若年者や女性
・歯科治療に対する強い不安や恐怖心
・過去に失神の経験がある
・空腹状態での受診
・低血圧や徐脈の既往
◆予防法:
デンタルショックを予防するためには、以下の対策が有効です:
・患者とのコミュニケーション:治療内容や手順を丁寧に説明し、患者の不安を軽減します。
・痛みの管理:表面麻酔や極細の注射針を使用し、麻酔時の痛みを最小限に抑えます。
・体調の確認:空腹や睡眠不足がないかを確認し、必要に応じて治療を延期します。
・リラックスできる環境作り:音楽やアロマなどを活用し、リラックスできる診療環境を整えます。
◆対処法:
デンタルショックが発生した場合、迅速な対応が求められます。以下の手順を参考にしてください:
・治療の中止:直ちに治療を中断し、患者の状態を確認します。
・体位の調整:患者を仰臥位(仰向け)にし、両下肢を30cm程度挙上します。これにより、心臓への血流が増加し、血圧の回復が期待できます。
・酸素投与:必要に応じて、5L/分以上の酸素を投与します。
・バイタルサインの測定:血圧、心拍数、酸素飽和度(SpO₂)を測定し、状態を把握します。
・薬剤の投与:症状が改善しない場合、硫酸アトロピンやエフェドリンの投与を検討します。ただし、薬剤の使用には適切な知識と技術が必要です。
・救急搬送の検討:症状が重篤で改善が見られない場合は、速やかに救急車を呼び、専門医療機関への搬送を行います。
循環器疾患を持つ患者への対応:硝酸薬の使用
狭心症や心筋梗塞などの循環器疾患を持つ患者さんに対しては、歯科治療時のストレスや麻酔薬に含まれる血管収縮薬が発作の引き金となる可能性があります。そのため、予防的に硝酸薬(ニトログリセリン貼付剤)が処方されることがあります。この処方は、通常、循環器内科の医師と連携して行われます。
硝酸薬は、血管を拡張し、心臓への酸素供給を改善する作用があります。歯科治療の1~2時間前に貼付することで、狭心症発作の予防が期待できます。また、治療直前にニトログリセリンの舌下錠やスプレーを使用するケースもあります。
薬剤師としては、患者さんが硝酸薬を使用している場合、歯科治療の予定があることを確認し、医師や歯科医師との情報共有を行うことが重要です。
まとめ
デンタルショック(血管迷走神経反射)は、歯科治療中に起こる偶発症の中でも最も頻度が高く、適切な予防と対処が求められます。患者さんの不安や恐怖を軽減し、痛みの管理を徹底することで、発生リスクを低減できます。また、循環器疾患を持つ患者さんには、硝酸薬の予防的使用が検討されることがあります。薬剤師としては、患者さんの全身状態や服薬状況を把握し、医師や歯科医師との連携を強化することが、患者さんの安全を守る上で重要です。