2025年8月7日更新.2,567記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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アルカリ性食品は体にいい?酸性食品とアルカリ性食品

酸性食品vsアルカリ性食品、健康に差はあるのか?

「肉は酸性だから体に悪い」
「アルカリ性食品を食べれば病気にならない」
「梅干しは酸っぱいけどアルカリ性だから健康にいい」

こんな言葉、どこかで聞いたことはありませんか?

食事と健康は密接な関係があり、日々の食習慣が体調や病気のリスクに影響を与えるのは事実です。しかし、「酸性食品」や「アルカリ性食品」といった言葉に、科学的な根拠がどれほどあるのか、本当に「アルカリ性食品を食べれば健康になれるのか」については、意外と正しく理解されていないのが現状です。

「酸性食品」「アルカリ性食品」って何?

まず、ここでいう酸性・アルカリ性とは、食べ物そのもののpH(ペーハー)ではありません。
レモンや梅干しは酸っぱいので酸性と思われがちですが、実は「アルカリ性食品」に分類されます。

この分類は、以下のように行われます。

◆酸性・アルカリ性食品の分類方法(灰分分析):
食べ物を燃やして残った灰を水に溶かし、その水溶液のpHを測定することで分類します。
つまり「食品を体内で燃焼(代謝)したあとにどんなミネラル成分が残るか」で分けているのです。

硫黄、リン、塩素など → 酸性灰 肉、魚、卵、チーズ、穀類など
カリウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム → アルカリ性灰 野菜、果物、豆、海藻、キノコなど

例外もある?
レモン・梅干し:食べると酸っぱいが、体内ではアルカリ性ミネラルを残すため「アルカリ性食品」

砂糖:精製度が高くミネラルが少ないため、「酸性食品」と分類されることが多い

「アルカリ性食品は体にいい」は本当か?
「酸性食品を食べると体が酸性になって病気になる」
「アルカリ性食品を多く食べれば血液が中和されて健康になる」

…こういった主張は、一部の健康法や書籍、ネット記事などで根強く語られてきました。たしかに、野菜や果物中心の食生活は望ましいとされますが、「アルカリ性だから健康にいい」というのは、あまりに単純化された説明です。

血液のpHは厳密に管理されている

人間の血液のpHは 7.35〜7.45程度の弱アルカリ性 に保たれています。
これは、肺や腎臓などの緻密な調整機構によってコントロールされており、たとえ酸性食品をたくさん食べたからといって、血液が酸性に傾くことはありません。

もし血液のpHが大きく変化すれば、それは深刻な病態(アシドーシスやアルカローシス)であり、生命に関わります。

そもそも、食品に“良い・悪い”はあるのか?

肉は酸性食品だから悪い?
野菜はアルカリ性だから良い?
…そんな単純な善悪で食べ物を区別する考え方は、科学的には意味がないとされています。

たしかに、肉類や加工食品に偏った食生活は、動脈硬化や肥満、生活習慣病のリスクを高めます。
しかし、タンパク質や鉄分、ビタミンB群など、肉には欠かせない栄養素も多く含まれています。

一方、野菜や果物にはミネラルや食物繊維、抗酸化物質が豊富ですが、それだけでは筋肉をつくる材料や代謝に必要な栄養素が不足することもあります。

「バランス」が最も重要

肉も野菜も魚も穀類も、どれか一つだけで健康は作れない

食品を「酸性かアルカリ性か」ではなく、どんな栄養素が入っていて、どんな目的で食べるのかが大事

◆「アルカリ性食品信仰」が広まった背景:
この考え方は、1930年代のアメリカやドイツの自然療法などに端を発して広まったとされます。
その後、日本でも一部の健康法の書籍やマクロビオティック(玄米菜食)などの文脈で紹介され、「酸性食品=悪」「アルカリ性食品=善」という構図が定着しました。

しかし現在では、栄養学の進歩により、ミネラル組成だけで健康への影響を語るのは不適切とされています。

医学的に見る「酸塩基バランス」

体が酸性に傾くと病気になりやすいという説もありますが、これは主に代謝性アシドーシス(pHが酸性側に偏る状態)を指しており、これは病態です。

たとえば、

・重度の腎不全
・乳酸アシドーシス
・ケトアシドーシス(糖尿病などで起こる)

などがその例で、食べ物が原因でなるものではありません。

野菜や果物を積極的にとるべき理由

ここまで読んで、「アルカリ性食品って意味ないのか」と思った方もいるかもしれません。
しかしそれは誤解です。野菜や果物を積極的に摂ることには、明確なメリットがあります。

◆野菜・果物がもたらす健康効果:
・食物繊維による腸内環境の改善
・抗酸化物質による動脈硬化や老化の抑制
・カリウムによる高血圧の予防
・ビタミン類による免疫機能の強化

つまり、「アルカリ性だから」ではなく、栄養価が高いから積極的にとるべきなのです。

「体をアルカリ性に保つために◯◯を食べよう」は科学的に正しい?

残念ながら、体を“アルカリ性に保つ”ために何かを食べる、という考え方自体が誤りです。
体内環境のpHは常に一定に保たれており、食べ物がそこに直接的に影響を及ぼすことはほとんどありません。

ただし、慢性腎臓病の一部などでは、食事の酸塩基負荷を調整することで病状の進行を遅らせる研究もあります。これは、あくまで医師の指導のもとで行われる食事療法であり、一般の健康な人がそこまで気にする必要はありません。

まとめ:「アルカリ性食品=健康」は誤解。大事なのは栄養バランス

「アルカリ性食品は体にいい?」という問いに対して、科学的な答えはこうです。

・アルカリ性食品(野菜・果物・海藻など)は確かに体に良い
・ただし、それは「アルカリ性」だからではなく、含まれる栄養素の質が高いから
・酸性食品(肉や魚など)=悪ではない
・食品の酸性・アルカリ性で健康を決めつけるのはナンセンス
・最も大事なのは、多様な食品をバランスよく摂ること

一時のブームや噂に左右されず、冷静に食の情報と向き合うことが、本当に健康に近づく第一歩です。

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