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胃を切除してダイエット?―肥満治療としての胃切除
公開. 更新. 投稿者: 26 ビュー. カテゴリ:栄養/口腔ケア.この記事は約4分42秒で読めます.
目次
胃を切除してダイエット?

「胃を切れば痩せるらしい」
「相撲取りの小錦が胃を切って激やせした」
このような話を、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
極端な表現ですが、「食べられなくなれば痩せる」という発想は直感的には理解しやすく、インパクトもあります。
しかし、胃を切除する手術は、決して“ダイエット目的”で気軽に行われるものではありません。
実際には、これは「美容」や「痩身」ではなく、医学的な肥満治療(減量・代謝手術)として確立された医療行為です。
・小錦さんが受けたとされる手術とは何か
・「胃を切ると痩せる」のは本当なのか
・日本でこの手術は受けられるのか
・保険適用や適応条件はどうなっているのか
・薬物療法(GLP-1受容体作動薬など)との違い
といった点を、勉強していきます。
小錦が受けた「胃を切る手術」とは?
元大関の 小錦八十吉 さんは、現役引退後、体重が300kg近くにまで増加し、健康状態の悪化が大きな問題となっていました。
その後、小錦さんはアメリカで肥満治療のための外科手術を受け、大幅な減量に成功したことで知られています。
このエピソードが広まり、
「胃を切れば痩せる」
「ダイエット手術」
といったイメージが一般にも定着しました。
しかし、重要なのは
これは“最後の手段として行われる医療”であるという点です。
胃を切除する手術は「減量手術(肥満外科手術)」
医学的には、胃を小さくする手術は
減量手術(bariatric surgery)
あるいは
代謝手術(metabolic surgery)
と呼ばれます。
目的は単なる体重減少ではありません。
・高度肥満そのものの改善
・2型糖尿病・高血圧・脂質異常症の改善
・睡眠時無呼吸症候群や関節障害の軽減
・心血管イベント・死亡率の低下
といった、生命予後や生活の質の改善が主な目的です。
代表的な「胃を切る/小さくする手術」
① スリーブ状胃切除術(Sleeve Gastrectomy)
現在、日本で最も多く行われている術式です。
・胃を縦方向に切除し、バナナ状に細くする
・胃の容量が大幅に減少
・食事量が自然に制限される
・食欲ホルモン(グレリン)が減少する
「食べられない」+「食欲が出にくい」 という二重の効果があります。
② 胃バイパス術(Roux-en-Y)
欧米では歴史の長い術式です。
・胃を小さく分ける
・小腸をバイパスし、吸収を抑える
体重減少効果は高い一方で、
・栄養障害
・ビタミン・ミネラル欠乏
・低血糖
などの管理が難しく、日本では実施施設が限られています。
「胃を切れば痩せる」は本当か?
結論から言うと、
「痩せる」は本当だが、「誰でも・簡単に」は大きな誤解です。
確かに、減量手術後は
・体重が20~40%以上減少
・糖尿病が寛解する例も多い
という報告が多数あります。
しかしその裏には、
・一生続く食事制限
・栄養管理(サプリメント必須)
・定期的な医療フォロー
・合併症リスク
が伴います。
「楽に痩せる方法」では決してありません。
日本でこの手術は受けられる?
結論:条件を満たせば受けられる
日本でも、肥満治療目的の胃切除術は実施されています。
特に スリーブ状胃切除術 は、一定条件下で 保険適用 です。
日本での保険適用の目安
代表的な基準(簡略化):
・BMI 35以上
または
・BMI 32以上 + 肥満関連合併症(糖尿病など)
・食事・運動・薬物療法を行っても改善しない
・専門施設での多職種評価を受けている
「痩せたいから」では適応になりません。
自由診療として受けることは可能?
理論上は可能ですが、
・実施施設が非常に限られる
・数百万円単位の費用
・術後フォローを引き受ける医療機関が少ない
といった現実的なハードルがあります。
薬による「ダイエット」との違い
近年は、
・GLP-1受容体作動薬
・GIP/GLP-1受容体作動薬
など、体重減少効果をもつ薬剤が注目されています。
これらは、
・食欲抑制
・胃排出遅延
といった作用で体重を減らしますが、
・中止すると体重が戻りやすい
・長期使用が前提
という特徴があります。
一方、減量手術は
身体構造そのものを変える不可逆的治療です。
薬剤師として知っておきたいポイント
薬局現場では、今後このような患者さんに出会う機会が増えます。
・肥満手術後の患者
・GLP-1製剤使用中の患者
・「胃が小さくなっている」患者
その際に重要なのは、
・錠剤が飲めるか(剤形)
・吸収低下の可能性
・NSAIDs・ビスホスホネートの扱い
・栄養補助(鉄・B12・Ca・VitD)
といった視点です。
まとめ:胃を切るのは「ダイエット」ではない
・胃切除は医学的な肥満治療
・小錦さんの例は「特殊ケース」
・日本でも条件付きで保険適用あり
・強力だが不可逆で、管理が必要
・「痩せたい」だけでは適応にならない
「胃を切れば痩せる」という言葉の裏には、
重い病態と、重い決断があることを忘れてはいけません。




