2025年9月16日更新.2,625記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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医師の診断が必要なOTC薬とは?

医師の診断が必要なOTC薬とは?

日本の医療制度において、医薬品は大きく分けて「医療用医薬品」と「一般用医薬品(OTC: Over The Counter)」の2つに分類されます。医療用医薬品は、医師の診断と処方せんに基づいて薬剤師が調剤し、患者に渡されます。一方、OTC医薬品は薬局やドラッグストアで一般消費者が購入でき、自分の判断で使用することができます。

しかし一部のOTC医薬品には、「過去に医師の診断を受けた人にしか販売できない」という制限が設けられているものがあります。これがいわゆる 『医師の診断が必要なOTC』 です。

OTC医薬品の位置づけ

OTC医薬品は、軽度な体調不良や一過性の症状を自分で対応できるようにするためのものです。日本ではセルフメディケーションを推進し、国民医療費の削減につなげる政策の一環としてスイッチOTC(医療用から転用された市販薬)が拡大してきました。

OTCの分類
・第1類医薬品:副作用リスクが高いため、薬剤師からの情報提供が必須。例:ロキソニンS、ガスター10など。
・第2類医薬品:リスクは比較的軽度。登録販売者でも販売可能。例:総合感冒薬。
・第3類医薬品:リスクがさらに低い。例:ビタミン剤、整腸薬など。

この枠組みの中で「医師の診断が必要なOTC」は、表向きは一般用医薬品であるにもかかわらず、販売に制限がある特殊な薬として存在します。

「医師の診断が必要なOTC」が設けられた理由

本来OTCは自己判断で使用できる薬ですが、一部の病気については 自己判断による誤診のリスク が高く、安全性を担保するために販売制限がつけられました。

例えば、口唇ヘルペスと似た症状を示す病気は少なくなく、初発の場合は診断が難しいことがあります。安易にOTCを使ってしまうと、重症化や他の疾患の見逃しにつながる恐れがあります。そのため、「過去に医師の診断を受けたことがある人に限る」という条件付きで市販化されたのです。

代表的な例

OTC名効能効果
アシクロビル軟膏α口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
アラセナSクリーム口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
エンペシドL腟カンジダの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
シュトガード腟カンジダクリーム腟力ンジダの再発による,発疹を伴う外陰部のかゆみ(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
シュトガード腟カンジダ坐剤腟力ンジダの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
ヒフールAC口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
ヘルペシアクリーム口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
ミオリエットクリーム腟力ンジダの再発による,発疹を伴う外陰部のかゆみ(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
メディトリート腟カンジダの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
メディトリートクリーム腟カンジダの再発による,発疹を伴う外陰部のかゆみ(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
ラクリシアクリーム口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
アクチビア軟膏口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
アラセナS口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)
セレキノンS過敏性腸症候群の次の諸症状の緩和:腹痛又は腹部不快感を伴い、繰り返し又は交互に あらわれる下痢及び便秘(以前に医師の診断・治療を受けた人に限ります。)

抗ヘルペスウイルス薬(口唇ヘルペス)
・代表商品:アクチビア®軟膏、ヘルペシア®クリーム、アラセナS®軟膏
・効能効果:「口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた方に限る)」
・販売制限理由:初発ヘルペスかどうかの判断が難しいため。初回は症状が重く出ることがあり、医療機関での適切な診断・治療が必要。

膣カンジダ治療薬
・代表商品:メディトリート®、オキナゾール®L100など
・効能効果:「腟カンジダの再発。医師により腟カンジダの診断を受けたことがある方」
・販売制限理由:同様の症状を示す他の性感染症や婦人科疾患との鑑別が困難なため。

現場での薬剤師のジレンマ

薬局の現場では、「これヘルペスだと思うので薬ください」と来局される方は少なくありません。しかし添付文書に基づけば、初めての症状には販売できないことになっています。

・販売できない場合:「過去に診断を受けていないなら医師の受診を勧めます」
・販売できる場合:「以前医師に口唇ヘルペスと診断され、同じような症状を繰り返している人」

薬剤師としては「どう見てもヘルペス」と思っても、診断歴を確認しない限り販売はできません。実際にはお客様に過去の診断を丁寧に聞き取り、思い出していただくことで販売できるケースもあります。

一方で、「覆面調査員」や行政指導のリスクを考えると、安易に販売することもできず、薬剤師は患者対応に頭を悩ませることが多いのが現状です。

消費者心理とOTCの存在意義

本来こうした薬は「病院に行くのは恥ずかしい」「忙しくて受診できない」といった人にとってありがたい存在です。特にカンジダ症のように人に相談しづらい病気ではOTCの価値は大きいはずです。

しかし販売制限があることで、結局は「病院に行ってください」となる場合が多く、患者が期待している「手軽に解決できる薬」というOTCの利点が生かしきれていない現実もあります。

医療費削減とセルフメディケーションの観点

日本の医療費は年々増加しており、軽症疾患はセルフケアで対応することが推奨されています。セルフメディケーション税制もその一環です。

しかし「診断が必要なOTC」が厳格に運用されすぎると、患者は結局受診を選ばざるを得ず、制度の本来の目的と矛盾してしまう可能性があります。

今後の展望

今後は以下のような仕組みが必要と考えられます。

・オンライン診療との連携:初発時にオンラインで医師が診断 → 記録をもとに以降は薬局で再発OTCを購入可能にする。
・薬局でのトリアージ機能強化:薬剤師が適切に鑑別・助言できる環境整備。
・情報共有システム:診断歴を患者自身が記録・提示できる仕組み(マイナポータルなど)。

こうした取り組みにより、OTCの利便性と安全性を両立できる未来が期待されます。

まとめ

・OTC医薬品は自己判断で使用できる薬だが、一部には「過去に医師の診断を受けたことがある人に限る」という制限がある。
・代表例は 口唇ヘルペス治療薬 と 膣カンジダ治療薬。
・初発では誤診や重症化のリスクがあるため、販売が制限されている。
・現場では薬剤師が「販売できない」ジレンマに直面しやすく、患者とのコミュニケーションが重要。
・セルフメディケーション推進とのバランスをどう取るかが今後の課題。

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