2025年6月8日更新.2,490記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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HDLコレステロールは高すぎても大丈夫?

HDLコレステロールは高すぎても大丈夫?善玉コレステロールの正体

健康診断で「HDLコレステロールが高い」と言われると、「これはいいことだ!」と思う方も多いでしょう。
確かに、HDLは“善玉コレステロール”と呼ばれ、動脈硬化のリスクを下げる有用な脂質とされています。

しかし一方で、「HDLが高すぎるのもよくないのでは?」という疑問や、「コレステロールは高めが長寿」という情報も飛び交っており、混乱している方も多いのではないでしょうか。

HDLコレステロールとは何か?善玉と呼ばれる理由

HDL(High-Density Lipoprotein)とは、高比重リポ蛋白と訳され、血管内にたまった余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す役割を担っています。

これにより、血管の掃除屋ともいわれ、LDL(悪玉)によって引き起こされる動脈硬化を防ぐ作用があるため、「善玉コレステロール」と呼ばれているのです。

HDLが高いとどうなる?一般的には「良いこと」

基準値とされる範囲(日本人の場合)
・男性:40~80 mg/dL
・女性:50~95 mg/dL

健康診断でHDLが高値を示しても、特に異常を指摘されないケースが多く、HDLが高い=動脈硬化のリスクが低いと解釈されます。

実際、疫学調査でもHDLコレステロールが高い人ほど心筋梗塞の発症率が低いとされており、善玉の名にふさわしい結果が多数示されています。

でも「高すぎるHDL」はどうなのか?

一方で、HDLコレステロールが過剰に高値を示す場合は、以下の点に注意が必要です。

極端な高値(100mg/dL以上)の背景には?
・アルコール過剰摂取:HDLは飲酒によって上昇することが知られています
・薬剤性:フィブラート系薬剤やエストロゲン製剤によるHDL上昇
・胆汁うっ滞性肝疾患
・甲状腺機能低下症
・遺伝的要因(CETP欠損など)

一部の報告では、HDLが100mg/dLを超えると、むしろ死亡率が上昇するという研究もあり、“高ければ高いほどいい”とは言えない可能性も出てきています。

HDLが高いと動脈硬化は防げる?鍵は“バランス”

最近では、HDLやLDLの絶対値だけではなく、両者の比率(LH比)が注目されています。

LH比(LDL÷HDL)とは?
・2.0以下:正常
・2.5以上:動脈硬化のリスクが高い
・1.5以下:血管がきれいで理想的

たとえば、

LDL=135mg/dL、HDL=45mg/dLの場合、LH比=3.0 → 高リスク
LDL=120mg/dL、HDL=60mg/dLの場合、LH比=2.0 → 標準
LDL=100mg/dL、HDL=80mg/dLの場合、LH比=1.25 → 非常に良好

つまり、HDLの高さが単独で重要なのではなく、LDLとの“バランス”が大切だということです。

「コレステロールは高いほうが長生き」って本当?

近年、日本脂質栄養学会などから、「総コレステロールが高めの人のほうが長生きしている」という報告もあり、マスコミなどで取り上げられ話題になりました。

しかし、この説にはいくつかの注意点があります。

“高めが良い”という研究は、虚弱体質やがん患者を含む高齢者を対象にしたものが多い

LDLとHDLの区別がされておらず、総コレステロールのみを指標にしている

また、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症にはLDLの高さが直結しており、そのリスク管理を怠ることは極めて危険です。

脂質異常症という概念と診断基準の変遷

かつては「高脂血症」と呼ばれていたこの病態も、現在では「脂質異常症」とされています。

理由は?:
HDLコレステロールが“高い”ほうがいいという事実があるため、「高脂=悪」という定義が合わない

よって、「LDLが高い」「HDLが低い」「中性脂肪が高い」のいずれかを含めて“脂質異常”と総称するようになった

HDLが高くても他のリスク因子があれば安心できない

コレステロールの評価は単独ではなく、他のリスク因子とあわせて総合的に判断する必要があります。

例えば、
・高血圧
・糖尿病
・喫煙
・慢性腎疾患
・心血管疾患の既往

こうした因子を持つ人は、たとえHDLが高くても、動脈硬化リスクが高いままである可能性があります。

女性とHDLコレステロールの関係

女性はエストロゲン(女性ホルモン)によるHDL上昇効果があり、閉経前はコレステロール値も比較的安定しています。

しかし閉経後は、エストロゲンが低下することで、
・LDLコレステロールが上昇
・HDLコレステロールが低下

このため、閉経後の女性では脂質異常症が急増し、注意が必要です。

高齢者は「低すぎ」もリスク

特に高齢者では、
・栄養不足やがんなどによるコレステロール低下
・体重減少や免疫力低下のサイン

といった背景がある場合もあり、一律に“低い方が良い”とは限りません。

「低コレステロール=健康」と決めつけず、その人の年齢、体格、基礎疾患などを踏まえて判断することが重要です。

コレステロールは悪ではない。体に必要な物質

最後に、忘れてはならないのは、コレステロールは生命活動に不可欠な物質だということ。

コレステロールは、
・細胞膜の構成成分
・各種ホルモン(副腎皮質ホルモン・性ホルモン)の原料
・ビタミンDの材料
・胆汁酸の原料

であり、不足すれば様々な不調をきたす可能性もあります。

・HDLコレステロールが高いのは基本的に良いこと
・ただし、100mg/dLを超えるような極端な高値では背景疾患の可能性を考慮
・LDLとの比率(LH比)が動脈硬化の重要な指標
・年齢や他のリスク因子との総合判断が必要
・コレステロールは必要な物質であり、「悪玉」「善玉」だけで評価しきれない

「HDLが高い=安心」ではなく、「HDLとLDLのバランスで血管リスクを見極める」ことが大切です。
患者さんにとっても医療者にとっても、「数字」ではなく「背景」をみる姿勢が、健康を守る第一歩となるでしょう。

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