2025年12月6日更新.2,680記事.

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骨粗鬆症治療薬の投与期間制限 ― テリボン・フォルテオは2年まで?

骨粗鬆症治療薬の投与期間制限 ― テリボン・フォルテオの「2年制限」を中心に

骨粗鬆症の治療薬には、長期にわたって骨折リスクを抑えるためのさまざまな薬が存在します。
しかしその中でも、投与期間に明確な上限が設けられている薬があることは意外と知られていません。

特に、テリパラチド製剤(フォルテオ®・テリボン®)の「通算2年まで」という制限は、保険請求の現場でも非常に重要なポイントになります。
本記事では、この「2年制限」の背景と、他の骨粗鬆症治療薬における投与期間の考え方について、薬剤師の立場から整理していきます。

骨粗鬆症治療薬の分類と特徴

骨粗鬆症の薬は大きく分けて次の2系統に分かれます。

・骨吸収抑制薬 :ビスホスホネート(フォサマック、ボナロン等)、デノスマブ(プラリア)など 破骨細胞の働きを抑え、骨の分解を防ぐ
・骨形成促進薬:テリパラチド(フォルテオ、テリボン)、アバロパラチド(オスタバロ)など 骨芽細胞を活性化し、新しい骨を作る

このうち「骨吸収抑制薬」は、いわば骨を“壊させない”治療。
一方「骨形成促進薬」は、“新しく作る”タイプです。
作用が逆方向のため、併用ではなく、段階的に切り替えることが多いのが特徴です。

テリパラチド製剤(フォルテオ・テリボン)とは?

● フォルテオ®皮下注28.2μg
・一般名:テリパラチド(遺伝子組換え)
・用法:1日1回皮下注(自己注射)
・投与期間:通算24か月(2年)まで
・適応症:骨折の危険性の高い骨粗鬆症

● テリボン®皮下注56.5μg
・一般名:テリパラチド酢酸塩
・用法:1週1回皮下注(医療機関投与)
・投与期間:通算24か月(2年)まで
・適応症:骨折の危険性の高い骨粗鬆症

この2剤はどちらも副甲状腺ホルモン(PTH)製剤であり、骨形成を促す作用を持ちます。
PTHは通常、持続的に分泌されると骨吸収を促進しますが、断続的な投与(間欠投与)により骨形成が優位になることがわかっています。

つまり、“間欠的に少量を投与する”ことで骨を作る方向にスイッチするという、非常にユニークな薬理作用を持っています。

なぜ2年まで? ― 制限の背景

この「2年まで」という制限には、明確な科学的根拠があります。

動物実験での骨肉腫発生
テリパラチドは動物実験(ラット)において、長期投与で骨肉腫の発生が確認されたことから、安全性上の懸念が指摘されました。
人間において同様のリスクがあるという明確な証拠はありませんが、安全域を確保するために生涯投与期間が通算24か月までと定められています。

海外でも同様の制限
アメリカFDAでも、フォルテオの添付文書において「累積2年まで」という制限が記載されています。
これは日本だけでなく、国際的な安全基準として共通しています。

保険請求上の取り扱い(重要ポイント)

実務上もっとも問題になるのが、「フォルテオ→テリボンの切り替え」や「中断後の再投与」の扱いです。

● 通算で24か月まで
フォルテオとテリボンは、いずれも有効成分がテリパラチド(アミノ酸配列が同一または一部改変)であり、薬効分類上も同じPTH製剤に属します。
そのため、両剤を合わせて通算24か月までしか使用できません。

フォルテオ12か月+テリボン12か月 = 通算24か月 → OK
フォルテオ24か月+テリボン追加 → NG(保険請求不可)

この点は、レセプト審査でも厳しくチェックされるポイントです。
特にフォルテオ自己注射後に病院でテリボン注射へ移行するケースでは、薬歴を跨ぐため、医療機関間での情報共有が不可欠です。

投与終了後のフォローと「骨吸収抑制薬」へのスイッチ

PTH製剤のもう一つの特徴は、投与終了後に骨密度が下がりやすいこと。
形成が優位だった骨代謝が、治療中止で再び吸収優位に戻ってしまうためです。

そのため、治療終了後はビスホスホネート系薬やデノスマブへの切り替えが推奨されています。

例:フォルテオ(2年間)→ アレンドロネート(フォサマック) or プラリア(デノスマブ)

スイッチしないと、せっかく増えた骨密度が半年~1年で戻ってしまうことも。

この切り替え戦略は、「アナボリック・シーケンシャル療法」とも呼ばれ、ガイドライン上でも標準的な流れとして定着しています。

他の骨粗鬆症薬における投与期間の考え方

テリパラチド以外にも、長期投与時のリスクや再評価が必要な薬剤があります。

● ビスホスホネート系(アレンドロネート、リセドロネートなど)
原則として5年程度で継続可否を再評価

顎骨壊死・非定型大腿骨骨折などの副作用リスクを踏まえ、「休薬(drug holiday)」を検討することがあります。

● デノスマブ(プラリア®)
明確な上限はありませんが、中止時にリバウンド骨折が報告されています。

中止時にはビスホスホネートへの切り替えが必須。

● SERM(エビスタ、ビビアント)

上限なし。ただし静脈血栓症リスクに注意。

● カルシトニン製剤(エルカトニン)

鎮痛目的で短期間(数か月)の使用が一般的。

実務で注意すべきポイント

(1) 医療機関・薬局間の情報共有
フォルテオ自己注射は在宅治療として、病院→薬局→患者の三者で管理されることが多いです。
転院や転薬局時に「過去の投与期間情報」が共有されていないと、通算制限超過でレセプト返戻となるリスクがあります。

対応例:
・薬歴に「フォルテオ通算○か月」と明記
・患者持参の自己注射手帳の確認
・併用薬(骨吸収抑制薬)への切り替え時期を明示

(2) 途中中断後の再開
フォルテオを中断しても、「中断期間を除いて再開」することは原則認められません。
通算で2年までであり、時間を空けたからといってリセットはされない点に注意が必要です。

(3) 保険請求上の査定
レセプト上では「骨粗鬆症」の診断名が必要であり、単なる“骨量減少”では査定される可能性があります。
特にPTH製剤は高額であるため、診断名と適応の整合性は審査で厳しく見られます。

臨床効果とフォローアップ

PTH製剤による骨折抑制効果は、特に椎体骨折(脊椎圧迫骨折)に対して有効です。
また、骨密度上昇だけでなく、骨の「質」を改善する点でも注目されています。

一方で、テリパラチド製剤の効果を最大限発揮するには、十分なカルシウム・ビタミンD摂取、適度な運動、転倒予防といった包括的ケアが欠かせません。
薬だけで完結する治療ではないことも、服薬指導の際に強調すべきポイントです。

新しい選択肢:アバロパラチド(オスタバロ®)

2023年に登場したアバロパラチド(オスタバロ®)も、PTH受容体作動薬に分類されます。
テリパラチドと同様に骨形成促進薬であり、通算2年までという制限が設けられています。

つまり、フォルテオ・テリボン・タイボップの3剤は、通算2年の上限を共有するグループとして扱われます。
この点も将来的に保険請求上の注意点となるでしょう。

まとめ ― 「2年制限」を正しく理解することの重要性

骨粗鬆症治療は長期戦です。
しかし、薬剤によっては「安全性」や「効果持続性」の観点から、使用期間に明確な制限があります。

中でも、テリパラチド製剤の2年制限は、

・医療機関をまたいだ治療継続
・レセプト審査
・切り替え時の薬剤選定

いずれの場面でも実務上のインパクトが大きいポイントです。

終わりに

骨粗鬆症治療薬は年々多様化し、治療戦略も個別化が進んでいます。
その中で「投与期間の制限」は、単なる添付文書上の注意ではなく、実際の医療現場での安全性と保険適用のバランスを守るためのルールです。

薬剤師としては、
・どの薬がどのくらい使えるのか
・切り替え時に何を確認すべきか
を常に意識し、患者・医師・薬局の間をつなぐ役割が求められます。

フォルテオやテリボンを扱うときには、「通算2年」という数字を、薬歴のどこかにしっかり残しておきましょう。
それが、治療の安全性を守り、無用な査定を防ぐ第一歩です。

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