2025年12月11日更新.2,685記事.

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白斑にビタミンD₃製剤?― 適応外使用としての位置づけと光線療法との併用意義

白斑とはどんな病気か

皮膚に白いまだら状の斑点が現れる「白斑(はくはん)」は、医学的には尋常性白斑(vitiligo vulgaris)と呼ばれます。
皮膚の色を作る細胞「メラノサイト」が何らかの原因で機能を失い、メラニンが生成されなくなることで生じます。

発症部位は顔面、手足、外陰部など、摩擦や刺激を受けやすいところに多く、左右対称に出ることが多いのが特徴です。
日本人の有病率はおよそ1〜2%とされ、決して珍しい病気ではありません。

白斑自体は痛みもかゆみもほとんどありませんが、外見的変化による心理的ストレスが非常に大きく、治療を希望する患者は少なくありません。

白斑の原因とメカニズム

白斑の正確な原因はいまだに解明されていませんが、以下のような要因が関係していると考えられています。

・自己免疫反応:自分のメラノサイトを免疫細胞が攻撃してしまう。
・酸化ストレス:紫外線やストレスにより活性酸素が蓄積し、メラノサイトが損傷する。
・神経因性因子:神経伝達物質がメラノサイトに悪影響を与える。
・遺伝的素因:家族内発症がみられるケースもあり、HLA遺伝子との関連も報告。

このように多因子的な要素が絡み合っており、単一の治療で完治することは難しいとされています。

現在の標準的治療薬

白斑に対して現在、日本で効能・効果が正式に認められている医薬品は限られています。

● ステロイド外用剤(トプシム軟膏など)
抗炎症作用により免疫異常を抑え、残存するメラノサイトの再活性化を促します。
広範囲には使いづらいものの、発症初期や顔面などの限局型白斑に有効です。

● オクソラレン(メトキサレン)
ソラレン誘導体で、光線療法(PUVA療法)と組み合わせて使う薬です。
メトキサレンを塗布または内服後にUVAを照射し、メラノサイトのDNAを刺激して再色素化を促します。
ただし、光線の当てすぎによるやけどや色素沈着の副作用に注意が必要です。

● フロジン外用液(カルプロニウム塩化物)
一見、脱毛症の薬という印象ですが、白斑にも適応があります。
皮膚の血流を促進し、メラノサイトの代謝を改善させる目的で使用されます。
効果は限定的ですが、安全性が高く、他剤との併用に用いられます。

光線療法:白斑治療の主軸

現在の白斑治療で最も中心的なのは、ナローバンドUVB(NB-UVB)療法です。

311nm付近の紫外線を皮膚に照射することで、メラノサイトの再生やメラニン生成を促進します。
PUVA療法に比べ副作用が少なく、顔面・体幹の白斑では60〜70%以上で色素が回復するという報告もあります。

この光線療法と併用できる外用薬の開発が、近年の研究の中心になっています。

ビタミンD₃製剤の登場 ― 適応外使用として

● ビタミンD₃製剤とは
代表的なものには以下の薬があります。
・カルシポトリオール(ドボネックス®軟膏)
・マキサカルシトール(オキサロール®軟膏)
・タカルシトール(ボンアルファ®軟膏)

これらは本来、尋常性乾癬などの角化症に使用される薬です。
角化細胞の増殖を抑え、分化を正常化させる作用を持ちます。

● 白斑への応用の背景
白斑では、メラノサイトの数が減少しているだけでなく、周囲の角化細胞(ケラチノサイト)からの成長因子が減っていることが知られています。

ビタミンD₃製剤には以下のような作用が報告されています。
・メラノサイトの増殖・分化を促進
・チロシナーゼ活性(メラニン生成酵素)を刺激
・免疫応答を抑制し、自己免疫的破壊を緩和
・角化細胞とメラノサイトの相互作用を改善

こうした性質から、白斑に対しても有望ではないかと考えられ、臨床応用が進められてきました。

エビデンスと臨床報告

● 光線療法との併用効果
多くの臨床研究では、ビタミンD₃外用単独よりも、ナローバンドUVBとの併用で有効性が高いことが示されています。

例:
Calcipotriol combined with NB-UVB in the treatment of vitiligo: randomized double-blind trial
→ 併用群では単独群よりも再色素化が早く、反応率も高かった(特に顔面・頸部)。

また、PUVA療法との併用でもメラニン回復の促進が報告されています。

● 安全性
ビタミンD₃外用剤は、ステロイドに比べて皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用が少ないため、顔面・首などの敏感部位にも使いやすいという利点があります。
全身投与では高カルシウム血症のリスクがありますが、外用では通常問題になりません。

なぜ適応外なのか?

日本では、ビタミンD₃外用剤の効能・効果は「尋常性乾癬」「掌蹠膿疱症」「魚鱗癬」などに限られています。
白斑は適応に含まれていません。

これは、国内で白斑に対する承認申請や大規模臨床試験が行われていないためです。
有効性を示す報告は多いものの、まだ標準治療として確立していないため、臨床現場では「適応外使用」として扱われています。

実際の使われ方(臨床例)

光線療法と併用:
 ナローバンドUVB週2〜3回+カルシポトリオール軟膏を毎日外用。
 特に顔・首・体幹で有効例が多い。

ステロイドやタクロリムスが使いづらい場合:
 皮膚萎縮が心配な部位に代替として使用される。

小児や長期治療例:
 安全性を優先してビタミンD₃軟膏を選択するケースもある。

海外での評価

海外では、ビタミンD₃製剤の白斑治療に関する研究が比較的多く行われています。

インド皮膚科学会誌(Indian J Dermatol Venereol Leprol, 2016)
 ナローバンドUVB単独とカルシポトリオール併用を比較した結果、併用群で再色素化率が有意に高かった。

Dermatologic Therapy(2020)
 カルシポトリオール、タクロリムス、UVBの三者併用が最も高い再色素化率を示したとの報告。

海外では、併用療法の一翼として日常的に使用されている国もあります。

ほかの適応外治療との比較

白斑の治療では、ビタミンD₃製剤以外にもさまざまな適応外薬が検討されています。

薬剤名作用機序備考
タクロリムス軟膏免疫抑制(T細胞抑制)顔面白斑で有効性が高い
ピメクロリムス同上タクロリムス代替
プロスタグランジンE₂外用メラノサイト活性化研究段階
レチノイド外用皮膚細胞分化促進刺激性あり注意
ビタミンD₃外用メラノサイト活性化+免疫調整安全性高い

このように、白斑治療は「多剤併用」や「適応外使用」が中心になるケースが少なくありません。

ビタミンD₃製剤の利点と限界

● 利点
・長期使用が可能で副作用が少ない
・光線療法との併用で相乗効果
・ステロイド・免疫抑制剤を避けたい部位に適す

● 限界
・単独での効果は限定的
・即効性はなく、治療には数ヶ月〜1年以上を要する
・保険適用外のため自己負担になる可能性がある(医師の判断による)

まとめ:白斑治療の一助としてのビタミンD₃

白斑の治療は依然として難治ですが、光線療法を中心に、補助的にビタミンD₃外用剤を併用することで再色素化を促すアプローチが広がっています。

ステロイド → 光線療法 → タクロリムス → ビタミンD₃外用
といった流れで、病期・部位・副作用リスクに応じて使い分けられる時代になっています。

ビタミンD₃製剤は、今後より大規模な臨床試験によって位置づけが明確になる可能性があります。
現時点では「保険適応外の補助療法」という扱いながらも、患者の生活の質を支える有用な選択肢のひとつといえるでしょう。

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