2025年6月9日更新.2,492記事.

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インスリン製剤の残量確認方法─週1回製剤アウィクリ注の残量

インスリン製剤は「見た目」で管理できるのか?

糖尿病治療の中心を担うインスリン製剤には、速効型・中間型・持効型・混合型など複数の種類があり、その投与形態も多様です。その中でも、最も一般的に使用されているのが「ペン型インスリン製剤」です。

ペン型製剤は、使用者の自己注射を前提とした設計がなされており、その利便性から多くの患者に利用されています。しかし、その一方で「残量確認の難しさ」という問題も存在します。

「あと何単位残っているか確認したい」
「必要量のインスリンが残っていないときはどうすればよいか?」
「新しいペンへの切り替えタイミングは?」

こうした疑問や不安は、患者だけでなく、医療従事者側にも多く寄せられます。
インスリン製剤の残量確認方法の実際と注意点、ペンの構造的限界、そして最新の週1回製剤『アウィクリ注』に関する情報を交えて、勉強していきます。

インスリンペンの残量確認、基本の仕組み

■ 基本的な確認方法は「視認とダイヤル設定」
ペン型インスリンには、薬液が入ったカートリッジが透明または半透明の筒に収められており、残量はその目視と、ダイヤルの設定上限で確認することができます。

■ 重要なポイント
・ダイヤルは、残量以上の単位数には回らない
 たとえば、残量が12単位しかないときは、13単位に設定できず、12単位までしかダイヤルが回らない。

・プランジャーの位置で視覚的に残量を推定
 ペンの後端から見えるピストン位置で、おおよその残量は判断可能(ただし誤差あり)。

・0.5単位刻みか、1単位刻みかで残量設定精度が異なる

ペンの種類と最大投与単位数の違い

インスリン製剤ごとに、「1回で設定できる最大単位数」が異なります。以下は主要製品の一覧です。

分類製品名ペン型名最大設定単位数増分単位
超速効型(食事開始時、食事開始後)フィアスプ注フレックスタッチ80単位1単位
ルムジェブ注ミリオペン60単位1単位
ルムジェブ注ミリオペンHD30単位0.5単位
超速効型(食直前)ノボラピッド注フレックスペン60単位1単位
ノボラピッド注フレックスタッチ80単位1単位
ヒューマログ注ミリオペン60単位1単位
ヒューマログ注ミリオペンHD30単位0.5単位
アピドラ注ソロスター80単位1単位
インスリンアスパルトBS注NR「サノフィ」ソロスター80単位1単位
インスリンリスプロBS注HU「サノフィ」ソロスター80単位1単位
速効型ヒューマリンR注ミリオペン60単位1単位
ノボリンR注フレックスペン60単位1単位
配合溶解ライゾデグ配合注フレックスタッチ80単位1単位
混合型(食直前)ノボラピッド30ミックス注フレックスペン60単位1単位
ノボラピッド50ミックス注フレックスペン60単位1単位
ヒューマログミックス25注ミリオペン60単位1単位
ヒューマログミックス50注ミリオペン60単位1単位
混合型(食事30分前)ヒューマリン3/7注ミリオペン60単位1単位
ノボリン30R注フレックスペン60単位1単位
中間型ノボリンN注フレックスペン60単位1単位
ヒューマリンN注ミリオペン60単位1単位
持効型溶解トレシーバ注フレックスタッチ80単位1単位
ランタス注ソロスター80単位1単位
週1回アウィクリ注フレックスタッチ300単位1単位
配合薬ゾルトファイ配合注フレックスタッチ50ドーズ1ドーズ
ソリクア配合注ソロスター20ドーズ1ドーズ

週1回製剤「アウィクリ注」の残量確認の注意点

■ アウィクリ注とは?
アウィクリ(インスリンイコデク)は、世界初の週1回投与可能な超長時間型インスリンで、2024年に日本国内で発売されました。

・ペン型製剤:フレックスタッチ
・最大投与単位数:300単位(通常のペンの約3〜4倍)
・増分:1単位ごと

■ 残量確認のポイント
・ダイヤルは最大300単位まで設定可能
・たとえば残量が250単位のとき、300単位に設定しようとしてもダイヤルは250単位で止まる。
・複数回にわたる投与計画時には、「残りをいつまで使えるか」を計算しておく必要あり。

■ 他のインスリンと比べた注意点
・投与間隔が週単位であるため、「次回投与時に足りるかどうか」を予測するのが難しい
・大量の単位数が残っているように見えても、1回あたり100単位などの高用量患者には油断禁物
・誤って少ない残量で投与しないよう、患者指導の徹底が重要

ペン型インスリンの残量確認でよくあるQ&A

Q1. 目盛りは残量そのまま表示されるの?
→ いいえ。設定可能な単位数がそのまま残量を表します。
 仮に150単位残っていても、1回に設定できる上限が80単位なら、それ以上には回りません。

Q2. 残量が足りないときはどうする?
→ 2つの方法があります:
・新しいペンに切り替える
・2本使って「分割注射」する(例:10単位残っていて15単位必要 → 10単位+5単位で対応)
※ただし一部ペンでは「途中の分割注射が推奨されない機種」もあります。

薬局や病棟での実務:患者への指導例と注意点

◆指導のポイント
・使用前には必ず空打ち(エアショット)を行う
・設定単位数が表示されない、回らない時は「残量不足」
・途中で止まってしまった場合は、残量不足なので再注射が必要
・残りが少ない時は新しいペンに交換する習慣をつける

◆患者指導の実例
「見た目だけでは判断できないので、投与前に必ず予定単位数までダイヤルが回るか確認してください。回らなければ、残量が足りません。その場合は新しいペンを使いましょう。」

高齢者・視覚障害者のケース

視覚的に残量が確認できない、あるいは手先の感覚に不安のある患者には以下のような配慮が有効です:
・音で残量を把握(クリック音で単位を数える)
・介護者・家族との連携による確認
・ボイスサポート機器の利用(補助ツール)

まとめ:インスリン残量確認は「自立支援」の鍵

ペン型インスリン製剤の残量確認は、単なる機械操作ではなく、患者の自己管理能力を支える大事なスキルです。
薬剤師としては、正しい確認方法の指導だけでなく、患者の生活状況に即したフォローも求められます。

アウィクリ注のような週1回製剤の登場は、投与回数の負担を軽減する一方で、「残量管理の精度」がより重要になります。患者の投与計画に寄り添った残量確認指導を心がけましょう。

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