2025年8月18日更新.2,587記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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夏場に注意が必要な薬一覧

夏場に注意が必要な薬

夏は高温多湿の環境が続き、体調を崩しやすい季節です。熱中症や脱水症だけでなく、薬による副作用が増悪するリスクもあります。とくに高齢者や基礎疾患を持つ方、複数の薬を服用している方では注意が必要です。
夏場にとくに気をつけたい薬について「脱水症に注意する薬」「発汗を抑制する薬」「光線過敏症に注意する薬」「保管に注意が必要な薬」に分けて勉強します。

脱水症に注意する薬

利尿薬
利尿薬は体内の水分や電解質を排泄する薬です。心不全や高血圧、浮腫などに広く使われますが、夏場の発汗と重なることで脱水リスクが高まります。
利尿薬服用中は水分補給をしないほうがいいと誤解している患者もいるので、注意が必要です。

●ループ利尿薬(フロセミドなど)
強力に水分を排泄するため、熱中症や低ナトリウム血症を起こしやすくなります。

●サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジドなど)
比較的作用は穏やかですが、慢性的に低ナトリウム血症をきたすことがあり注意。

●カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトンなど)
高カリウム血症にも注意が必要です。夏場は水分摂取量が増減しやすく、電解質バランスが崩れやすくなります。

SGLT2阻害薬
糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジンなど)は、尿中に糖と一緒に水分を排泄させる作用があります。軽度の利尿効果があるため、暑い時期には脱水・熱中症のリスクが高まります。特に高齢者や他の利尿薬を併用している患者では要注意です。

下剤
便通改善のために下剤を常用している人も少なくありません。特に刺激性下剤を頻繁に使用すると、電解質異常や脱水を引き起こしやすくなります。夏場は汗による水分・電解質の喪失が重なるため、よりリスクが高まります。

メトホルミン(ビグアナイド系薬)
メトホルミン(メトグルコなど)は糖尿病治療の第一選択薬ですが、脱水時に使用すると乳酸アシドーシスのリスクが高まります。夏場に下痢や食欲不振がある場合は特に注意が必要です。

吐き気や下痢の副作用のある薬
抗がん剤やGLP-1受容体作動薬のような、副作用に吐き気や下痢の多い薬には脱水リスクがあるので、注意が必要です。服用期間中のフォローアップが必要です。

発汗を抑制する薬

・抗コリン薬
抗コリン作用をもつ薬は副作用として発汗を抑制し、体温調節機能を阻害します。そのため、炎天下で体温が上がったときに発汗できず、熱中症リスクが高くなります。

・抗パーキンソン病薬(トリヘキシフェニジルなど)
・一部の抗うつ薬、抗精神病薬
・抗ヒスタミン薬(第一世代)

特に高齢者は体温調節機能が低下しているため、抗コリン薬の影響が顕著に現れます。

・抗てんかん薬(ゾニサミド、トピラマート)

ゾニサミド(エクセグラン、トレリーフ)やトピラマート(トピナ)は、発汗を減少させる副作用が知られています。炭酸脱水酵素阻害作用によって汗腺からの水分移動が抑制され、発汗できなくなるためです。特に夏場は運動や作業後に急に高熱を呈することがあるので注意が必要です。

光線過敏症に注意する薬

夏は紫外線が強く、光線過敏症を起こしやすい時期です。光線過敏症は薬が紫外線によって分解され、皮膚に炎症反応を引き起こす現象です。発疹や紅斑、水ぶくれなどが出現します。

抗菌薬
ニューキノロン系(シプロフロキサシン、レボフロキサシンなど)
紫外線暴露で強い紅斑を起こすことがあります。

・利尿薬
サイアザイド系(ヒドロクロロチアジドなど)
光線過敏症の副作用が添付文書にも記載されています。

解熱鎮痛薬
ピロキシカムなどの一部NSAIDsは光線過敏症を誘発することがあります。

その他
抗真菌薬(グリセオフルビン)
抗不整脈薬(アミオダロン)

これらの薬を服用中の患者には、日焼け止めや長袖衣類で紫外線対策を行うよう指導が必要です。

保管に注意が必要な薬

夏は室温や湿度が高く、薬の安定性に影響が出やすい季節です。添付文書に「遮光」「湿気を避けて保存」と記載されている薬は特に注意が必要です。
夏の炎天下の車内は、

光に弱い薬
・ワーファリン錠
・アンカロン錠
・インデラル錠
これらは光によって変色や分解が起きやすいため、遮光袋に入れて保管する必要があります。

吸湿に弱い薬
・アスパラカリウム錠
・バルプロ酸ナトリウム
湿気で崩れたりベタついたりするため、チャック付き袋や乾燥剤と一緒に渡すことがあります。

温度に注意が必要な薬
・ジスロマック錠
・エンドキサン錠
・アルダクトンA錠
高温環境で分解や安定性低下が報告されています。冷所保存や涼しい場所での保管を徹底する必要があります。

軟カプセル製剤
EPA製剤(エパデールなど)は夏場にカプセルが柔らかくなり破損することがあります。魚油製剤のため臭いが残るリスクもあり、自動分包機での一包化は避けるべきです。

夏場に薬を服用する際の一般的注意点

こまめな水分補給
薬による脱水作用や発汗抑制作用がある場合、意識して水分補給を行うことが大切です。

外出時の対策
帽子や日傘、通気性のよい服装で直射日光を避ける。

服薬状況の観察
体調不良や発熱があれば、薬の副作用を疑って医師・薬剤師に相談する。

保存環境の工夫
直射日光を避け、冷暗所に保管。必要に応じて乾燥剤や遮光袋を利用。

まとめ

夏場は暑さや湿気により、薬の副作用や薬剤の安定性に大きな影響が出ます。

・脱水症に注意する薬:利尿薬、SGLT2阻害薬、下剤、メトホルミン
・発汗を抑制する薬:抗コリン薬、抗てんかん薬(ゾニサミド、トピラマート)
・光線過敏症に注意する薬:ニューキノロン系抗菌薬、サイアザイド系利尿薬、NSAIDsなど
・保管に注意が必要な薬:光・湿度・温度に影響を受けやすい薬や軟カプセル製剤

患者への服薬指導や情報提供の際には、夏場特有のリスクを踏まえてアドバイスすることが重要です。薬の安全な使用を支えるのも薬剤師の大切な役割です。

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