2025年8月15日更新.2,581記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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診察なしで薬だけもらうことはできる?

診察なしで薬だけもらうことはできる?

「いつも同じ薬だから、診察なしで薬だけ出してもらえないか」——そんな患者さんの声を耳にすることがあります。実際、「診察はせず、薬だけをもらっている」という人も少なからず存在します。

しかし、それは本当に認められている行為なのでしょうか?

無診察治療とは?─法律上の禁止事項

「無診察治療」とは、医師が患者を診察せずに薬を処方したり、診断書を交付する行為を指します。これについては明確に法的な禁止規定があります。

● 医師法第20条
「医師は、自ら診察しないで治療をしてはならない」

つまり、たとえ患者が「いつもの薬でいい」と希望しても、診察をしないで薬を出すことは医師法に違反します。

● 療養担当規則第12条(無診察治療の禁止)
厚生労働省が定める「療養担当規則」の中でも、次のように記載されています。

医師が自ら診察を行わずに治療、投薬(処方せんの交付)、診断書の作成等を行うことは、医師の判断が的確に行われているとはいえず、保険診療としては認められない。

また、これらの行為は医療倫理上も問題視されており、医療安全の観点からも「極めて不適切」とされています。

実際には「薬だけ」出されている?

理屈では違法でも、実際には診察なしで薬だけが処方されているケースも見受けられます。薬局で処方箋を受け取る側から見ると、次のような実情があります。

・クリニックで医師不在なのに処方箋が出ていることがある
・「どうせ同じ薬だから」と簡単な問診のみで処方されている
・診察室に入らず、受付だけで済ませる患者もいる

このようなケースが横行すれば、いずれ「指導」や「監査」の対象となるリスクがあります。過去にあった医師の不在診療が報道されたケースも、こうした無診察治療の延長線上にあります。

「お薬受診」と外来管理加算の問題

かつて、外来で薬だけをもらう目的の「お薬受診」が社会問題化しました。その背景には「外来管理加算」という診療報酬の存在があります。

● 外来管理加算とは?
患者に処置や検査を行わない再診時に、医師が病状の説明や生活指導を行った際に加算される診療報酬(520円)。患者の不安解消や療養指導などが本来の目的です。

● 2010年のルール改定
2008年に導入された「5分以上の説明を必要とする」という要件は、2010年度の改定で撤廃されました。その代わりに、「お薬だけの受診(お薬受診)」については加算対象外とされました。

● なぜ除外されたのか?
「丁寧な説明に5分必要」としたルールが現場から反発を受けた一方で、患者がろくに診察も受けず、薬だけをもらうケースが横行したことで、不適切な報酬請求(いわば“水増し”)が問題視されたためです。

現場の実情と患者側の意識

薬剤師として現場にいると、「この処方、診察本当に受けたの?」と思うような場面に出会うこともあります。

患者側も「いつもの薬」「体調に変化はない」と考えていると、「わざわざ診察を受ける意味がない」と思ってしまうのも理解できます。しかし、以下のようなリスクがあることも理解すべきです。

● 無診察のリスク
・薬の副作用や相互作用を見落とす
・体調の微細な変化を見逃す
・本来必要な検査がされない

こうしたリスクがあるため、制度上も「診察の上で処方せよ」とされているのです。

「慢性疾患だから同じ薬」は通用するか?

慢性疾患(高血圧・糖尿病・高脂血症など)では、定期的に同じ薬を服用している患者が多く、「変化もないし、診察は不要」という感覚を持ちがちです。

しかし、医師は毎回の診察で以下のような点を確認しています。

・服薬状況(飲み忘れ・自己中断など)
・副作用の有無
・生活習慣の変化
・バイタル(血圧・体重など)

これらを診察・問診で確認することで、薬の継続・変更・中止といった判断がなされているのです。

例外的に「診察なし」が認められる場面はあるか?

一部、以下のようなケースでは「診察省略」または「診察に準じた対応」が行われていることもあります。

● 電話再診・オンライン診療
・コロナ禍では、臨時的措置として電話再診が認められた
・現在も、症状が安定していれば一部で電話再診やオンライン診療が活用されている
・ただし、これも診察の一形態であり、完全な「無診察」ではない

● 処方せんの事後交付
・在宅診療や救急医療などで、やむを得ない場合に限って例外的に処方箋の「事後交付」が認められることもある

これも診察の後に書かれるべきもので、無診察とは異なる

薬剤師ができること─患者への啓発を

薬局では、患者から「今日は診察なしで薬だけもらった」と言われることもあります。そのとき、薬剤師としてできる対応は以下のようなものです。

・「診察がないと、副作用などのチェックが不十分になりますよ」と説明する
・「症状が安定していても、体調の変化に気づくのは診察があってこそです」と伝える
・必要に応じて医療機関に疑義照会をする

医療の信頼性や安全性を守るためにも、薬剤師の目線から適切なアドバイスを行うことが求められます。

まとめ

・「診察なしで薬だけもらう」ことは、法律・制度の上では原則として認められていません。
・医師法第20条、療担規則第12条により「無診察治療」は明確に違法
・外来管理加算は「お薬受診」のような簡易処方を除外
・慢性疾患でも毎回の診察で医師の判断が必要
・電話再診・オンライン診療は診察の代替手段であり「無診察」ではない

患者さんの利便性と医療安全のバランスをどう取るかは、今後の制度設計にも関わってくる大きなテーマです。薬剤師としても、適切な情報提供と啓発を通じて、医療の質を支えていく役割を担っていきたいところです。

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