2025年8月20日更新.2,591記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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日本人が創った薬

日本人が創り出した薬

「日本人が作った薬」と聞くと、どこか遠い話のように思える人もいるかもしれません。しかし実際には、私たちが日常的に使っている医薬品の中にも、日本人の研究者や企業が生み出したものが数多く存在します。こうした薬は国内だけでなく、世界中の患者の健康を支えています。代表的な日本発の薬や、その開発に尽力した研究者たちの功績について、紹介します。

日本発の画期的な薬たち

まずは分野ごとに、特に有名・重要な日本発の薬を整理してみましょう。

抗菌薬・感染症治療薬
戦後、日本の製薬会社は抗生物質の開発で世界をリードしました。

●カナマイシン
・渡辺賢一博士(明治製菓)が発見したアミノグリコシド系抗生物質。耐性菌にも有効で、世界中で使用されました。

●ミロペネム(メロペネム)
・藤沢薬品工業が開発したカルバペネム系抗菌薬。多剤耐性菌への治療に使われます。

中枢神経系薬
神経疾患領域でも日本の創薬は存在感を放ちます。

●ドネペジル(アリセプト)
・エーザイが開発したアルツハイマー型認知症治療薬。世界90カ国以上で承認され、認知症治療のスタンダードになりました。

●ペランパネル(フィコンパ)
・こちらもエーザイが開発。AMPA受容体を阻害する全く新しい作用機序を持つ抗てんかん薬です。

消化器領域
消化器症状に対する日本発の画期的な薬も多いです。

●ボノプラザン(タケキャブ)
・武田薬品が開発したカリウムイオン競合型酸分泌抑制薬(P-CAB)。プロトンポンプ阻害薬(PPI)とは異なる新しいメカニズムで、逆流性食道炎や胃潰瘍治療に使われています。

●アミティーザ(ルビプロストン)
・後述する久能祐子博士・上野隆司博士が中心となって開発。慢性便秘症に対する革新的治療薬です。

骨粗鬆症治療薬
●エルデカルシトール(エディロール)
・中外製薬が開発したビタミンD誘導体。

●テリパラチド(テリボン)
・旭化成ファーマが創製。骨形成促進作用を持つ骨粗鬆症治療薬。

抗がん薬
●レンバチニブ(レンビマ)
・エーザイが創製した分子標的薬。甲状腺がんや肝細胞がんの治療に用いられています。

プロストンという新しい薬の誕生

ここからは、特に象徴的な日本人研究者による創薬の物語を掘り下げて紹介します。
それが「プロストン系化合物」というまったく新しい薬理クラスを生み出した物語です。

プロストンとは、プロスタグランジン類似の脂肪酸誘導体で、独自の作用機序を持ちます。この領域に挑んだのが、上野隆司博士と久能祐子博士の2人でした。

上野隆司博士と久能祐子博士 共同の功績

1989年、上野博士と久能博士は株式会社アールテック・ウエノを設立しました。当初、少人数で始まった創薬ベンチャーですが、世界に誇る2つの新薬を生み出しました。

レスキュラ(ユノプロストン)
レスキュラ点眼液は緑内障治療薬として日本で初めて承認されたプロストン系医薬品です。緑内障では眼圧を下げることが治療の要になりますが、当時の主力はプロスタグランジン類似薬でした。レスキュラは別の作用メカニズム(房水流出促進)を持ち、治療の新しい選択肢を提供しました。

上野博士はレスキュラの創薬コンセプトを生み出し、分子スクリーニングと薬理研究を主導しました。久能博士は製品化に向けた臨床試験の調整や薬事戦略を担い、事業化に尽力。1994年、日本で承認を取得し、その後FDA承認も果たしました。

アミティーザ(ルビプロストン)
2人の功績の中でも最も国際的な成功を収めたのが、慢性便秘治療薬アミティーザです。

アミティーザは腸上皮に作用し、塩素イオンの分泌を促進することで腸管内容物の水分を増やし、便通を改善します。2006年に米国で承認され、全世界で累計数千億円規模の売上を上げる大ヒット薬となりました。

この上市にあたっては、久能博士が米国でSucampo Pharmaceuticalsを設立し、資金調達・規制当局との交渉・マーケティング戦略をリードしたことが決定的な役割を果たしました。

日本発創薬が世界を変える

アミティーザやレスキュラの成功は、日本の研究者が世界の患者に貢献できることを証明しました。日本の製薬産業は、古くは抗生物質の開発、近年では分子標的薬、バイオ医薬品、核酸医薬品など多彩な分野で世界をリードし続けています。

例えば、
・ドネペジル(アリセプト)
・メロペネム
・レンバチニブ
・ボノプラザン

これらもすべて「日本人が生み出した薬」です。

おわりに

創薬は、科学だけでなく資金調達や薬事、臨床試験、製造、流通といった複雑な工程をすべて乗り越えなければ実現しません。日本人の研究者・起業家が、自らの情熱で未知の領域に挑み、世界の患者に新しい治療を届けてきたことは、もっと誇りに思って良い歴史です。

これからも、日本から新しい薬が生まれ、多くの命を救い、生活の質を向上させることを期待したいと思います。

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