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メトグルコ服用中お酒を飲んじゃダメ?乳酸アシドーシスのリスク
公開. 更新. 投稿者: 12,996 ビュー. カテゴリ:糖尿病.この記事は約7分49秒で読めます.
乳酸アシドーシスとアルコール

「薬を飲んでいるときは、お酒を飲まないほうがいい」
服薬指導ではよく聞く話です。
ただし、アルコールとの相性は薬によってかなり違います。
たとえばフラジール(メトロニダゾール)は、飲酒に注意が必要な薬として有名です。
では、糖尿病治療薬のメトグルコ(メトホルミン)はどうでしょうか。
メトホルミンについても、飲酒には注意が必要です。
その理由として重要なのが、メトホルミンの重大な副作用である乳酸アシドーシスです。
メトグルコは「過度のアルコール摂取者」に禁忌
メトグルコの電子添文では、「過度のアルコール摂取者」が禁忌とされています。
理由は、
肝臓における乳酸の代謝能が低下する。
ためです。
では、なぜアルコールを飲むと乳酸の代謝が悪くなるのでしょうか。
これを理解するには、まず「乳酸がどのように作られ、処理されているのか」を知る必要があります。
糖を分解すると乳酸ができる?
ブドウ糖は細胞内で、
ブドウ糖 → ピルビン酸
と分解されます。
これが解糖系です。
できたピルビン酸は、ミトコンドリアでさらに代謝され、エネルギー産生に利用されます。
一方、
ピルビン酸 ⇄ 乳酸
という反応もあります。
そのため、私たちの体内では普段から乳酸が作られています。
乳酸そのものが「異常な物質」なのではありません。
重要なのは、作られる乳酸と処理される乳酸のバランスです。
肝臓は乳酸を再び糖に戻している
筋肉などで作られた乳酸は血液中に放出され、その一部は肝臓に運ばれます。
肝臓では、
乳酸 → ピルビン酸 → ブドウ糖
という方向に代謝できます。
つまり肝臓には、体内で生じた乳酸を回収して、再びブドウ糖に戻す働きがあります。
筋肉などで生じた乳酸を肝臓でブドウ糖に戻し、再び利用する仕組みをコリ回路といいます。
したがって乳酸アシドーシスを考えるときには、
「乳酸がたくさん作られるか」だけでなく、「肝臓などで乳酸を十分に処理できるか」
も重要なのです。
アルコールを飲むとなぜ乳酸が増える?
アルコールは肝臓で、
エタノール → アセトアルデヒド → 酢酸
と代謝されます。
この過程ではNAD⁺がNADHへ変換されるため、肝細胞内のNADH/NAD⁺比が上昇します。
ここが乳酸との重要な接点です。
乳酸とピルビン酸の反応は、
乳酸 ⇄ ピルビン酸
という可逆的な反応ですが、アルコール代謝によってNADHが増えると、この反応が乳酸側へ傾きます。
つまり、
ピルビン酸 → 乳酸
が進みやすくなり、
乳酸 → ピルビン酸
が進みにくくなります。
さらに、肝臓での糖新生も抑制されます。
その結果、アルコールを大量に摂取すると、乳酸を処理しにくい状態になります。
これが「過度のアルコール摂取者」で乳酸アシドーシスが問題となる理由の一つです。
メトホルミンも乳酸をためやすくする
では、メトホルミンはどうでしょうか。
メトホルミンは主として肝臓での糖新生を抑制することで血糖値を下げます。
その作用にはミトコンドリアでのエネルギー代謝への影響など、複数の機序が関係していると考えられています。
そして乳酸は、糖新生の材料の一つです。
つまり、
乳酸 → ピルビン酸 → ブドウ糖
という乳酸を利用する経路が抑えられると、乳酸が蓄積しやすくなります。
通常量のメトホルミンを適切な患者に使用していれば、乳酸アシドーシスはまれです。
しかし、
- 腎機能低下
- 肝機能障害
- 脱水
- 重症感染症
- 心肺機能が低下した状態
- 過度の飲酒
などが加わると、乳酸が作られる量と処理される量のバランスが崩れる可能性があります。
アルコール+メトホルミンで何が起こる?
ここまでを簡単に整理すると、
アルコール
→ NADH/NAD⁺比が上昇
→ ピルビン酸から乳酸へ傾く
→ 乳酸からの糖新生も進みにくくなる
一方、
メトホルミン
→ 肝臓の糖新生を抑制
→ 乳酸を糖新生に利用する経路も抑えられる
という関係があります。
つまり両者が重なると、乳酸を処理しにくい方向に作用が重なるわけです。
そのためメトホルミン服用中の過度の飲酒には注意が必要なのです。
乳酸アシドーシスとは?
乳酸が増えただけで、すぐに乳酸アシドーシスになるわけではありません。
問題になるのは、乳酸の産生と処理のバランスが大きく崩れ、乳酸が著しく蓄積した場合です。
乳酸アシドーシスでは、
- 悪心・嘔吐
- 腹痛
- 下痢
- 倦怠感
- 筋肉痛
- 呼吸が速くなる
- 意識障害
などがみられることがあります。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスはまれですが、発症すると重篤になる可能性があるため、予防が非常に重要です。
「過度のアルコール」ってどのくらい?
ここが服薬指導では難しいところです。
電子添文には「過度のアルコール摂取者」と書かれていますが、「○mL以上なら禁忌」といった明確な基準が示されているわけではありません。
アルコールの影響には個人差があり、体格、性別、肝機能、腎機能、食事摂取量、飲酒習慣などによっても変わります。
また、「毎日たくさん飲む」ことだけが問題とは限りません。一度に大量に飲む暴飲(binge drinking)にも注意が必要です。
過去のメトグルコの安全性試験では、「アルコール常用者(1日平均アルコール換算でビール大瓶2本以上)」が除外基準とされていました。
ただし、これは「ビール大瓶2本未満なら安全」という意味ではありません。
あくまで臨床試験における一つの基準として考えるべきでしょう。
糖尿病性ケトアシドーシスとの違い
糖尿病には、もう一つ「アシドーシス」と呼ばれる重要な病態があります。
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)です。
乳酸アシドーシスでは乳酸の蓄積が問題になりますが、糖尿病性ケトアシドーシスではケトン体の蓄積が問題になります。
インスリンが著しく不足すると、ブドウ糖を十分に利用できなくなり、代わりに脂肪分解が亢進します。
その結果、肝臓でケトン体が大量に作られます。
つまり、
乳酸アシドーシス → 主に乳酸の蓄積
糖尿病性ケトアシドーシス → 主にケトン体の蓄積
という違いがあります。
「血液が酸性になる」は少しややこしい
「アシドーシス=血液が酸性になる」と説明されることがありますが、ここは少し注意が必要です。
正常な動脈血pHは約7.40で、もともと7より高い値です。
乳酸やケトン体などの酸が増えると、
pH 7.40 → 7.30 → 7.20……
というようにpHが低下します。
これを「血液が酸性側に傾く」と表現します。
したがって、アシドーシスだからといって必ずpHが7未満になるわけではありません。
むしろpHが7を下回るほどの状態は極めて重篤です。
医学的な「アシドーシス」は、日常語の「pH7未満の酸性」と同じ意味ではない点に注意が必要です。
糖尿病患者では低血糖にも注意
メトホルミンとアルコールの問題は乳酸アシドーシスだけではありません。
アルコールは肝臓での糖新生を抑制します。
特に食事を十分に摂らずに飲酒すると、肝臓から血液中へ供給できるブドウ糖が不足することがあります。
メトホルミン単独では低血糖を起こしにくい薬ですが、インスリン製剤やSU薬など低血糖を起こしやすい糖尿病治療薬を併用している患者では、飲酒によって低血糖の危険性が高まる可能性があります。
また、大量飲酒を続けている人では、栄養状態の悪化、肝障害、膵炎なども問題になります。
慢性膵炎によって膵臓の機能が低下すれば、インスリン分泌そのものが低下し、糖尿病につながることもあります。
「メトグルコを飲んでいるから一滴も飲んではいけない」のか?
電子添文上、禁忌なのは「過度のアルコール摂取者」です。
したがって、「メトホルミンを服用している人はアルコールを一滴でも飲んではいけない」と単純化するのも適切ではありません。
一方で、
「少量なら絶対に安全」
という明確な線引きがあるわけでもありません。
特に、
大量飲酒、空腹での飲酒、脱水を伴う飲酒、腎機能が低下している患者
などでは注意が必要です。
「どのくらいなら飲んでもいいですか?」と聞かれたときに、単純に「○杯までなら大丈夫」と答えにくいのはこのためです。
まとめ
メトグルコ服用中の飲酒で覚えておきたいのは、アルコールとメトホルミンの両方が肝臓での乳酸処理に影響するということです。
アルコールを大量に摂取するとNADH/NAD⁺比が上昇し、ピルビン酸から乳酸へ代謝が傾くとともに、乳酸からの糖新生が抑制されます。
一方、メトホルミンも肝臓での糖新生を抑制します。
そのため、
「メトホルミン+過度の飲酒」
は乳酸アシドーシスを考えるうえで避けるべき組み合わせです。
ただし、「過度」が何杯からなのかを一律に決めることはできません。
服薬指導では単に「お酒は禁止です」と伝えるだけではなく、
「大量に飲むと、肝臓が乳酸を処理しにくくなり、メトホルミンの重大な副作用である乳酸アシドーシスの危険性が高まる」
と理由まで説明すると、患者にも飲酒制限の意味が伝わりやすいでしょう。



