2025年8月22日更新.2,594記事.

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ケトアシドーシスと乳酸アシドーシスの違い

ケトアシドーシスと乳酸アシドーシス:仕組みとメトホルミンとの関係

体内の酸塩基平衡が崩れる「アシドーシス」は、しばしば命に関わる危険な状態です。
とくに糖尿病に関連するアシドーシスには大きく2つあります。

・ケトアシドーシス(ketoacidosis)
・乳酸アシドーシス(lactic acidosis)

どちらも血液のpHを急激に低下させますが、原因も治療方針も異なります。
また、糖尿病治療薬のメトホルミンは乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があり、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と混同されやすい場面があります。

ケトアシドーシスとは?

ケトアシドーシスは、インスリン不足や飢餓状態でエネルギー供給が絶たれ、脂肪分解が過剰に進むことでケトン体が急増し、血液が酸性化する病態です。

ケトン体には主に以下の3種類があります。

・アセト酢酸(Acetoacetate)
・β-ヒドロキシ酪酸(β-Hydroxybutyrate)
・アセトン(Acetone)

通常、血中のケトン体は微量ですが、エネルギー代謝が大きく偏ると10倍以上に増加します。

ケトアシドーシスの代表的な原因

●糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
最も有名なケトアシドーシスです。
・1型糖尿病患者に多い
・インスリン分泌が極度に低下
・血糖は著しく上昇(>300mg/dL)
・代謝の行き場がなく脂肪が分解され、ケトン体が増加

アルコール性ケトアシドーシス(AKA)
・慢性大量飲酒者に起こる
・飲酒後の絶食・嘔吐で低血糖となり、ケトン体が増加
・血糖値は正常~低値

●飢餓性ケトアシドーシス
・長期間の絶食
・糖新生の不足と脂肪分解の亢進
・妊婦や小児に多い

いずれも共通してインスリンの相対的不足や糖新生の障害が背景にあります。

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の特徴

糖尿病性ケトアシドーシス
主因:インスリン欠乏
血糖:高値(>300mg/dL)
ケトン体:高値
尿糖:陽性
治療:輸液+インスリン補充+電解質補正

糖尿病患者の血糖上昇に加え、ケトン体増加、代謝性アシドーシスが同時に進行します。

乳酸アシドーシスとは?

一方、乳酸アシドーシスはケトン体ではなく、乳酸(lactate)が蓄積して血液が酸性化する状態です。

通常、乳酸は嫌気性解糖(酸素が十分ないときのブドウ糖代謝)で生じ、肝臓や腎臓で代謝されます。

しかし、以下のような状況で乳酸が急増します。

・組織低酸素(ショック、敗血症)
・重度の肝不全(乳酸の代謝低下)
・大量のアルコール摂取(NADH増加)
・糖尿病治療薬(メトホルミン)の影響

このため、乳酸アシドーシスは「ケトアシドーシス」とは原因も代謝経路も異なります。

メトホルミンによる乳酸アシドーシス

糖尿病治療薬メトホルミンは、肝臓で糖新生を抑えることで血糖値を下げるビグアナイド薬です。

しかし、重大な副作用として乳酸アシドーシスを引き起こすことがあります。

・発症頻度はまれ(年間10万人あたり約3人)
・腎障害や肝障害があるとリスク増大
・大量内服や脱水時に危険性が増す

メトホルミンはミトコンドリア内で電子伝達系を阻害し、乳酸からの糖新生を抑制します。このため乳酸が分解できず蓄積し、代謝性アシドーシスになります。

メトホルミン乳酸アシドーシスの特徴

メトホルミン乳酸アシドーシス
血糖:正常~低値
ケトン体:正常(または軽度上昇)
乳酸:高値(>5mmol/L)
pH:7.35未満(しばしば7.2以下)
発症:腎機能低下、脱水、感染、アルコール多飲時に誘発

診断のポイント
・高乳酸血症
・アニオンギャップ増加
・糖尿病治療薬(メトホルミン)の内服歴

ケトアシドーシスとの違い
糖尿病性ケトアシドーシスと乳酸アシドーシスは、血液検査で区別可能です。

糖尿病性ケトアシドーシス 乳酸アシドーシス
血糖 高値 正常
ケトン体 高値 正常
乳酸 正常~軽度上昇 高値
主な原因 インスリン欠乏 組織低酸素、メトホルミン

実臨床では、ケトアシドーシスと乳酸アシドーシスが混在するケースもあります。たとえば糖尿病性ケトアシドーシス患者がショックに陥ると、乳酸も同時に上昇するため注意が必要です。

飲酒とアシドーシス

アルコールが関与するアシドーシスも重要です。

アルコール性ケトアシドーシス
・大量飲酒+絶食でケトン体が増加
・NADHが増え、糖新生抑制と脂肪分解が進む

乳酸アシドーシス
・NADH過剰で乳酸代謝が障害
・飲酒後の低酸素・脱水が重なると増悪

つまり、アルコールはケトン体増加と乳酸蓄積を同時に引き起こす要因になります。

臨床での重要な見分け方

ケトアシドーシスと乳酸アシドーシスを鑑別するには、血糖、血中ケトン体、乳酸、動脈血ガスを必ず測定します。

チェックポイント
・血糖値が高いか?
・ケトン体が高いか?
・乳酸が高いか?
・病歴にメトホルミン内服があるか?
・飲酒歴があるか?
・重度の脱水や低酸素がないか?

治療の基本方針

糖尿病性ケトアシドーシス
・輸液(生理食塩水)
・インスリン静脈投与
・カリウム補正

乳酸アシドーシス
・輸液と循環維持
・原因治療(低酸素の是正、感染対策)
・メトホルミン中止
・重度では血液透析を考慮

アルコール性ケトアシドーシス
・輸液とブドウ糖投与
・ビタミンB1補充
・禁酒指導

同じ「アシドーシス」でも、治療方針は全く異なるため注意が必要です。

メトホルミンを安全に使うには?

メトホルミンは糖尿病治療に非常に有用な薬ですが、使い方を誤ると乳酸アシドーシスを引き起こします。

●腎機能(eGFR)に応じた投与
・eGFR <30:禁忌
・eGFR 30〜45:減量または中止を検討

●脱水や感染時は中止
・絶食、嘔吐、脱水時に続投は危険

●アルコール大量摂取を避ける
・糖新生抑制に拍車をかける

まとめ

●ケトアシドーシスと乳酸アシドーシスは異なる病態
・ケトアシドーシス=脂肪分解→ケトン体過剰
・乳酸アシドーシス=嫌気性解糖→乳酸過剰

●飲酒は両者を助長する
・ケトン体産生増加
・乳酸代謝障害

●メトホルミンは乳酸アシドーシスの大きなリスク
・腎障害・脱水・アルコールがあると危険

●治療方針は原因によって異なる
・ケトアシドーシス:インスリン
・乳酸アシドーシス:輸液・原因治療・透析
・アルコール性ケトアシドーシス:輸液・ブドウ糖・ビタミン

ケトアシドーシスや乳酸アシドーシスは「ただの脱水」と軽視すると、短時間で重篤化する病態です。
糖尿病治療中の方や飲酒習慣のある方は、症状が現れたときにすぐ医療機関を受診することが大切です。

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